ふるいの中に残るもの ◇6 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら⇒ふるいの中に残るもの<15>



■ ふるいの中に残るもの ◇6 ■





「 記憶はどうやれば戻るんですか? 」


 この時点で私が考えていたこと。



 それは、意図すら不明な

 質疑なき答えをアテもなく探すより


 欠落した自分の記憶を取り戻した方が

 答えに辿り着くのが早いのではないか、だった。



「 フラッシュバックで戻ります 」


「 フラッシュバック!? 」


「 そうです、フラッシュバック。聞いたことがあるでしょう?たとえば、忌まわしい事故などに遭って苦しむようになった人の記憶を催眠術によって忘れさせたはずなのに、些細なことがきっかけでフラッシュバックし、それを思い出してしまう…なんていう、典型的かつ王道なパターン 」


「 あ… 」


「 それからも判るように、催眠術が出来るのは記憶を取り出しにくくすることぐらいで、脳に刻まれた記憶は決して消すことが出来ないんです。でもご安心ください 」


「 え? 」


「 この例えの場合、心に深い傷を負っている人が思い出すことで受ける心理的ショックは計り知れないものですが、京子さんはそれとは全く違いますのでご心配は不要ですので 」


「 そんな心配はしていません!! 」



 そもそも自分は3年分の記憶がなくても

 一切不安を覚えなかったぐらいなのだ。



「 そうですか、それは良かった。それが分かっているなら安心です。

 では、それを踏まえて僕からアドバイスをひとつ。今までと変わらぬ生活を続けることをお勧めします 」


「 っっ? 」


「 その方がフラッシュバックは断然起きやすくなりますから 」




 私に催眠術を施した張本人との会合はそこで終わった。


 大学のキャンパスを後にするときはとても不思議な気分だった。



 どうしてか。


 それは、大学に進学出来た時点で私は

 学業を優先するという選択肢を選び


 現在は仕事をセーブしているのだと、マネージャーの社さんから聞いたから。



 それが本当の話なら

 入学して間がないとはいえ、私はこのキャンパスに通っていたはず。



 けれど、そんな実感はどこにも無かったのだ。




 不思議よね。

 敦賀さんのお家にお邪魔をしたときは不思議な感覚が自分を包んだのに。



 それにしても

 催眠術か……。



「 あ……れ? 」



 その時ふと疑問が浮かんだ。


 おかしい。

 だったら何故あのとき私は一人ではなかったのか。



 催眠術を施されたのはあの時だ。


 ラブミー部室で

 私だけがイスに座っていたあの日。



 あのとき私の周りには

 社長さん、マリアちゃん、モー子さんの3人と一緒に先生がいた。



 それってどうして?



 だってそれ

 いま考えるとちょっと…。


 いえ、だいぶおかしい気がする。



 だとしたらあの3人は

 私が催眠術を施されるのを見守っていたことになってしまう。



 え?一体、どういうこと?




「 キョーコちゃん、なかなか興味深い話だったね 」



 キャンパスを後にして、駐車場に戻って来たタイミングで社さんがそう言った。

 ドアロックが解除され、二人で車内に乗り込む。



 そう言えば、私はこれも驚いたのだった。


 だって社さんってば車を運転しているのだもの。



 瑠璃子ちゃんとの対決で、私の足の骨にひびが入っちゃったあのとき、病院までの往復に付き添ってくれたのは社さんだったけれど、あのときはタクシーを使ったのだ。

 社さんは免許を持っていなかったから。




 スマートに車が発進して景色が流れる。

 敦賀さんの時とは違って社さんとの会話は続いた。



「 社さん的には、どこら辺が興味深かったんですか? 」


「 ん?今までと変わらぬ生活を続けることってトコかな。その方がフラッシュバッグは起きやすいって断言されたことに、なんか納得だったっていうか、ね 」


「 どうしてですか? 」


「 んー?そっか。キョーコちゃんぐらいの年齢だとまだ実感しにくいかな。

 大人になるとさ、割と一年ってあっという間に過ぎて行くんだ。それってね、毎日が同じことの繰り返しみたいに思えるからなんだよね 」


「 同じ? 」


「 そ。社会人になると日々が同じことの積み重ねみたいになっていく。目新しいことが少なくなって、昨日あったことも一年前にあったことも大差がなくなっていくんだ。特に俺は独身だから。子供がいる友人とは時の流れの実感が全然違うなって思うことが割とあるよ 」


