肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その3:費用対効果 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1」の記事では、肥満女性に対して6ヶ月のライフスタイル改善プログラムを実施したところ、生産率、正常分娩率、母児の合併症率の改善を認めませんでしたが、自然妊娠率が有意に増加したことをご紹介しました。2016.12.17「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2」の記事では、肥満女性におけるライフスタイル改善の効果のサブグループ解析の結果、ライフスタイル改善プログラムが有効なのは、無排卵の女性であり、ウエストが細い方にはかえって逆効果であることを示しました。本論文は、肥満女性におけるライフスタイル改善の効果についての第3弾、費用対効果についての解析です。

 

Hum Reprod 2017; 32: 1418(ライフスタイルスタディーグループ)

要約:2009〜2012年にリクルートした肥満女性577名(BMIが30以上)をランダムに割り付け、6ヶ月のライフスタイル改善プログラム実施後に妊娠治療を18ヶ月行った群(280名)と、すぐに妊娠治療を行った群(284名)の妊娠成績を前方視的2年間追跡調査を多施設共同研究で行いました。ライフスタイル改善プログラムは、それぞれコーチがつき、食事日誌から毎日の食事を600kcal減少させ(ただし毎日1200kcal以上の摂取)るとともに、毎日1万歩以上歩き、週に2〜3回の中等度のエクササイズを30分以上行うものです。コーチは健康的なライフスタイルによるメリットを説明し、モチベーションを上げるための努力を行いましたが、ライフスタイル改善プログラムからドロップアウトした方は21.8%おられました。結果は下記の通り。

 

ライフスタイル改善プログラム   あり    なし

費用               4324€   5603€

健常児生産率           27.1%   35.2%

健常児1名あたりの費用      15932€  15912€

 

健常児1名あたりにかかる費用(約206万円)は2群間で有意差を認めませんでした。サブグループ解析を行なったところ、ライフスタイル改善プログラムは、無排卵の女性と36歳以上の女性に有効であることがわかりました。また、観察期間が長いほどライフスタイル改善プログラムの効果が有効でした。

 

解説:本論文は、肥満女性におけるライフスタイル改善の効果についての第3弾、費用対効果についての解析ですが、ライフスタイル改善プログラムは2年間の追跡調査期間では有意な費用対効果を認めませんでした。観察期間が長いほどライフスタイル改善プログラムの効果が有効であるため、さらに長期間の追跡調査が必要であるとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1

2016.12.17「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2