本論文は、女性のBMIによる影響をドナーとレシピエントで分けて調査した興味深い報告です。
Fertil Steril Rep 2021; 2: 58(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.10.006
要約:2008〜2015年にドナー卵子を用いて胚移植を実施したレシピエント932名、1651周期において、ドナー(338名)とレシピエントのBMIと妊娠成績の関連について後方視的に検討しました。平均BMIは、ドナー22.6、レシピエント24.6でした。ドナーのBMIと妊娠成績にはいかなる関連も認めませんでした。一方、正常BMI群と比べ、レシピエントのBMI>35の場合に妊娠判定陽性率と出産率が有意に高くなっていました。また、正常BMI群と比べ、レシピエントのBMI<18.5の場合に早産率が有意に低下し、レシピエントのBMI>35の場合に早産率が有意に増加しました。このため、正常BMI群と比べ、レシピエントのBMI>35の場合に低体重児が有意に増加しました。
解説:女性のBMIが妊孕性に影響することが知られていますが、卵子に影響するのか着床(子宮)に影響するのかについては、賛否両論で結論が得られていませんでした。ドナー卵子を用いれば、この問題は明らかにされると考えられますが、これまでに発表された2論文の結論は真逆です。スペインのグループ(1092周期)はドナーのBMIもレシピエントのBMIも妊娠成績には影響しないとし、米国のグループ(235周期)はドナーのBMI増加に伴い臨床妊娠率と出産率が低下するとしています。本論文は、このような背景をもとに行われた最大規模の検討であり、ドナーのBMIの影響はなく、レシピエントのBMIの影響があることを示しています。すなわち、女性のBMIは卵子に影響するのではなく、着床(子宮)に影響するものと考えられます。しかし、それぞれの研究に大きな違いが認められるため、結論を導くためには今後の更なる検討が必要です。
下記の記事を参照してください。
2021.1.25「減量手術によるART成績」
2020.12.27「低エネルギー食の効果は?」
2020.12.9「☆夫婦のBMIと妊娠しやすさ」
2020.6.23「女性の肥満は凍結胚移植には影響しない」
2020.4.25「ART治療における体重減少の影響は?」
2019.9.4「太ると卵子が悪くなる理由」
2019.6.10「☆不妊原因と子供の健康について その2:夫婦の体重」
2019.3.3「肥満の方の採卵時合併症は?」
2018.11.26「☆アジア人の肥満と妊娠までの期間」
2018.10.4「☆体外受精を行うなら、肥満女性は痩せる必要はない?」
2017.11.26「BMIは凍結融解胚移植の妊娠率に影響するか?」
2017.9.13「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その4:メタアナリシス」メタアナリシス
2017.7.26「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その3:費用対効果」前方視的検討
2016.12.26「妊娠前のBMIが妊娠率や妊娠予後に及ぼす影響」
2016.12.17「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2」前方視的検討
2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1」前方視的検討
2016.10.27「短期集中型の減量作戦の効果」
2016.6.9「肥満と子宮内膜機能低下の関係」
2016.4.10「太ると妊娠率が低下します」
2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解」
2015.9.7「両親の肥満が胚へ及ぼす影響」
2014.12.24「太ると精子が悪くなる」
2014.1.3「☆太ると着床率も低下する?」
2013.11.21「☆痩せると卵子の質が良くなる!?」
2013.7.9「☆減量手術をするとホルモン値が改善します」
2013.6.28「太るとAMHが低下する?」
2013.6.7「ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響」
2012.12.5「男性のBMIも妊娠に影響」
2012.12.3「BMI 35以上は異常卵が増加」
2012.10.30「BMIと妊娠」