あの世でなくこの世を浮き世とい

うが、うき世には色々あり、憂き

世もある。

 

桜が散りはじめる。四季の移りかわ

りを感じるように、歌で「あらで憂

き世に」と詠った帝がいる。

「この世をば、我が世とぞ…」を詠

んだ道長に退位をせまられた、その

ひと三条帝。

 

 

三条帝976-1017(母は藤原兼家の長女・超子954-982)

 

三条帝

心にもあらで(心なずも)憂き世に

(このつらい世の中に生きながら)

と詠った三条帝。

 

三条帝(976-1017)は、第67代の

天皇。冷泉(れいぜい)天皇の第二

皇子で、母は藤原兼家の長女・超子。

従兄弟の一条天皇の死で、道長(

倫子との次女・妍子→三条天皇の皇

后)に推されて36歳で即位するが、

道長の意にそまぬことがあり、僅か

5年で一条天皇の第二皇子(母:道

長の娘・彰子)に譲位することにな

った。

三条帝は、そもそも在位中にも眼病

を患い、内裏が炎上するなどがあり、

これらは道長の陰謀と世に出回り、

退位後出家したのち翌年42歳で世を

去った。

 

三条帝「百人一首」

小倉百人一首に採られている三条帝

の百人一首の歌。

 

 

小倉百人一首(第68番)の三条帝の歌

 

心にもあらで憂き世に

ながらへば

恋しかるべき夜半の月かな

 

この歌が載る『後拾遺(ごしゅい)

和歌集』の詞書には、「例ならずお

はしまして、位など去らんとおぼし

める頃、月の明かりけるを御覧じて」

とある。

(心ならずも、この憂き世の中に生

きながらるえることがあれば、きっ

と恋しく思い出すに違いない、今夜

の月かな)

という内容の歌を詠む。

 

北斎百人一首「うばがゑとき」

「うばがゑとき」(北斎百人一首)

の三条帝「百人一首」の画。

心にもあらで憂き世に

ながらへば

恋しかるべき夜半の月かな

 

 

三条帝「百人一首」の画(北斎百人一首)

 

北斎の「うばがえとき」の絵は、

三条帝の歌の心情を月を背景にした

宮廷での祓いの催しの風景を懸けあ

わせて描かれている。

中央の神官は、侍従が捧げる酒を御

幣(おんべい)が付いた幣串(へい

ぐし)で、厄を払う儀式をしている。

左手には2人の神官が控え、右手に

は3人の貴人がおり、内ひとりが作

者こと三条帝になる。

(もし心ならずもこのつらい憂き世

に、浮き世に生きながらえるとした

ら、ああ、この夜半の月をいかに恋

しく思うことであろう)

 

 

三条帝「百人一首」の北斎画(錦絵)

 

 

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