本論文は、減量手術によるART(体外受精、顕微授精)の成績を検討したものです。
Hum Reprod 2020; 35: 2755(フランス)doi: 10.1093/humrep/deaa208
要約:2012〜2016年に、A)減量手術を実施した方83名(術後BMI 28.9)、B)減量手術を実施していない方でAの術後と同じ程度のBMIの方166名(BMI 28.8)、C)減量手術を実施していない方で肥満の方83名(BMI 37.7)の初回採卵の妊娠成績を後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
A群 B群 C群 P値
累積出産率 37.3% 40.4% 27.7% NS
着床率 13.8% 13.7% 6.9% NS
出産率/ET 20.0% 18.0% 9.3% 0.02
流産率 38.7% 35.8% 56.5% NS
出産週数 38.3週 39.1週 39.7週 NS
出生児体重 2753g 3170g 3482g 0.04
NS=有意差なし
交絡因子を除外し、多変量解析による出産率に有意に影響する因子はBMIと良好胚数であり、減量手術実施には有意差を認めませんでした。また、BMIが1ポイント低下すると、出産率が9%増加しました。
解説:諸外国では生殖年齢の女性の14〜20%が肥満(BMI>30)であり、BMI>40あるいはBMI>35かつ併存疾患を有する場合に「Bariatric surgery = 肥満症手術(減量手術)」が行われています。減量手術により自然妊娠の有意な増加と妊娠合併症の有意な低下が報告されていますが、ART治療に関する報告は少数例の散発的な報告しかありませんでした。本論文は、減量手術によるART成績を後方視的に検討したものであり、移植あたりの出産率は減量手術により有意に(やや)改善するが累積出産率に有意差を認めないこと、出生児体重が小さくなる(通常通りになる)ことを示しています。しかし、本論文ではフランスの白人のみが対象者であり、他の人種では不明です。また、統計学的な検出力(パワー)として、各群950名必要であり、結論は導き出すことはできません。前方視的検討が必要であることは言うまでもありません。
減量手術は日本ではそれほど行われていないようですが、外国では年間数十万件が実施されています。日本と比べ、外国では病的に太った方が多いためです。減量手術は、脂肪吸引ではありません。日本肥満症治療学会は、高度肥満症の治療として減量手術(メタボリックサージエリー)を行うためのガイドラインを2013年に発表しました。それによると、減量目的の場合はBMIが35以上、疾患の治療目的の場合はBMIが32以上を対象としています。対象疾患には、2型糖尿病、高血圧、高コレステロール血症、肝機能障害、睡眠時無呼吸症候群などがあります。減量手術にはいくつかの方法がありますが、簡単に言うと胃を小さくする and/or 胃から小腸へバイパスする手術です。だいたい1~2年で40~50 kgの減量ができます。日本では、減量手術は保険適応ではありませんので、高額な医療費がかかります。また、現在では、腹腔鏡手術が主流になっています。
肥満については、下記の記事を参照してください。
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2019.9.4「太ると卵子が悪くなる理由」
2019.6.10「☆不妊原因と子供の健康について その2:夫婦の体重」
2019.3.3「肥満の方の採卵時合併症は?」
2018.11.26「☆アジア人の肥満と妊娠までの期間」
2018.10.4「☆体外受精を行うなら、肥満女性は痩せる必要はない?」
2017.11.26「BMIは凍結融解胚移植の妊娠率に影響するか?」
2017.9.13「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その4:メタアナリシス」メタアナリシス
2017.7.26「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その3:費用対効果」前方視的検討
2016.12.26「妊娠前のBMIが妊娠率や妊娠予後に及ぼす影響」
2016.12.17「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2」前方視的検討
2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1」前方視的検討
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2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解」
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2013.7.9「☆減量手術をするとホルモン値が改善します」
2013.6.28「太るとAMHが低下する?」
2013.6.7「ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響」
2012.12.5「男性のBMIも妊娠に影響」
2012.12.3「BMI 35以上は異常卵が増加」
2012.10.30「BMIと妊娠」
2012.10.25「妊娠と体重の関係」
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2013.01.04「私のダイエット作戦 番外編:ミトコンドリアを元気に」