☆ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

BMI増加は男女ともに妊孕性(妊娠する力)低下につながることは、これまで何回か紹介いたしました(2012.10.25「妊娠と体重の関係」2012.10.30「BMIと妊娠」2012.12.3「BMI 35以上は異常卵が増加」2012.12.5「男性のBMIも妊娠に影響」2013.1.21「代謝が悪いと卵と胚の質が低下する」2013.2.2「BMIが高いと精子の状態が悪くなる」)。本論文は、ART妊娠に与えるBMIの影響を男女同時に検討した初めての報告です。規則正しい排卵がある女性のIVFの際には女性のBMI増加により生産率が低下しますが、ICSI(顕微授精)の場合、排卵がない女性の場合、男性の場合には、BMIの影響が大きく現れにくいことを示しています。

Fertil Steril 2013; 99: 1654)(デンマーク)
要約:2006~2010年にARTを実施した女性12,566名、合計25,191周期において、男女のBMIがART妊娠に与える影響を国のデータベースを用い調査しました(PGDと凍結融解胚移植を除外、年齢とタバコの影響を補正)。規則正しい排卵周期がある女性において、過体重(overweight:BMI:25.0~29.9)と肥満(obesity:BMI 30以上)の場合に、正常体重(BMI:18.5~24.9)の方と比べIVFの生産率は0.88倍と0.75倍に有意に低下しました。カップルともにBMI > 25の場合が最もIVFでの生産率が低く、カップル両者のBMI <25の場合と比べ生産率は0.73倍になりました。しかし、ICSIの場合には、BMI増加により生産率が低下しますが有意差は認められませんでした。また、排卵周期のない女性(828名)男性(774名)も、IVFやICSI別によらずBMI増加により生産率が低下しますが有意差はありませんでした。

解説:肥満の頻度は増加の一途をたどっています。2010年の調査によると、デンマークの女性の32~39%、男性の46~57%が肥満です。肥満は、2型糖尿病、高血圧、ある種の癌、脳血管疾患のリスクが増加することが知られていますが、妊孕性の低下も示されています。女性では、肥満細胞は性ホルモンのバランス、レプチン増加、アディポネクチン減少、インスリン抵抗性増加に関係しているため、男性ホルモン増加や無排卵の原因となります。一方、男性では、肥満による精巣温度上昇が精子形成低下に関与するとともに、レプチンや女性ホルモン増加が関与するのではないかと考えられています。
ICSIの場合と男性の場合にBMIの影響が大きく現れない理由は、BMI増加に伴う精子の状態の悪化要因は、ICSIによりカバーされるからと考えられます。一方、排卵がない女性の場合にBMIの影響が大きく現れない理由は、排卵がない女性はBMIが高い方と低い方の両方であるためと考えられます。もちろん、本論文のデータとしては、排卵がない女性と男性の人数が少ないため、もっと大規模な検討がなされた場合に、有意差を認める可能性もあります。
肥満は現代病のひとつでもありますが、妊娠を目指す男女ともに、健康の観点からも、妊孕性の観点からも、BMIを25未満にするように心がけて欲しいと思います。