両親の肥満が胚へ及ぼす影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、両親の肥満が胚へ及ぼす影響をマウスで検討したものです。

Hum Reprod 2015; 30: 2084(オーストラリア)
要約:3週齢のC57BL6マウス7%脂肪食(対照群)と21%脂肪食(肥満群)を8週間以上与え、排卵誘発剤投与後、採卵、受精し、タイムラプスで観察しました。対照群メスx対照群オス、対照群メスx肥満群オス、肥満群メスx対照群オス、肥満群メスx肥満群オスの4群で比較しました。対照群と比べ肥満群では、メスの体重は18%増加し、オスの体重は15%増加しました。両親肥満群の胚盤胞到達率は、母体の単独肥満群より11%減少し、父親の単独肥満群より15%減少しました。両親肥満群では、2~3細胞への分割が1時間遅く、胚盤胞到達時間が6時間遅く、胚盤胞細胞数が有意に少なく透明帯が有意に薄くなっていました。また、両親肥満群では、糖の消費が有意に早くなっており、これはGLUT1発現増強を伴っていました。

解説:世界中で30%以上の方が肥満(BMI>30)であるとのWHO報告があります。肥満は、様々な疾患の原因であるだけでなく、妊娠にも大きな影響を及ぼすことが知られています。これまで、母親の肥満と父親の肥満が別々に検討されていましたが、両親の肥満の影響を検討したものはほとんどありませんでした。本論文は、実験条件を一定に保つことが可能なマウスで、肥満が胚へ及ぼす影響を検討したところ、両親の肥満が胚発生にマイナスに働くことを初めて示したものです。

両親肥満群の胚で透明帯が薄くなっていることは、周囲の環境の影響を受け易いことを意味します。細胞内への糖の取り込みが亢進していることは、細胞内での「糖化」、すなわち酸化ストレス増加を示しています。また、代謝の変化は、将来の成人病の素地を形成する可能性があります(Barker仮説)。本論文は、あくまでもマウスでの検討ですから、そのままヒトにあてはめることはできません。しかし、肥満は、男女ともに妊孕性(妊娠できる力)を低下させる大きな要因であることに疑いの余地はありません。

細胞の「糖化」については、妊娠のみならず健康にも極めて重要なことですので、改めてご紹介したいと思います。

BMIと妊娠については下記の記事を参照してください。
2012.10.25「妊娠と体重の関係」
2012.10.30「BMIと妊娠」
2012.12.3「BMI 35以上は異常卵が増加」
2013.1.21「代謝が悪いと卵と胚の質が低下する」
2013.4.29「BMIが高い方のダイエット」
2013.6.7「☆ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響」
2013.6.28「☆太るとAMHが低下する?」
2013.11.21「☆痩せると卵子の質が良くなる!?」
2015.1.25「太った方の卵子は代謝異常で小さい」

タイムラプスについては、下記の記事を参照してください。
2013.7.13「☆適切な時期に適切に分割する胚が良好胚」

Barker仮説については下記の記事を参照してください。
2012.11.8「☆妊娠中の栄養と出生児の健康:Barker仮説、DOHaD」