☆アジア人の肥満と妊娠までの期間 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、アジア人の肥満と妊娠までの期間(TTP = Time To Pregnancy)についての報告です。

 

Hum Reprod 2018; 33: 2141(シンガポール)doi: 10.1093/humrep/dey300

要約:2015〜2017年18〜45歳アジア人(中国、マレー、インド)477名を対象に、肥満度と妊娠までの期間(TTP)を前方視的に検討し、FR(妊孕性)で評価ました(S-PRESTOスタディー)。なお、妊娠を目指して18ヶ月以上の方、糖尿病の方、薬剤服用中の方は除外しました。肥満度の調査項目は、BMISFT(4箇所の皮下脂肪厚の合計)、TBF(総脂肪率)、WC(ウエスト周囲長)、WHR(ウエスト/ヒップ比)、WHtR(ウエスト/身長比)、ABSI(ボディシェイプ指数)としました。BMI 18.5〜22.9の方と比べ、BMI 23.0〜27.4の方のFRは0.66倍、BMI 27.5以上の方のFRは0.53倍に有意に低下しました。SFT値が下位1/4の方と比べ、上位1/4の方のFRは0.58倍に有意に低下しました。TBF値が下位1/4の方と比べ、上位2/4の方のFRは0.56倍、上位1/4の方のFRは0.43倍に有意に低下しました。なお、出産経験のない方にこの傾向は強く現れました。一方、中心性肥満の指標であるWC、WHR、WHtR、ABSIとTTPやFRとの有意な関連は認めませんでした。また、BMI 23〜35はなだらかにFRが低下し、BMI 35で大きく低下し、それ以上のBMIではなだらかに低下しました。

 

解説:BMI高値の方は自然妊娠の場合にTTPが延長(妊娠までの期間が長くなる)することがよく知られていますが、これまでアジア人のデータはありませんでした。また、肥満の種類(脂肪のつき方や分布)に関する検討は今までされていませんでした。アジア人は、BMIが低い方が多いため、白人のデータがそのまま通用するか不明でした。本論文は、アジア人の肥満とTTPを検討した初めての報告であり、アジア人ではBMIの上限が22.9までが良いことを示しています。また、全体的な肥満がTTPに関与しており、中心性肥満とTTPの関連はありません。非常に興味深く貴重な報告です。

 

下記の記事を参照してください。

2018.10.4「☆体外受精を行うなら、肥満女性は痩せる必要はない?

2017.11.26「BMIは凍結融解胚移植の妊娠率に影響するか?

2017.9.13「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その4:メタアナリシス

2017.7.26「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その3:費用対効果

2016.12.17「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2

2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1