ふるいの中に残るもの ◇35 | 有限実践組-skipbeat-

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■ ふるいの中に残るもの ◇35 ■





 記憶を失くしていた間、私は色々なことを考えていた。


 その間ずっと疑問に思っていたのは


 この人が好きなら

 なぜ自分はこの人と出会ってからの3年間を失くすことに決めたのか。




 だけど19歳の私は、本当はいつも、心のどこかで自分を疑っていたような気がする。



 もしかしたら私

 敦賀さんとコーンが同一人物だと知ったことで

 コーンが好きだと思い込んでしまったのではないだろうか…と。



 なぜなら私はコーンが私に向けてくれる愛情の半分も

 コーンに返せていない気がしていたから。




 私、本当にコーンのことが好き?

 一生を添い遂げたいと思っている?



 プロポーズの返事なんて

 しようと思えばいつでもできたはずなのに

 結局、私は父のことを言い訳にして

 一歩も先に進む気が無いのでは…。



 私は自分で自分を疑っていた。だから、記憶を封じることに決めたのだ。




 思い込みという名の横糸を消し去り


 先入観という縦糸を取り払い


 自身が粗い目のふるいとなって


 その上に、自分の恋心が残るかどうかを確かめたくて……。





「 ……キョーコ


 私の髪に指を絡ませたコーンの、優しい囁きが心臓を締め付ける。



 返答の代わりに

 コーンの体にのめりこもうとするように、ぎゅうぎゅうに抱きついた。



 変わらず届くあなたの匂い。

 この香りを嗅ぐとホッとする。



 離れたくない。

 この先もずっと一緒にいたい。



 17歳の私が出したその答えの愛しさに

 私はさらに力を籠め

 コーンを目一杯抱きしめた。





 ――――――― 京子さん。そういう覚悟があるのなら、むしろ催眠術なんかに頼るべきではない。




 行動心理学の講義を受け持つ先生が

 催眠術も出来る講師だと知ったのは


 社長さんに言われて入学式前に挨拶を済ませておこうと、幾度かキャンパスを訊ねた時に、先生が自分でそう言ったからだった。




「 人に言われて素直に行動に移せるなんて、京子さんは暗示にかかりやすそうな人ですねー 」


「 暗示ですか?そうですね。それなら自信があるかもです 」


「 えっ?!自信があるんですか?またどうして 」


「 実は以前、とても尊敬している先輩から、撮影中に汗をかかないように自力でコントロールできる方法を教わったことがありまして… 」


「 ほほぉ。それは興味深い。で、その方法とは? 」


「 努力と根性。それと、自分には汗腺が無いから汗とは無縁…と自己催眠をかけるだけだと。

 それを聞いた瞬間、それなら出来る!…と、確信を持ったんです。でもその数秒後に、いま言ったことは冗談だと親切に否定されてしまいました 」


「 ぷふっ!!! 」


「 自己催眠、すなわち暗示イコール妄想、それなら得意かも!!…って、本気で思えたので、出来ることなら体得したかったんですけどね 」


「 ぷふーっ!!なんですか、それ。京子さん、面白い人ですね。なんなら僕が催眠術をかけてあげましょうか 」


「 え?先生は催眠術が出来る人なんですか? 」


「 ええ。催眠術って、もともとは心理学から来ていますからね。僕としても大いに興味があります。汗腺が無いから汗とは無縁…という催眠術をかけて、人がどうなるのか。是非実験してみたいです 」



 ……なんて言っていた癖に

 いざお願いをすると、先生は決して良い顔をしなかった。



「 お断りします!! 」


「 どうしてですか?前にかけてみたいって言っていたじゃないですか 」


「 それは汗腺うんぬんの話でしょう!…っていうか、それ自体だって冗談に決まっているじゃないですか!人体実験なんてそもそも許されないことですよ! 」



 先生を説得するにはそれなりに時間がかかった。でも私は諦めなかった。


 結局は先生が折れる形になってくれて


 ある条件を私に提示してきた。



 それが、立会人だった。




「 ・・・・・立ち合い人、ですか? 」


「 そうです。催眠術をかけ、3年分の記憶に蓋をするのにリスクがあることは説明しました。そしてあなたは芸能人です。記憶が戻らなければ今後のあなたの芸能生活に支障が出ますし、万が一にも記憶が戻らなかった場合、あるいは戻ったとしても記憶障害や心因性のストレスを発症して日常生活に著しい差し障りが出た場合、その責任を問われるのは僕になる。

 僕はそんなのは御免です。そもそも安全面の保証なんて出来ないのですから。

 ですから、事務所の社長さんに話を通し、一切の責務を僕に負わせないことを了承してもらった上で、術を施すときの立会人になってもらえるというのなら、京子さんの望みを叶えましょう。これが最低限の条件です 」


