太ると精子が悪くなる | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、過去最多の症例数をもとに、太ると精子の状態が悪くなることを示しています。太ると無精子症の方も増加しますので、ご注意ください。

Fertil Steril 2014; 102: 1268(フランス)
要約:2010~2011年に精液検査を行った10,665名の方を対象に、身長、体重の調査を行いました。有意差を示した結果は、下記の通りであり、精子形態異常については有意差を認めませんでした。
BMI     正常(20~25)   高度肥満(>40)
精液量    3.3 mL       2.7 mL
精子濃度   5640万/mL     3940万/mL
総精子数   17100万       9500万
直進率    36.9%        34.7%
無精子症   1.9%         9.1%
クリプト*   4.7%         15.2%
*射出精液を遠心分離してようやく精子が認められたり認められなかったりする状態

解説:BMIと精液所見の関連については、これまでに、511名、530名、2,035名、メタアナリシス(13,077名)が報告されています。小規模な研究では有意差がなく、大規模な研究では有意差がみられていますが、メタアナリシスは種々雑多な方が混在しているため、評価が難しくなっていました。本論文は、単一施設からの過去最多である10,665名の報告であり、貴重な情報を提供しています。ただし、精液所見が悪くなった結果、妊娠率がどうなるかについては、更なる検討が必要です。

なぜ太ると精子の状態が悪くなるのかについては、動物実験のデータが参考になります。食餌によるマウスの肥満は、精子のマイクロアレイの変化や生殖細胞のメチル化の変化により、2世代にわたって代謝異常をもたらすことが報告されています。また、ラットでは、炭水化物が精子のエピジェネティックな変化をもたらし、それが子孫へ遺伝すると考えられています。食餌によるラットの肥満は、精巣上体での精子の貯蔵量を減少させるため、精子が精巣上体に長時間留まることが知られています。これは、酸化ストレスにより精子のダメージを増加させます。逆に運動すると精子の機能を改善させるという報告、あるいは精子形成に必要なSIRT6蛋白が肥満によって低下するという報告もあります。ヒトでのデータはありませんが、肥満と精子悪化の関連はほぼ間違いなさそうです。

下記の記事も参照してください。
2013.2.2「☆BMIが高いと精子の状態が悪くなる」
2013.6.7「☆ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響」