「 ……そんなものですか。でも社さん、トップ俳優・敦賀さんのマネジメントをしているのに? 」


「 変わらないよ。蓮の仕事内容は変わっても俺がしていることに変わりはない。依頼された仕事を見て、連絡を取って仕事を受けて、あるいは断って、または契約しての繰り返し。想像しにくいかな、学生さんには 」


「 学生さんって…。その記憶がいま私にはありませんよ 」


「 そうだね。でも俺にはあるんだ。マネージャーとしてキョーコちゃんを学校まで迎えに行ったこともあるし、仕事が終わったあとに送って行ったこともある 」


「 そっ…そうなんですか!? 」


「 そうだよ。学業優先とはいえ、仕事を全くしていない訳じゃなかったし、入学してからまだほんの数か月だしね 」


「 そうだったんですね。ありがとうございました! 」


「 いえいえ、それが俺の仕事でもあるから。そういう意味で言えば、いま仕事をセーブしていて良かったとも言えるかもね。キョーコちゃんの現在の状況を考えると。

 ま、そんな訳で、3年間の日々をフラッシュバックさせるにはいつもの生活を続けることっていうのに納得が行っちゃったって話だよ 」


「 そ、か……あ、あの、社さん。お伺いしても良いですか? 」


「 うん、いいよ、なに? 」


「 それを踏まえての質問なんですけど、どうして私は敦賀さん宅にいるのでしょう? 」


「 え………っ…それ、蓮から何も聞いてない? 」


「 はい、何も聞いてません。…っていうか、正確には聞いても敦賀さんが何も教えてくれないんです。お世話になり始めたのが一年前ぐらいからだってことだけは辛うじて聞けたのですけど 」


「 んー?んんんー?それ、俺が話してもいいなら話すけど、でも蓮が言わないことを俺が話すっていうのもなー…… 」


「 それってそんなに話しにくいことなんですか? 」


「 そりゃそうだよ。そもそも住まいのことなんて完璧にプライベートゾーンだし 」


「 ……じゃ、やっぱりこの件は敦賀さんに根気よく訊ねるしかないってことですよね 」


「 というより、俺としては別に聞かなくてもいいような気もするけど 」


「 なぜですか 」


「 だって、フラッシュバックの件も含めて今までと同じ生活をした方がいいって言われたんだから。そうなると必然的にキョーコちゃんは蓮と暮らしていくことになるでしょ? 」



 そう。そうなんです!

 だからそれが信じられないんです!!



 だって、どうしてよりにもよって敦賀蓮の家な訳!?

 3年後の私ってば一体なにを考えていたのっっ?!!



 だってあの敦賀蓮でしょ!?


 会えば敵意をむき出しにして

 嫌味言ったり、私をバカにしてきたり


 挙句、私を思いっきり騙してみたりとか平気でするような人なのよ?!



 そんな人の家にどうして転がり込んだのよ?

 そもそも私はだるまやのお世話になっていたはずでしょーよ?!




「 キョーコちゃん、顔、顔 」


「 はっ?!いま私、どんな顔をしていました?! 」


「 般若の形そ……いや、人前で気を付けてくれればいいけど 」


「 はい!スミマセン。つい気を抜いてしまいました 」



 いけない、いけない。


 一応、いま私はそこそこ売れているらしいから、それなりにしていないと。



 ほんと。

 それも全く実感が無いのだけど…。



「 キョーコちゃん。一つだけ言っておくけど、俺の目から見てキョーコちゃんは蓮とかなり仲良くやっていたよ 」


「 えええっ?嘘、信じられない!! 」


「 蓮もね。楽しそうにしていたし 」


「 余計に信じられない…… 」



 車がテレビ局の駐車場に入った。

 今日の敦賀さんの仕事はドラマ撮りがメインらしい。


 それで社さんに局まで連れて来てもらった訳だけど。


 私の目的は敦賀さんではなくって


 自分も芸能人として割と色々仕事をしてきたらしいから、何か思い出せればな…って。



 そんな単純な思考で連れてきてもらっただけだった。

 特に予定も無かったし。




「 キョーコちゃん、こっちだよ 」


「 はい! 」



 本音を言えば少しだけ期待していた。

 何をか…と言えば、もちろんフラッシュバックを。



 でもまさか自分の期待通りにそれが起こるなんて

 正直思っていなかった。






 ⇒◇7 に続く


よし、次いこ、次!!



⇒ふるいの中に残るもの◇6・拍手

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