「 ・・・・それ、先生と立会人で話に多少の食い違いがあっても見逃してもらえますか? 」


「 どういう意味です? 」


「 3年分の記憶操作の部分を、表向きは3ヶ月程度、という事にしてもらいたい、という意味です 」


「 つまり、立会人に嘘をつくと? 」



 嘘をつく、という言葉が胸に刺さった。


 でも、その方法しかもう自分には思いつかなかった。



「 お願いします!私は自分で答えを得たいんです。

 答えが得られるまでです。大切な人には後でちゃんと告白します。だから… 」


「 万が一、記憶が戻らなかったら? 」


「 それが、出た答えということです。その時はそれ自体が闇に消え去るだけ。それに対して先生が責任を感じる必要はありません 」



 私の本気を

 先生はきっと感じ取ってくれたと思う。


 大きなため息をついたあと、先生は諦めた様にガックリと首を前に倒した。



「 ……いいでしょう。では、その辺の説明は僕がしておくということに 」




 催眠術の最大の難点は、相手に術をかけて欲しい…という思いが無ければかからない、ということ。

 そして催眠術は、掛け手と掛かり手の信頼関係があって始めて成り立つ。


 つまり、掛け手に対して掛かり手が不信感を抱いていると、術はかかりにくくなるという。


 当然その辺心配は自分には不要だった。



 暗示をかける際の3年間と3ヶ月間のブランクは、立会人には判らないように先生がしてくれた。


 催眠術は術をかける前にトランス状態に入らせる必要があって、そうするための深化法は、やり方さえ分かれば誰にでも出来てしまうため、催眠術が悪用されない様に術師はそれをオープンにしないという。


 つまり、立会人の前で披露された催眠術はそれに見せかけたものなだけで、結局先生は私のお願いを受け入れ、立会人が立ち会う前のトランス状態に入った直後に、私が希望する暗示をかけてくれた。




 モー子さんが立ち合い人となったのは、私が術を受けることを事前に話していたからだった。

 社長さんに言った内容とほぼ同じそれを、私は演技で伝えた。



「 実は大学の講師で催眠術が出来るって人がいて、父の件を忘れたいんですって相談したら、催眠術で出来るって教えてくれて、お願いすることにしたの 」


「 ……っっ!! 」


 かなり驚いていたけれど、モー子さんは私がそこまで思い詰めていたのか・・・と思ってくれたのだと思う。

 LMEで社長さん立ち合いのもと、施術をしてもらうことになったと話したら、自分も立ち会いたい、とモー子さん自身が志願してきた。


 それを拒否する理由など私には無かった。



 施術日は先生の都合に合わせた。

 その日、コーンは撮影許可が必要な場所でロケをする予定があって、施術に立ち会うことは出来ないという。

 それで、蓮様の代わりに自分が…と、マリアちゃんが来てくれた。





 3年間の記憶を失くした自分の思考は、目の粗いふるいそのもの。




 時間という名の枠にぶつかり、些細なものから落ちてゆく。



 大きく、大きく揺すられて

 ふるって、ふるって、選られて

 最後に残ったそれは、コーンへの想いと


 そして……



 赤ちゃんのお母さんになってもいいかな、という心境の変化だった。




 私の目から、また涙が溢れる。

 拭い去らずに泣き顔のまま、私はコーンを見上げた。


「 ……コーン、ごめんなさい。私、知らなかったの。自分のお腹に赤ちゃんがいたなんて… 」


「 うん、そうだよな。判ってる。もういいよ、それは。俺が全部悪かったんだから… 」


「 違う!私が悪かったの。答えなんて初めから一つしか無かったのに 」


「 答…え…… 」


「 コーン。どうしてこうなったのか、ちゃんと自分で説明したい。でもそれには長い時間が必要で、一晩ではとても無理なの。どのぐらいかかるかは分からないけど、一つも漏らさず伝えたい。…私の話、聞いてくれる? 」


「 もちろん、俺も聞きたい 」


「 ありがと…。でも、これだけ先に伝えさせて? 」


「 ……なに? 」


「 私、これからきっと、どんな困難が押し寄せて来ても絶対に乗り越えてみせるから。

 どうか、私を一生コーンの隣にいさせてください 」




 3年前の自分にあてたタイムリミットは二つ。


 一つはコーンから見放されるまで。

 もう一つは、父親が亡くなってしまうまで。



 やはり記憶が戻らないのは問題がある、と言った先生が

 父の死の報せが届いたとき、催眠術が解けるようにすると決め、私はそれに同意した。




 後日、私の記憶が無いと知っていながら母が実父を連れて来た理由を聞いた。

 それは母なりの復讐だったらしい。



 一切の記憶がない状態の娘に

 決して届かないだろう謝罪をさせることで、罪の深さを知ってもらおうとしたとか。


 そして、実父の自己紹介が自称・御園井一志だったのも、本名を名乗る資格などない、と母が言い切ったかららしい。




「 ……キョーコ 」


 私を力いっぱい抱きしめてくれたコーンの腕が緩んだ。


 月明かりに輝く指輪をケースから抜き去ったコーンは

 それを私の左手薬指にはめてくれた。



「 俺の方こそ、ずっと君の隣にいさせてください 」


「 嬉しい、コーン。この指輪… 」


「 ありがとう、キョーコ。先に返事をくれて。おかげで俺、最後まで安心して君の話を聞けるよ。じゃなきゃ途中で恨み節を呟いたかもしれない。

 着ぐるみだからってオスのふりして、散々俺をけしかけたのは君なのに…ってね 」


「 あ…あははは…… 」


「 何日かかってもいいから、全部話して、俺に 」


「 うん。ちゃんと、全部話すね 」






 ⇒◇36 に続く


※選られる(すぐられる)⇒よりすぐること・選別


次がラストです。



⇒ふるいの中に残るもの◇35・拍手

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