ひとは、季節の移り変わりのな

かで、歳をかさねてゆくが、つ

い情を交わしたといような一夜。

いち夜ゆゑにということはない

だろうか。

 

崇徳帝の皇后に仕えた女房がこの

一夜ゆゑの歌を詠む。彼女こと

その名を皇嘉門院別当という。

 

皇嘉門院別当

崇徳帝の皇后に仕えた女流歌人。

父は源俊隆で祖父が大蔵卿・源

師孝。生没年不詳。

皇嘉門院別当は、崇徳帝の皇后

皇嘉門院(こうがもんいん)聖

子(せいし)に仕えた。

別当は役職名で、仕えた女房ら

の女長官で、皇嘉門院聖子は藤

原忠道の娘で、九条兼実の異母

姉になり、聖子に仕えた彼女は

九条兼実が催す歌の場に出て歌

を残している。

 

 

 

崇徳帝の皇后に仕えた皇嘉門院別当(狩野山幽画)

 

百人一首の皇嘉門院別当の歌

「小倉百人一首」(藤原定家撰)

に皇嘉門院別当「難波江の」の

歌(第88番)にその思ひがある。

 

 

 

皇嘉門院別当「難波江の」の歌(第88番)

 

難波江のあしのかりねの

一夜ゆゑみをつくしてや

恋わたるべき

 

 

この歌は、難波江の宿で出逢っ

た見知らぬ旅人との一夜限りの

いきずりの恋を詠んだもの。

「難波江」は、この頃「葦」の

名所で、遠浅の入り江で砂地が

見え隠れするところで、「かり

ね」は刈り根と仮寝の掛詞。

「一夜」は一夜と一節の掛詞で、

刈り根、一節は葦の縁語。

「みをつくし」は澪標と身を尽

くしの掛詞。澪標は舟の通り路

を示すために立てた杭。

「恋わたるべき」は恋を過ごし

つづける意味で、「かりねの一

夜」と対照的になっている。

(難波の入り江に生える葦の刈

り根の一節だはないが、あなた

とたった一夜の仮寝の契りを結

んだために、身を尽くして、恋

し続けなければならないのでし

ょうか。

 

 

皇嘉門院別当(養朴常信画・画帖)

 

北斎百人一首

北斎百人一首は「小倉百人一首」

(藤原定家撰)の百人秀歌を北斎

が、それぞれの歌について絵で解

釈したことを表現している。その

表現の仕方は平安の宮廷生活でな

く、北斎自身の想いのなかで描か

れている。それゆえに北斎が描い

た百人一首の題名は「百人一首う

ばがゑとき」とあり、絵には謎懸

けのある絵になっている。

 

 

「北斎百人一首うばがゑとき」(錦絵の版下絵・皇嘉門院別当の歌)

 

「百人一首うばがゑとき」(錦絵)

「うばがゑとき」は、錦絵で薄紙

に墨色だけの墨版が複数枚摺られ、

色版用の版木に貼られ、画家の指

示でおよそ10色から12色の色版

が彫られ、墨版と色版が1枚の紙に

順番に摺られ、最終的に錦絵が完

成する。

「うばがゑとき」は、彫師によって

複雑な仕事のもとで絵はできあがっ

ており、この版下絵を描いた北斎は

若い頃から彫師の修行をし、彫って

いく途上で版下絵をかえてみたりし

ているものもみられる。

 

北斎「一夜ゆゑ」(皇嘉門院別当)

北斎の皇嘉門院別当の歌の版下絵。

難波江の宿があり、手前に澪標が

水中に立ち、裸の男3人が刈り取

った葦を大車に乗せ、その上に無

造作に脱いだ着物が置かれている。

北斎のうばがゑときは、難解な百

人一首を絵でわかりやすく説いて

くれている絵解きであり、また

その絵には深い意味がこめられて

いるようにも感じる。

 

 

 

「皇嘉門院別当の歌」の難波江に立つ澪標と荷車に積まれた葦(刈り根)

 

 

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