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■ ふるいの中に残るもの ◇14 ■
それから一週間が経ってしまった。
「 敦賀さん、おはようございます 」
「 ……おはよ 」
「 朝食、ご用意できています。どうぞ 」
「 ああ…… 」
結局、私が敦賀さんの現場についていくことが出来たのはその一日だけだった。
何故かと言うと、私が体調を崩したからだ。
あの日の夜
私は全然眠れなかった。
ベッドに入っても後悔ばかりがあぶくのように
浮かんでは消え、浮かんでは消えていくばかりで
ようやく眠りに落ちたのは何時ごろだったのか。
ただ、少なくとも目覚めた時に思ったのは
さっき寝たばかりだったのに…だった。
そのせいかとても頭が痛くて、体温を計ったら微熱が出ていた。
取り敢えず朝食を作ることは出来たけど食欲はまったく無くて、とにかく体が重くて怠かった。
そんな私の変化に
敦賀さんはすぐに気づいた。
「 ……最上さん、どうした?なんか顔色が悪いみたいな 」
「 あ……はい、ちょっとだけ熱があるみたいで 」
「 ……っ……じゃあ無理はしない方がいい。今日はもう大人しくしているんだな 」
「 はい、そうですね。そうさせてもらいます。
すみません、自分から現場に同行させてくださいとお願いしたばかりだったのに… 」
「 別に。そんなのはどうでもいいよ 」
そして
その日を境に敦賀さんの態度が本当に素っ気なくなった。
無駄な会話は一切省かれ
互いに干渉しあわない。
まるでそれが暗黙のルールだったかのように。
本当に私たちは恋人同士だったのだろうかと疑えるほどに。
私の体調不良の方は
寝ていれば自然に治るだろうと私は簡単に考えていたけれど
それからずっと不調が居座り続けてくれて
眠くて、気怠くて、どうしようもなくて
思考も、意識も、視線でさえも
時に定まらないような有り様だった。
――――――― ああ、どうしてなんだろう。
頭が痛くて体が重い。
まさかこの私が
ストレスを原因にこんな事態となるなんて、夢にも思っていなかった。
「 ……最上さん 」
「 …っ…あ、はい! 」
慌てて頭を持ち上げた。
私の顔色を観察しているのか
敦賀さんは束の間私をじっと見て
それから諦めたように小さなため息をついた。
「 まだ調子悪い? 」
「 は……い、まだちょっと… 」
「 食欲は? 」
「 あんまりなくて 」
「 でも食べても戻したりとかはないんだろ? 」
「 あ、はい、それは別に… 」
「 ……そう。それなら、少しでも何か食べた方がいいよ 」
「 はい、そうですね。それより、すみません。私、いつまでもこんな状態で 」
「 言ってないだろ、そんなことは。今日も家でゆっくりしたらいい。一人でのんびり、ゆっくりね。その方がのびのび出来ていいだろう? 」
「 ……っっ… 」
まだ疑っているのかな
私の記憶喪失を。
相変わらず私の記憶はダークムーンの撮影初期の頃までしか思い出せていなかった。
数十分後、ここまで迎えに来てくれた社さんと一緒に仕事へ出かけた敦賀さんを見送って、私は社さんが用意してくれたDVDを見返した。
先週これをひと通り見た時は
失くしてしまった3年間の記憶を少しでも埋められたら…という思いがあったけれど
その考え方がそもそも無茶だったと今さら気付く。
なぜならドラマ映像は、共演者さんやスタッフさんたちと過ごしたほんの一握りの時間に過ぎないのだから。
「 DVD……あ、違った。これ、ブルーレイって言うんだっけ?私、その違いがまったくわからないんだけど… 」
迷わずダークムーンを再生する。
敦賀さん演じる嘉月が
美月と一緒にピアノを挟んで楽しそうに笑っていた。
そのシーンを見て私は感慨に浸った。
「 ふ……楽しそ… 」
敦賀さんが何度やってもフリーズしてしまっていたあのシーンが
