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■ ふるいの中に残るもの ◇18 ■
翌朝のキッチン
いつもの光景。
「 おはよう、キョーコ 」
「 おはようございます 」
「 なにその顔。まさかあれから寝られなかったとか? 」
「 ……寝られませんでした 」
「 …っ!!だから俺と一緒に寝ようって言ったんだ!!どうした?吐き気が凄かったとか?めまいがしたとか?お腹が痛かったとかじゃないよな?
君は今日、家にいた方がいい。俺が薬とか買って来るから。ああ、くそ、いっそ休めたら良かったのに。ごめんな、でもなるべく早く帰ってくるから。その前に薬剤師さんに相談して、ちゃんと妊婦でも大丈夫な薬を… 」
「 敦賀さん、ちょっと落ち着いてください! 」
「 落ち着けないよ。だって君はもう君一人の体じゃないんだから 」
「 でもこれは私の身体です!敦賀さんは黙ってて!! 」
私がぴしゃりとそう言うと
敦賀さんは両肩を落としてシュン…とした。
「 ………ハイ… 」
ずるいわよ、そのカイン丸。
思わず笑いそうになるじゃない。
「 ………キョーコ…? 」
「 なんですか 」
「 俺のこと、怒ってる? 」
「 怒ってません。ただちょっと腹が立っているだけです 」
他ならぬ自分自身に。
「 怒っているんじゃないか! 」
「 怒ってません。それより、早く食べないと社さんが来ちゃいますよ 」
「 あ、うん、そうだった。いただくね。その前に……キョーコ? 」
「 はいっ!? 」
「 怖いよ、その顔。……ごめん、ハグさせて? 」
「 まだするんですか?もう別にいいんじゃ… 」
「 良くないよ。言っただろ。これは毎日やっていたって。強く抱きしめないから 」
「 ………っ… 」
敦賀セラピーに包まれて
涙が出そうになってしまった。
切なくて胸がキュンとする。
どうして19歳の私はこんなことをしたのだろう。
「 いただきます 」
「 はい、どうぞ 」
昨夜、敦賀さんがコーンの石にキスをしたとき
3度目のフラッシュバックが発生した。
しかも皮肉なことに蘇った私の記憶は
敦賀さんが嘉月の演技テストに合格したその日までではなくて
ホワイトデー当日に
私が社長室で
醜い涙を流したあの日までだった。
――――――― 敦賀さんの悪い魔法に
かかる予感はしていたんです……
「 キョーコ、どうした!? 」
雪崩のように
津波のように
復活してしまった恋心と一緒に
記憶が一気に押し寄せて
立っている事さえ出来なくなって
膝を崩した私はその場で号泣してしまった。
「 ……は……のものに、なったりしない……って…… 」
「 キョーコ?! 」
「 …っ……ふ……うぅ……っっ……うわぁぁぁぁんっ…!!! 」
泣き方で
うれし涙じゃないことが敦賀さんには伝わったんだと思う。
トイレの前で床に突っ伏し
肩を震わせて泣き始めた私を
敦賀さんは一体どんな思いで見つめたのだろう。
頭上で小さく、ごめんね…と呟いたあと
敦賀さんは泣き止まない子供をあやすみたいに私をそっと抱き上げた。
「 ……て……どうして?だって敦賀さんには…… 」
好きな人が居るって
言っていたじゃないですか。
ここで大切な人は作れないって
坊にそう言っていたじゃないですか。
だから私は
自分に言い聞かせたのに。
この想いは地獄まで持って行こうって。
懺悔はそのときしますからって
誓ったのよ、私は。なのに何これ?
あんまりすぎる……っ…
「 キョーコ。そのまま聞いて? 」
リビングに戻り
私のお気に入りのソファに私を降ろした敦賀さんは
両膝を床について、涙でぐしゃぐしゃになった私の顔を
苦しそうに覗き込んだ。
「 ごめん。そうだよな、ショックだよな。君の気持ちを考えずにごめんね。でも俺… 」
「 …ったの? 」
「 ん? 」
「 敦賀さんは、ど、して私と…?大家の特権?それとも遊びですか? 」
「 遊びでこんな喜ぶわけがないだろう!いくらなんだってそれぐらい分かるだろ? 」
「 判らないです。どうしてこんな事になったんですか? 」
「 ……いろいろ、あったんだよ。それこそひと言じゃ語れないぐらいに多くの事が 」
「 色々って何ですか!私が聞きたいのはそれじゃない!! 」
「 ごめん、でも本当に色々あったんだ。嘘じゃないよ。一つだけ信じてキョーコ。俺は君が好きなんだ。君を愛しているんだよ。だから…… 」
大切な人は作れないって
前にそう言っていたくせに?
「 ……うっ……っっ…… 」
「 そんなに嫌だった?泣き叫びたくなるほど? 」
「 ……っ… 」
「 でも俺は嬉しいんだよ。本当に 」
「 敦賀さんって私のことが好きなんですか?一体どこが… 」
「 どこって……それこそ数えきれないぐらいあるけど 」
ひとつのことに全力投球する君が好き
いつまでも夢見る乙女みたいな思考も好き
役者としての才能に満ち溢れている所も好きだし
それに慢心せずに努力を重ねる君も好き
「 キョーコの笑顔も泣き顔も、いともたやすく俺の心を支配する。そんな君の全部が好きだよ。だから俺は、君のすべてを支えたいって思っているし、そんな君を一生大切に、幸せにしたいと思ってる。本当だよ? 」
「 ……一生、大切に?どうしてそんな風に…… 」
「 キョーコを愛しているから。それ以外の理由はないよ 」
「 つまり、私たちは大家さんと借家人じゃなくて? 」
「 本当は付き合ってる。少なくとも俺は本気で 」
真顔で見つめられて、息が止まった気がした。
そんな事はもうとっくに知っていたのに
自分の記憶があるか無いかでこんなにも感情に差が生まれるなんて知らなかった。
「 ……っ……敦賀さん… 」
「 うん? 」
「 ハグ…してもいいですか? 」
「 君から?もちろん、熱烈歓迎 」
ソファから身を乗り出し、敦賀さんの首に抱きつく。
きゅっと抱きしめ返されたとき、私の頬を一筋の涙が静かに伝った。
でもそれは
決して幸せを感じたからではなかった。
「 ……突然泣いたりしてごめんなさい。驚きましたよね 」
「 驚いたけど、でも気にしてない。それより体調悪いんだろ。俺と一緒に寝よう?その方が何かあったときにすぐ対応できるから 」
敦賀さんはそう言ってくれたけど
その申し出を
私は丁重に断った。
⇒◇19 に続く
前回、本当はキョコちゃんが妊娠してるのかもって疑いを抱き、夜中に検査薬を買いに行ってすぐトイレで確認して、陽性反応が出て泣き崩れて、蓮くんがトイレにやって来て…っていう流れだったんですよ。プロットでは。
でもきっと蓮くん、台本渡された時から嫌だと思っていたんでしょうね(←そんなわけあるか)
特にキョコちゃんが泣き崩れる…っていうのが。
結局泣いていますけど。
⇒ふるいの中に残るもの◇18・拍手
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