本論文は、全米の体外受精の統計を行っている第3者機関であるSARTのデータを用い、BMIと妊娠率の関係をおよそ24万人の方を対象に調査したものです。
Fertil Steril 2016; 105: 663(米国)
要約:2008~2010年に米国で新鮮胚移植を行った方239,127名の妊娠成績をSARTデータを用いてBMI別に検討しました。結果は下記の通り(BMI 18.5~24.9を対照として倍率で表記)。
全データ
BMI <18.5 18.5~24.9 25~29.9 30~34.9 35~39.9 40~44.9 45~49.9 50<
臨床妊娠率 0.93 1 (37.9%) 0.97 0.90 0.81 0.80 0.75 0.66
流産率 1.11 1 (11.3%) 1.14 1.33 1.40 1.26 1.59 1.87
生産率 0.92 1 (31.4%) 0.94 0.84 0.76 0.73 0.67 0.52
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のみ
BMI <18.5 18.5~24.9 25~29.9 30~34.9 35~39.9 40~44.9 45~49.9 50<
臨床妊娠率 0.92 1 (51.1%) 0.92 0.83 0.67 0.62 0.60 0.67
流産率 0.75 1 ( 8.8%) 1.25 1.67 1.51 1.19 1.93 4.39
生産率 0.96 1 (44.1%) 0.87 0.75 0.62 0.59 0.52 0.43
男性因子のみ
BMI <18.5 18.5~24.9 25~29.9 30~34.9 35~39.9 40~44.9 45~49.9 50<
臨床妊娠率 0.96 1 (45.0%) 0.99 0.87 0.79 0.89 0.65 0.54
流産率 1.10 1 ( 8.8%) 1.15 1.36 1.40 1.06 2.35 1.05
生産率 0.97 1 (38.7%) 0.97 0.82 0.76 0.85 0.58 0.55
解説:全世界で肥満の方(BMI>25)は、1980年に30%でしたが、2013年には38%に増加しています。一方米国では、2010年には過半数の方が肥満です。肥満は健康上の問題を引き起こしますが、妊娠に関しても様々な合併症のリスク因子となります。米国産婦人科学会では、肥満は妊娠糖尿病、妊娠高血圧、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、巨大児、帝王切開率の増加に関与しているという勧告を出しています。さらに赤ちゃんについては、未熟児、死産、奇形、肥満のリスクが増加します。肥満と妊娠治療の関係については、古い報告では関連を否定し、最近の報告では関連を肯定するものが増えています。本論文は、全米およそ24万人を対象にしたこれまでで最大規模の調査であり、BMI増加に伴い臨床妊娠率、生産率が低下し、流産率が増加することを明確に示しています。
このメカニズムについては不明ですが、卵子の質の低下や子宮内膜の受容能低下が推察されます。ただし、いったい何%体重を減らせば妊娠成績が良くなるのかについてのデータはありません。しかし、妊娠中の母児の健康状態を良好にするには、少しでも体重を減らす努力が必要であることに疑いの余地はないでしょう。
下記の記事も参照してください。
2012.10.25「妊娠と体重の関係」
2012.10.30「BMIと妊娠」
2012.12.3「BMI 35以上は異常卵が増加」
2013.1.21「代謝が悪いと卵と胚の質が低下する」
2013.4.29「BMIが高い方のダイエット」
2013.6.7「☆ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響」
2013.6.28「☆太るとAMHが低下する?」
2013.11.21「☆痩せると卵子の質が良くなる!?」
2015.1.25「太った方の卵子は代謝異常で小さい」
2015.9.7「両親の肥満が胚へ及ぼす影響」
2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解」