太ると卵子が悪くなる理由 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、BMIにより卵胞液中のmiRNAが変化することを示したものです。

 

Fertil Steril 2019; 112: 387(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.04.001

Fertil Steril 2019; 112: 245 (イタリア)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.04.035

要約:2014〜2016年に採卵し、卵胞液を採取し、卵胞液中の細胞外小胞(EV)-miRNAを検査した133名を対象に、BMIと卵胞液中のmiRNAの関係について横断研究を実施しました。BMI増加に伴い18種類のEV-miRNAが有意に変化しました。種々の交絡因子で補正後、Hsa-miR-328のみが有意差のあるmiRNAとして抽出されました。PCA分析により、第一主成分としてmiRNAが挙げられ、第一主成分はBMIと有意な関連が認められました。京都遺伝子ゲノム百科事典(KEGG=Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomesにより解析したところ、EV-miRNAの遺伝子ターゲットとして、P13K-Aktシグナル、ECM受容体相互作用、局所的癒着、Fox0シグナル、卵子減数分裂経路が見出されました。

 

解説:BMI増加や肥満により、卵胞環境の変化が生じ、卵成熟障害や採卵数低下が起きることが知られています。また、BMI>25の方では妊娠率低下があるとされています。しかし、その分子生物学的メカニズム関する検討は行われていませんでした。miRNA(別名、ncRNA=ノンコーディングRNA、タンパク質へ翻訳されないRNA)は、他の遺伝子発現を調節するという、生命現象において重要な役割を担っています。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、BMIにより卵胞液中のmiRNAが変化することを初めて示したものです。

 

コメントでは、ライフスタイルの重要性を述べており、食事、肥満、運動、喫煙などにより、生殖細胞の遺伝子にエピジェネティックな変化が生じること、この中にはmiRNAも含まれることを示しています。また、ライフスタイルの改善により、これらの変化は改善が可能であるとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2019.6.10「☆不妊原因と子供の健康について その2:夫婦の体重

2018.10.4「☆体外受精を行うなら、肥満女性は痩せる必要はない?

2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解

2014.12.24「太ると精子が悪くなる