☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、肥満女性におけるライフスタイル改善の効果を大規模なランダム化試験により初めて明らかにしたものです。

 

N Engl J Med 2016; 374: 1942(ライフスタイルスタディーグループ)

要約:2009〜2012年にリクルートした肥満女性577名(BMIが30以上)ランダムに割り付け、6ヶ月のライフスタイル改善プログラム実施後に妊娠治療を18ヶ月行った群(280名)と、すぐに妊娠治療を行った群(284名)の妊娠成績を前方視的2年間追跡調査を多施設共同研究で行いました。ライフスタイル改善プログラムは、それぞれコーチがつき、食事日誌から毎日の食事を600kcal減少させ(ただし毎日1200kcal以上の摂取)るとともに、毎日1万歩以上歩き、週に2〜3回の中等度のエクササイズを30分以上行うものです。コーチは健康的なライフスタイルによるメリットを説明し、モチベーションを上げるための努力を行いましたが、ライフスタイル改善プログラムからドロップアウトした方は21.8%おられました。対照群(1.1kg)と比べ、ライフスタイル改善プログラム群(4.4kg)では有意な体重減少を認めました。しかし、健常児生産率は、対照群(35.2%)と比べ、ライフスタイル改善プログラム群(27.1%)で0.77倍に有意に低くなっていました。また、ライフスタイル改善プログラム群と対照群の生産率、正常分娩率、母児の合併症率に有意差を認めませんでしたが、ライフスタイル改善プログラム群では自然妊娠率が1.61倍に有意に増加しました。

 

解説:BMIが30以上の肥満女性は、欧州では4〜21%、米国では32%おられます。肥満は、無排卵やPCOSによる排卵障害の頻度が高く、妊娠まで多くの時間を要することが知られています。また、妊娠中は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、周産期死亡のリスクが高くなります。このため、BMIの上限を設けて妊娠治療をすべきであるという考えもあり、英国と米国の生殖医学ガイドラインでは、肥満女性は減量してから妊娠治療に取り組むべきと明記しています。しかし、小規模な研究はあるものの、大規模なランダム化試験はこれまで行われていませんでした。本論文は、初めての大規模なランダム化試験であり、ライフスタイル改善プログラムは、体重減少はするものの、明らかな妊娠率改善にはつながらないことを示しています。大変興味深く、重要なデータを示しています。

 

今回ご紹介した論文は、ガイドラインに記載してある常識も根拠に乏しいという一例です。かつての常識は常に疑いの目で見る必要があります。特に、文献的根拠がなく、何となく想像されていたストーリーは怪しいですので、これからも注意する必要があります。