肥満の方の採卵時合併症は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、肥満の方(BMI 40〜60)の方の採卵時合併症についての後方視的検討です。

 

Fertil Steril 2019; 111: 294(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.10.015

Fertil Steril 2019; 111: 254(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.11.008

要約:2012〜2017年BMI 40〜60で採卵した方144名と年齢をマッチさせたBMI 40未満の方1016名を対象に、採卵時合併症について比較検討しました。1924回の採卵のうち1924回(98.8%)は静脈麻酔(全身麻酔)により実施しました。BMI 40以上の方には、麻酔合併症や妊娠出産に伴う母児のリスクの説明、体重減少プログラムを個別に実施し、麻酔にはフェンタニルとプロポフォールを用いました。なお、BMI 60以上の方には院内の指針により採卵は行いませんでした。気管内挿管や入院が必要になった方は一人もおられませんでした。BMI 40以上の2名(0,8%)でラリンジアルマスクが必要であり、16名(6.3%)で経口/経鼻エアウェイが必要でしたが、BMI 40未満ではそれぞれ、0名(0%)と17名(1.0%)でした。BMIの増加に伴い、麻酔薬(フェンタニルとプロポフォール)使用量が増加し、麻酔時間が長くなりました。経腹採卵が必要となったのは、BMI 40以上の18名(7.0%)、BMI 40未満の15名(0.9%)でした。

 

解説:BMI 40以上をClass III肥満、BMI 50以上をclass IV肥満と呼びます。このような肥満の方の採卵に際してのリスクを知ることが重要ですが、そのような検討はほとんど行われていませんでした。本論文は、肥満の方(BMI 40〜60)の方の採卵時合併症についての後方視的検討したもので、マイナートラブルは増加しますが重大なリスクがなかったことを示しています。

 

米国生殖医学会(ASRM)は、妊娠に伴う母児合併症と麻酔や手術に伴うリスクを勘案し、BMI<35での妊娠を推奨しています。コメントでは、BMI 40〜60の方の採卵も比較的安全にできることを示した本論文のチャレンジに賞賛を讃えるとともに、患者さんにはリスクについて十分説明すべきであるとしています。日本では、BMI 40〜60の方はほとんどおられませんので、あまり心配はないでしょう。

 

下記の記事を参照してください。

2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解