本論文は、低エネルギー食の効果に関する検討です。
Fertil Steril 2020; 114: 1256(オーストラリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.06.033
Fertil Steril 2020; 114: 1175(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.033
要約:妊娠を目指している18〜38歳の肥満女性(BMI 30〜55)164名を対象に、SNSによる参加を募集し、スタンダードなダイエット食群79名と低エネルギー食群85名の2群にランダムに分け、12週間食事療法を実施し、48週間までの妊娠予後(妊娠までの期間=TTP=Time To Pregnancy)を前方視的に検討しました。食事内容は下記の通り。なお、両群ともに、毎日10,000歩の歩行を実施しました。
スタンダードダイエット食:現在の摂取カロリーから500カロリー減らす
低エネルギー食:ネスレ社VLCD食(Optifast)2食、低炭水化物野菜2カップ+赤肉150g+2カップのオイル1食
12週後の体重減少は、スタンダードダイエット食群で3.1%、低エネルギー食群で11.9%であり、TTPは、スタンダードダイエット食群(中央値141日)と比べ低エネルギー食群(中央値51日)で有意に短くなっていました(妊娠率は、スタンダードダイエット食群41%、低エネルギー食群59%)。
解説:およそ20%の女性は肥満であり、肥満は妊孕性低下をもたらすことが明らかになっていますが、どの程度痩せれば良いかについては不明です。肥満による妊孕性低下のメカニズムには様々なものが考えられます(無排卵、卵子の質の低下、卵胞発育障害、子宮内膜受容能異常、インスリン抵抗性、炎症、卵子成熟障害など)。5%体重減少により無排卵の解消ができたとの報告がありますが、それ以上の体重減少については賛否両論があり、一定の見解が得られていません。これまで、低エネルギー食は体重減少に有効であることが示されていますが、妊活への有効性については明らかにされていませんでした。本論文は、低エネルギー食の効果を検討したものであり、スタンダードダイエット食と比べ、体重減少が早くTTPが有意に短縮することを示しています。
コメントでは、痩せると妊娠率が上がるのは理解できますが、痩せるまでの時間が問題であり、悠長に待っていられないのが現実であるとし、本論文の低エネルギー食の効果に期待を寄せています。一方で、スタンダードダイエット食群では、わずか3.1%の体重減少にも関わらず妊娠率は41%もあり、この程度でも十分効果的であるとしています。また、スタンダードダイエット食群(32%)と比べ低エネルギー食群(12%)ではドロップアウト(脱落者)が少ないことを指摘し、体重減少の立ち上がりが早い低エネルギー食群はダイエットを前向きに捉え継続しようとする意識が芽生えるのではないかとしています。
肥満にお悩みの方は、低エネルギー食にぜひ挑戦してみてください(ネスレ社のホームページを参照してください。英語バージョンにしか記載されていませんので、日本では未販売のようです)。
下記の記事を参照してください。
2020.12.9「☆夫婦のBMIと妊娠しやすさ」
父親の影響については下記の記事を参照してください。
2020.7.18「父親のBMIがお子さんに与える影響」
2020.6.28「☆母子の健康状態に及ぼす父親の健康状態の影響は?」
2018.3.11「☆夫婦の健康状態がお子さんに影響する?」
2015.9.7「両親の肥満が胚へ及ぼす影響」
母親のBMIと妊娠については下記の記事を参照してください。
2020.6.23「女性の肥満は凍結胚移植には影響しない」
2020.4.25「ART治療における体重減少の影響は?」
2019.12.28「減量後の妊娠成績:2年間追跡調査」
2019.9.4「太ると卵子が悪くなる理由」
2019.6.10「☆不妊原因と子供の健康について その2:夫婦の体重」
2019.3.3「肥満の方の採卵時合併症は?」
2018.11.26「☆アジア人の肥満と妊娠までの期間」
2018.10.4「☆体外受精を行うなら、肥満女性は痩せる必要はない?」
2017.11.26「BMIは凍結融解胚移植の妊娠率に影響するか?」
2017.9.13「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その4:メタアナリシス」メタアナリシス
2017.7.26「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その3:費用対効果」前方視的検討
2016.12.26「妊娠前のBMIが妊娠率や妊娠予後に及ぼす影響」
2016.12.17「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2」前方視的検討
2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1」前方視的検討
2016.10.27「短期集中型の減量作戦の効果」
2016.6.9「肥満と子宮内膜機能低下の関係」
2016.4.10「太ると妊娠率が低下します」
2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解」
2015.9.7「両親の肥満が胚へ及ぼす影響」
2014.12.24「太ると精子が悪くなる」
2014.1.3「☆太ると着床率も低下する?」
2013.11.21「☆痩せると卵子の質が良くなる!?」
2013.7.9「☆減量手術をするとホルモン値が改善します」
2013.6.28「太るとAMHが低下する?」
2013.6.7「ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響」
2012.12.5「男性のBMIも妊娠に影響」
2012.12.3「BMI 35以上は異常卵が増加」
2012.10.30「BMIと妊娠」