まさかこんな素敵な内容に生まれ変わっていた、と気づいたのはもちろん思い出してから。
自然と私の目に涙が浮かんだ。
「 ……ってことはよ?少なくとも私としたあの夜のダークムーンごっこは敦賀さんにとって無駄じゃなかった…ってことよね? 」
そして思い出す
数日前のあの出来事。
切ない声でキョーコと名を呼ばれて
あの腕に自分は抱きすくめられたのだ。
そのおかげでフラッシュバックが起こって
敦賀さんのそばにいることが記憶を取り戻す一番の近道だと気づけた。
だけど今は
こんなに近いのに、なんて遠い…。
「 早く記憶を取り戻さなきゃって思っているのに 」
視界がぼんやりと霞んできた。
どうしよう。
また眠くなってきてしまった。
微熱が続ているせいか食欲が出なくて
栄養が足りていないせいか頭はいつもぼんやりしていて
時間に関係なく眠くなっちゃうから、何かをしようという気力も湧きにくく……。
「 これって5月病?いまって5月じゃないのに? 」
結局このあと眠ってしまって、気が付いたら夜中だった。
私は慌てて部屋を飛び出し
一目散に向かった玄関で、敦賀さんが今朝履いて行った靴を見つけて、がっくりと肩を落とした。
……信じられない!!
一番やってはいけないことを!!!
敦賀さんはご飯を食べたのだろうか。
それとも怒って寝てしまった?
声を掛けるべきか、どうしようかと悩んだけれど、その勇気は出なかった。
敦賀さんが何時に帰って来たのかが判らなかったし
自分がこの家の中で自由に行き来できる範囲は限られていたのだ。
あてがわれたあの部屋と、食事をするためのリビングと
料理をするキッチンと、お風呂とトイレだけが自分の行動範囲で
敦賀さんの部屋に私は近づいたことすら無かった。
もちろん、そうしろと言われた訳じゃないけれど…。
「 敦賀さん。すみませんでした…… 」
真っ暗なリビングから敦賀さんの部屋に向けて
私は丁寧に腰を折った。
頭を上げても物音はひとつも聞こえてはこなくて
だから、という訳じゃないけれど
私は黙って一人掛けのソファに座った。
ここが君のお気に入りの場所だよ…と、敦賀さんが教えてくれたあのソファだ。
実は体調不良になってから
夜中になると無性に寂しくなってしまって
敦賀さんが眠っただろう頃合いを見計らって、私はほぼ毎夜のようにこのソファに座っていた。
居心地がいいソファ。
優しく抱きしめられているかのように包まれる感じが好きだと思った。
「 ……いいわよね。少しだけ 」
あんなに眠ったはずなのに
再び眠気が私を襲った。
寄りかかってウトウトして
意識を落としてどれぐらい経った後なのか
敦賀さんの声が聞こえた。
「 ……っ…キョーコ?!…っくりした…… 」
あの人の声で覚醒したのは何故だろう。
だけど、いつも少し躊躇いがちに私を最上さんって呼ぶくせに
ごく自然に私の名前を呼んでくれたのが嬉しかった。
最近は特にとても素っ気ない態度だったから、余計に……。
「 最上さん、どうした?具合が悪くて動けないのか? 」
「 ……違います 」
「 だったら。ベッドで寝た方がいい。……ん、まだちょっと熱があるのか? 」
「 いや 」
「 嫌じゃないだろ、ほら 」
「 嫌!!敦賀さん、お願いがあります 」
「 お願い? 」
いつ言おう、いつ言おうとずっと思っていたそれが
このとき一気に爆発した。
たぶん私は
すごく、すごく、寂しかったんだ。
「 敦賀さん、私っ…… 」
敦賀さんは一瞬、目を見開いて
それからすぐに、いいよ、判った…と
私のお願いを受け入れてくれた。
⇒◇15 に続く
えー…実は連載が始まってから13話まで、一週間程しか経っていなかったことに気付きました(笑)それだと都合が悪かったので強引に一週間足してみた。←おい!
すごいな、原作並みww
⇒ふるいの中に残るもの◇14・拍手
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