ふるいの中に残るもの ◇16 | 有限実践組-skipbeat-

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■ ふるいの中に残るもの ◇16 ■





 子供の頃はずっとショータローの旅館でお世話になっていたから


 人の顔色を窺うのは決して苦手な方ではない、と自分では思っていたけれど


 本当はそう思い込んでいただけで

 実際の私はひどく鈍い人間だったのかもしれない。



「 ……あの、社さん 」


「 ん? 」


「 いいんですか?あの…敦賀さんがいるスタジオに行かなくて… 」


「 んー?いや、必要ないでしょ。だってバラエティ番組の収録だよー?しかもフル収録じゃないしっ 」



 そう言って社さんは明るく笑い飛ばした。




 今朝、社さんが言ったように

 敦賀さんのスケジュールに富士TVでの仕事があって


 午前中早めのその時間、私は予告された通りに敦賀さんの楽屋にお邪魔していた。マネージャーの社さんと一緒に。



 バラエティ番組の収録は、通常、放送される時間枠の何倍もの時間を要する。

 例えば1時間の番組枠なら3~5時間が収録の目安と言われていて、場合によってはもっとかかることもあるのだ。


 けれどこの日、敦賀さんはゲストではなく番宣出演だった。

 しかもスケジュールの都合上、短い時間しか居られないことは既に了承されているという。



 社さんがその収録の間は楽屋に居て、と私に言ったのは


 恐らく立場の違う芸能人が大勢出演するからだろうな、と理由は容易に想像出来た。



 だって私、いまは仕事をセーブしている身だし

 記憶だって半端にしか戻っていない状態だし。



 でも本当は違った。

 社さんたちの目的はそれとは少し違ったのだ。


 いえ、正確には

 違ったのだろうということに、私は後で気づくことになる。



「 あー、でもそうだなー。俺としては早く次の現場に行きたいから、そろそろ蓮を迎えに行こうかな 」


「 社さん。それなら私、その前に用を足してきていいですか? 」


「 ………うん、いいよ。行っておいで? 」


「 ありがとうございます。ちょっと行ってきますね 」



 さすがに変な間があったな、とは思ったけれど

 それにフォローを入れられるような精神的余力がその時の私には無かった。


 実はこのテレビ局に向かっていた間に少しずつ、私の体調は悪くなっていたのだ。




 心配かけるといけないから

 二人の前では平然とした顔をしていたつもりだったけど



 初めての車酔いは思いのほか酷くて

 局に到着したと同時に下車した私はすぐにトイレへ駆け込んでいた。



 あれからまだ30分も経っていないのにまたトイレへ…と言ったのだ。誰でもきっと変に思うに決まってる。

 敏腕マネージャーの社さんなら尚更そうに違いない。


 それは十分わかっていたけど、我慢も限界にきていた。




吐いちゃダメ……吐いちゃダメ……


 トイレの個室にこもって懸命に自分に言い聞かせた。


 一度でも戻してしまったら暫くここから出られなくなりそうな気がしたのだ。




 おかしい。

 今朝はちゃんと、敦賀さんと一緒にしっかりご飯を食べたのに。


 そう考えてから、だからかもしれないと思った。



 だからいま

 こんなに胃が重くてムカムカしているのかも。


 気を抜いたらすぐに戻してしまいそう……。



「 ……っ… 」


 身動きなんてしたくなかった。

 でも動かなきゃ社さんが変に思う。



 両手で胸を押さえて深呼吸を繰り返し

 少し落ち着いたかも、というタイミングで個室の鍵を開けた。


 すれ違うように女性がトイレに入って来て

 その人のだろう香水の香りに気付いた途端に両手で鼻と口を覆った私は慌てて廊下に逃げ出した。





 やだ。

 なに?どうして私……。




 その時だった。

 意外な人物と目が合った。



「 あら…… 」


 言葉を発されて戸惑って


 眉を顰めず私に近づくその行動に更に戸惑う。



 だって

 私の記憶にある母親はいつも後ろ姿だったから。




「 あれから音沙汰がなかったからどうしたのかと思っていたけど、まさかまだ迷っているのかしら? 」


「 ……っ……え? 」


「 勘違いしないで頂戴。私は別に責めているわけではありませんよ。それはあなたが決める事だと思っていますから 」




 えっと

 なに?何のことを言っているの?


 決めるって

 いったい何を?



「 言われなくても判っているでしょうけど、会うにしろ会わないにしろ、自分が後悔しない道を選びなさい。決めたら連絡を。いいわね? 」


「 ……っ…?!! 」



 その時また吐き気に襲われた。

 慌てて両手で口を覆う。


 そのタイミングで、廊下の左右から敦賀さんと社さんの声が聞こえた。



「 キョーコ!? 」


「 キョーコちゃん!! 」



 廊下に響く二人の走音。


 膝を崩しそうになった私を敦賀さんが支えてくれて

 その香りに包まれたら、ふと体が楽になった気がした。




 ――――――― なにそれ、敦賀さんって、すご……っ




「 ……キョーコちゃん。まさか、フラッシュバック?



 囁いた社さんはとても心配そうに私を見ていた。


 違う、という意味を込めて小さく首を横に振ると

 二人がホッと息を吐いたのが聞こえた。



 そのとき気づいた。

 収録の間は楽屋に居て…と言ったのは


 もしかしたら私がこの人と遭遇しないようにするためだったんじゃないか…って。






 ―――――― 会うにしろ会わないにしろ、自分が後悔しない道を選びなさい。決めたら連絡を。





 私の返事を待たずに離れて行った母親の後姿を見つめた。




 いまあの人が言ったそれは

 あの手紙にあったリミットと何か関係があるのだろうか。



 3年後の私が求めた答えとは

 あの人がいま言ったそれの返事のことなのだろうか。



「 キョーコ、大丈夫? 」


「 あ……はい、もう…たぶん 」



 心配そうに私の顔を覗き込んだ敦賀さんの目には

 3年後の私の顔が映っていた。






 ⇒◇17 に続く


フ………罠だよw



⇒ふるいの中に残るもの◇16・拍手

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