本論文は、ART治療における体重減少の影響についてのメタアナリシスです。
Fertil Steril 2020; 113: 344(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.09.025
Fertil Steril 2020; 113: 323(スペイン)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.009
要約:2108年までに発表されたART治療とBMI低下(<18.5)に関する38論文(低バイアスの論文のみを対象とする)のメタアナリシスを実施しました。結果は下記の通り(標準体重の方と比べ、BMI<18.5の方のオッズ比と信頼区間で記載、有意差のみられた項目を赤字表示)。
全データ 患者あたり 周期あたり
臨床妊娠率 20論文0.84倍(0.75〜0.95) 9論文0.95倍(0.92〜0.99)
出産率 12論文0.97倍(0.87〜1.09) 8論文0.96倍(0.93〜0.99)
流産率 〜〜〜 17論文1.00倍(0.93〜1.07)
交絡因子補正データ 患者あたり 周期あたり
臨床妊娠率 6論文0.86倍(0.74〜0.99) 4論文0.98倍(0.92〜1.03)
出産率 3論文0.96倍(0.73〜1.28) 4論文0.93倍(0.84〜1.03)
流産率 〜〜〜 7論文1.08倍(0.93〜1.25)
解説:太ると精子にも卵子にも良くないことは有名な事実ですが、痩せた場合の影響を調べた論文は極めて少なく、結論が出ていません。本論文は、ART治療における体重減少の影響についてのメタアナリシスを実施したものであり、BMI<18.5の方は、標準体重の方と比べ、臨床妊娠率は有意に低下しますが、出産率と流産率には有意な変化がないことを示しています。つまり、痩せすぎも良くありません。
コメントでは、痩せた場合の影響を調べた論文が少ないことを指摘し、本論文の重要性を評価しています。一般に、標準体重より10〜15%減少すると排卵や生理が起こらなくなり、BMIと妊娠率の関係は逆U字型になる(BMI高値と低値で妊娠率低下)ことが知られています。
下記の記事を参照してください。
2019.12.28「減量後の妊娠成績:2年間追跡調査」
2019.9.4「太ると卵子が悪くなる理由」
2019.6.10「☆不妊原因と子供の健康について その2:夫婦の体重」
2019.3.3「肥満の方の採卵時合併症は?」
2018.11.26「☆アジア人の肥満と妊娠までの期間」
2018.10.4「☆体外受精を行うなら、肥満女性は痩せる必要はない?」
2017.11.26「BMIは凍結融解胚移植の妊娠率に影響するか?」
2017.9.13「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その4:メタアナリシス」メタアナリシス
2017.7.26「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その3:費用対効果」前方視的検討
2016.12.26「妊娠前のBMIが妊娠率や妊娠予後に及ぼす影響」
2016.12.17「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2」前方視的検討
2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1」前方視的検討
2016.10.27「短期集中型の減量作戦の効果」
2016.6.9「肥満と子宮内膜機能低下の関係」
2016.4.10「太ると妊娠率が低下します」
2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解」
2015.9.7「両親の肥満が胚へ及ぼす影響」
2014.12.24「太ると精子が悪くなる」
2014.1.3「☆太ると着床率も低下する?」
2013.11.21「☆痩せると卵子の質が良くなる!?」
2013.7.9「☆減量手術をするとホルモン値が改善します」
2013.6.28「太るとAMHが低下する?」
2013.6.7「ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響」
2012.12.5「男性のBMIも妊娠に影響」
2012.12.3「BMI 35以上は異常卵が増加」
2012.10.30「BMIと妊娠」