大河ドラマ「光る君へ」(2024)

の主人公・まひろ(紫式部)は、

母の仇敵・藤原道兼を前に自邸で

琵琶を引いていた。

 

 

「光る君へ」のまひろ(吉高由里子

 

『月百姿(月の四つの緒)』

琵琶といえば蝉丸である。

月岡芳年『月百姿』には、蝉丸を

題材にし、四つの緒は琵琶の異称で

ある。

『今昔物語集』によると、蝉丸は逢

坂の関で庵を結んでいた盲人で、琵

琶の名手であった。

都の貴族・源博雅は、蝉丸の琵琶の

秘曲を聴くために三年間京からその

庵に足を運び、やっと八月十五日の

満月の夜、聴くことできた。このと

き源博雅は蝉丸に声をかけ、互いに

心をうちとけあった。

 

 

逢坂の関の庵で琵琶をひく蝉丸

 

逢坂の関と蝉丸(和歌)

蝉丸がいた逢坂の関。

667年に天智天皇が近江大津京に都

を移して以来、平安時代の蝉丸のこ

の頃から江戸時代まで逢坂の関は、

ずっと京と近江を結ぶ交通の要衝と

して、古歌にも詠まれ、よく知られ

ていく。

歌人でもある蝉丸は、逢坂の関を詠

んだ歌は、『後撰和歌集』(951)

・『小倉百人一首』・『源平盛衰記』

に載る。

これやこの  行くも帰るも わかれつつ 

知るも知らぬも  あふさかの関

 

紫式部と逢坂の関

長徳2(996)年紫式部(23歳)は

父・藤原為時が越前守に任じられ、

ともに京から逢坂の関を越えてゆく。

逢坂の関から大津へ出、為時一行は

舟で琵琶湖の北端のの湊・塩津に着

き陸路で越前に向う。

 

紫式部『源氏物語』(逢坂の関)

巻の関屋の名は逢坂関の関主が暮ら

す番小屋に由来する。

『源氏物語』(16帖・関屋の帖)。

関屋の帖では、光源氏が京に帰った

翌年。任期を終えた常陸介が妻・空

蝉と共に京に向かい、源氏は石山寺

へ参詣に向う途中、逢坂山の関で、

空蝉一行に巡り逢う。

 

蝉丸(逢坂の関)紫式部

源氏物語では蝉丸の歌

これやこの  行くも帰るも 

わかれつつ  知るも知らぬも

あふさかの関

 

これがあの、都から旅立つ人も、

都へ旅立つ人も、ここで知る人も

知らぬ人も、 また逢うという

逢坂の関かな。

 

『源氏物語』は、今宵は十五夜な

りけりと書きだしたのが始まりと

いう。

この蝉丸の歌をもとにして紫式部

は、「源氏物語」に空蝉との逢坂

の関での巡りあわせを物語にする。

 

ひと知れず思ひやり思ひやりきこ

えぬにしもあらざりしかど、伝え

聞こゆべきよすがになくて歳月が

重さなり、ときが過ぎ去ってしま

った。と書く。

 

 

石山寺の紫式部(月百姿・石山月)

 

 

Enjoy源氏物語

(光源氏「逢坂の関」空蝉)

光源氏17歳、雨あがる夏。

源氏中将は、夏の夜、紀伊の守邸に寄

り、泊まることになる。酒が振舞われ、

話題は紀伊の守の父・伊予の介の後妻

の話に及ぶ。

紀伊の守の父(伊予の介)は遠い地に

赴任中、その妻・北の方の空蝉とは、

年が親子ほど違い、そのうえ美人であ

る。

夜が更ける。抵抗する空蝉に無理やり

自分のものに…。

空蝉は、身分が低いものにも、それ相

応の生き方があると、毅然と源氏をな

じる。

空蝉を忘れられない源氏。

源氏は空蝉の弟の小君を使い、手紙を

ことづける。「夢か幻か、あの一夜の

ことが忘れられない。ぜひ、もう一度

お目にかかりたい」と。

これに空蝉は返事せず。源氏は、まる

で帚木(ははきぎ)のような方ですね

と、歌を書き、空蝉に届ける。

帚木の 心を知らで そのはらの

 道にあやなく  まどひぬるかな

 

光源氏。再度空蝉に歌をおくる。

空蝉の 世は憂きものと 知りにしを

あなたとのはかない仲はつらい

ものだと知ってしまったのに…

これに空蝉の返歌、

また言の葉に かかる命よ

 

恋は憂きものと想い知ったはずなの

またその言葉に、それにすがって生

きたいと思う。

空蝉の 世は憂きものと 知りにしを

また言の葉に かかる命よ

 

 

光源氏17歳。雨あがる夏がすぎ、

その年の秋。逢坂の関で、光源氏

は常陸介(前伊予介)の妻・空蝉

と逢う。

一方源氏に言葉をかけられた空蝉。

かの女は昔日を思ひ、ひそかに歌

を詠む。

行くと来と せきとめがたき

涙をや 絶えぬ清水と

人は見るらむ

 

逢坂の関から出て行くときも帰

って来る時もせきとんめがたい

私の涙を、絶えず湧き出る関の

清水なのだと、源氏の君は思っ

てくれるのだろうか。

と歌を詠む。ふたりは、後日消息

をとり交わす。

その後空蝉は夫と死別。すると、

夫の息子(継子)・紀伊の守が

色めかしく恋慕してくるため、世

の無常を思うかの女は、出家して

尼になる。

 

 

逢坂の関の光源氏と空蝉の弟の小君(俵屋宗達筆)

 

この源氏物語、逢坂の関は蝉丸の

歌「これやこの…」に懸けて、男

と女の運命的な再会を、人生にな

ぞえ、得も知れぬ男と女の、心の

機微を描いているようだ。

 

 

 

 

 

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