ふるいの中に残るもの ◇23 | 有限実践組-skipbeat-

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■ ふるいの中に残るもの ◇23 ■





 最初にそれを見つけたときは

 ああ、ここにあったんだ…としか思わなかった。



 ナプキンを持ち歩くためのクラッチポーチは自分で作ったものだ。


 中には持ち歩きの際に目立たぬよう、ハンカチポーチも入っている。



 いわゆる生理用品を持ち歩くためだけのものだが

 まさか19歳になってもまだ使っていたとは驚きだった。



「 ふふ。分かっていたけどやっぱり物持ちがいいのね、私ってば 」



 柔らかく口元に笑みが浮かび

 片手でポーチを持ち上げる。


 ふわりと柔らかい感触が手に良く馴染んだものの、不思議と違和感を覚えた私はファスナーを開けて中を見た。



 そこにはもちろんナプキンが入っていたのだけれど、それとは違う、見慣れないものも入っていた。

 私は握った右こぶしを口元に押し当てた。



「 なに、これ?……薬? 」


 中身がしっかり見えるテープ付きの透明なOPP袋の表には、青色で内服薬飲み薬と印字されている。

 その中にはやはり見覚えのない錠剤と、二つ折りになった紙が一枚入っていて、薬の名称はトリキュラーだと明記されていた。


 紙には一日一錠だとしっかり服用ルールも書いてあったけれど、それが何の薬なのかはどこにも記載がなかった。



「 一日一錠って……私、全然飲んでいないけど…… 」



 呟きながら膨らんだ大きな不安。



 もしかしたら19歳の私はなにか病気を発症していたのだろうか。

 もしかしたらそれは命に係わるものなのだろうか。


 だとしたら、それこそがタイムリミットってこと?




「 ……っ……まさか、ね… 」



 だって、敦賀さんも社さんもそんな事は何も言っていないし

 この前会ったモー子さんだって社長さんだってそんな事は何も言っていなかった。



 違うだろう…とは思ったけれど

 判らない事には話にならない。


 取り敢えず調べてみようと

 社さんが置いて行ってくれたタブレットを手に取った。



「 えっと、トリキュラー、薬…で、出るかな。……ん? 」


 トリキュラーと入力すると、検索画面のトップに添付文書が上がって来た。

 出てきたそれを選択し、内容を確認する。


 そこにはこう記されていた。



「 効果・効能……避妊? 」


 経口避妊剤使用開始一年間の飲み忘れを含めた一般的使用における失敗率は9%。

 1日1錠を毎日一定の時刻に定められた順に従い、(赤褐色糖衣錠から開始する)28日間連続投与する。以上28日間を投与1周期とし、出血が終わっているか続いているかにかかわらず29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返す、とあって、私は固唾を飲み込んだ。



「 え?どういうこと?私ってば避妊していたの? 」


 じゃあどうしていま私は妊娠しているのだろう。



 中に入っていた紙に、申し訳程度だけれどよく見たら病院の名前が記載されていた。

 同様にタブレットを操って検索をかけてみると、そこはスマホ診療もやっている病院だという事が判った。


 どうやら19歳の私はそこで薬を処方してもらったらしい。




 その病院のホームページに目を通して分かったことは


 トリキュラーというのが低用量ピルであること。

 ピルは第一世代~第三世代まであり、初内服の人には第二世代のトリキュラーか第三世代のものが処方されるということ。


 それから、低用量ピルを服用することで避妊がほぼ100%に出来ることの他、月経周期のコントロールや生理痛の改善、子宮がん・卵巣がん・大腸がん予防になることなども判った。



 それは判ったのだけれど…




「 ……なんで? 」



 私の頭には

 いろんな角度から疑問が浮かんできていた。



 ピルを飲んでいたのは間違いなく妊娠を回避するためだろう。


 17歳の自分から見たら19歳は大人でも

 社会的に言えば19歳はまだ、未成年なのだ。


 ましてや私は大学に入学したばかりの学生で

 だから避妊をするのはむしろ当たり前のことの様に思えた。



 それに

 そもそも私は……






 ――――――― しかしお前は本当に

 何を作らせても上手いよな


 飯だけじゃなく

 おやつまで出来るとは

 良いお母さんになるぞ~~





 ………先生にそう言われて

 こう返したことがある。

 あれは私の本心だった。




『 良いお母さんになる一番の条件が愛情だというのなら

 私は子供なんて欲しくない 』





 欲しくない。

 子供なんて欲しくない。


 19歳の私もきっとそう思っていたのだろう。



「 ……じゃあ、なんで… 」


 なぜ自分はいま妊娠しているの?




 そう言えば敦賀さんは

 私が妊娠しているんじゃないかって疑って、実際、妊娠している事を知ったときは物凄く喜んでいたけれど。




「 それってつまり、避妊していなかったってことにならないかしら…。そして敦賀さんはたぶん、私が避妊している事を知らなかった…? 」




 プロポーズをした敦賀さんと

 その返事を保留にしていた私。


 妊娠を望んでいた敦賀さんと

 妊娠を望んでいなかった私の構図が垣間見える。




「 ……っ… 」


 私の気持ちはたぶん

 17歳でも19歳でも変わりないだろうという自信がある。



 だからこそ分かった。



 私は敦賀さんの愛情を一身に受け止めながら

 けれど本当の意味でその先の関係に進むのがきっとなにより怖かった。だから薬で避妊を…。




 親になんてなりたくない。

 でも、敦賀さんからの愛は欲しい。




 それは、なんて我が儘な ―――――――




「 でも待って。でも判らない。ピルを服用していたのにどうして私はいま妊娠3ヶ月なの?避妊を止めた?もしそうだとしたらそれは何故?そしてどうして記憶を封じようと思ったの?

 ああ、もう、判らないことが多すぎる!! 」




 昨日、敦賀さんに抱かれて

 ようやく落ち着いた気がしたのに




 全く訳が判らない。



 頭を抱えているうちに

 なぜだか無性に悲しくなって

 自分の視界が徐々に潤んでまともに周りが見えなくなった。



 涙をぬぐった所でとても掃除を再開する気にはならず

 私は無気力状態でベッドに全身を放り投げた。






 ⇒◇24 に続く


スマホ診療をしている病院というのは本当にあります。

レイプされた際に服用するモーニングアフターピルは多くの国で薬局やドラッグストア購入が可能なのですが、日本では医師の診断と処方箋が必要なのだとか。


ただでさえピルを服用していることが判ると、性に奔放だと思われがちになる日本。

でも現実問題、自衛は最大の防御です。

そんな色んな状況を鑑みて、低用量ピルの処方も行っているのだそうです。



⇒ふるいの中に残るもの◇23・拍手

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