☆正常胚率、正常胚移植の妊娠率に影響する因子 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、正常胚率、正常胚移植の妊娠率に影響する因子についての観察研究です。

 

Hum Reprod 2021; 36: 929(イタリア)doi: 10.1093/humrep/deab014

要約:2013〜2019年に採卵+PGT-Aを実施した2676名、2676周期、8151個の胚盤胞について、正常胚率に影響する因子について検討しました。正常胚率は、過去の出産の有無、流産の有無、体外受精不成功の回数、胚移植不成功の回数との関連は認めず女性年齢が唯一関連していました(35歳未満66%、35〜37歳58%、38〜40歳43%、41〜42歳28%、43歳以上17%)。また、初回正常胚移植を実施した1580名の臨床妊娠率は51%、流産率14%、出産率44%でした。出産率は、過去の流産の有無との関連は認めず胚移植不成功の回数と関連していました(不成功なし47%、不成功3回以上36%)。

 

解説:正常胚率に関与する因子として、患者さんの特性、卵巣刺激の種類や量、培養環境(培養液、培養器)、胚のグレードなどが示唆されています。しかし、患者さんの過去の妊娠歴や妊娠治療歴に関する検討は行われていませんでした。本論文は、正常胚率、正常胚移植の妊娠率に影響する因子について検討したところ、正常胚率には女性年齢が、正常胚移植の妊娠率には過去の胚移植不成功回数が有意に関与することを示しています。つまり、なかなか着床しない方は、正常胚移植も着床しにくいことになりますが、その理由は明らかではありません(おそらく子宮側の要因)。

 

PGT-Aについては、下記の記事を参照して下さい。

2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?

2021.2.18「☆凍結正常胚移植で内膜症の有無は無関係

2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる

2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法

2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非

2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2