ふるいの中に残るもの ◇24 | 有限実践組-skipbeat-

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■ ふるいの中に残るもの ◇24 ■





 そのまま私は眠ってしまっていたらしい。


 そんな私を目覚めさせてくれたのは敦賀さんだった。



「 ……コ……キョーコ…… 」


「 …っ……敦賀、さん? 」


「 そう。いま戻ったよ。具合悪い?大丈夫? 」



 うつ伏せだった私の顔を

 心配そうにのぞき込む敦賀さんの顔と声。


 背中に触れた大きな手は本当に温かくて

 この人から離れたくない…と




 ただそれだけを強く思った。





 19歳の私が何を想い、何を考えていたのかなんて分からない。


 だけど17歳の私はもう

 敦賀さんから離れるなんて嫌だった。




 おもむろに身を起こし、ベッドのへりに座りなおす。

 すると敦賀さんはその場で腰を落として、私より低い位置から私を見上げた。



「 体調はどう? 」


「 平気です。ごめんなさい、部屋を片付けていたのに途中で寝ちゃいました 」


「 …うん、見ればわかる。ごめんな、君ばっかり辛い思いをさせて 」


 そう言って苦しそうに笑顔を浮かべ

 片手のひらで私の頬を優しく包んだ敦賀さんは、消え入るような声でもう一度、ごめんな、と呟いた。



「 ごめんな。辛いんだろ。それをどんなに想像しようとしても男には絶対に分からない事だから謝るしか出来ない。本当にごめん、キョーコ 」


「 …いえ…… 」


 ことあるごとにこの人が謝罪の言葉を口にするのは

 妊娠させたことに対する罪悪感からなのだろうか。



 でも、私は……






 ――――――― 追伸。敦賀さんに八つ当たりするのは止めてね






 薬を見つけてから

 何度もこのセリフが頭を巡っていた。


 この言葉の意味がやっと分かった気がした。



 敦賀さんに落ち度はない。


 私はそれを言いたかったのだろう。




「 ……キョーコ。こんなダメな俺を許してくれる? 」


「 え? 」


「 実は俺、今日は晩御飯を買って来ちゃったんだ。つわりが始まると大抵の妊婦はご飯作りが苦痛になるって聞いたから。君も本当はそうなんだろ? 」


「 ……それ、聞いたんじゃなくて、ネット検索して知ったんじゃ? 」


「 あ、判っちゃった?実はそうなんだ 」


「 ぷっ!やっぱり 」


 だって敦賀さん

 分からないことがあると誰かに聞くのではなくて、携帯を使って人知れず検索していたものね。


 覚えていますよ

 てんてこ舞い



「 ふふっ… 」


「 …っ……でね、キョーコの分もちゃんとあるんだ。だから、俺と一緒に夕食をいかがですか? 」


「 はい、お誘いいただけるのなら喜んで 」


「 よし。お茶はサービスで俺が淹れてあげる。行こ 」


「 はい 」



 いつものようにリビングで

 二人揃ってご飯を食べた。



 色んな疑問は絶えず頭の中を駆け巡っていたけれど

 私は笑顔でそれらをすべて飲み込んだ。



「 いただきまーす。わぁ、いっぱい買って来ましたね 」


「 そうなんだ。誘いに乗ってくれて助かるよ 」


「 あはは。わ、このだし巻き卵、すごく美味しいですよ!あ、このきんぴらとごま和えも! 」


「 だね。良かった、君の口にあって 」


「 敦賀さん、この煮物も美味しいですよ。あ、このお茶も美味しいです 」


「 いいよ、それ。取って付けたように俺を褒めてくれなくても。平気そう?ならどんどん食べて 」


「 はい。でも、敦賀さんも食べなきゃダメですよ? 」


「 大丈夫。俺もちゃんと食べるよ。

 ……キョーコ、美味し? 」


「 美味しいです。敦賀さんは?美味しくないですか? 」


「 いや、美味しいよ。君の笑顔を見るのが何より一番美味しい 」


「 ぶっ!!……っ…急になに言ってるんですか、もう!!天然のすけコマシですかっっ! 」


「 え?天然のすけコマシ?そんな魚ある?どこ? 」


「 敦賀さんのことですっ!! 」


「 ぷっ!俺はそんな男じゃないって前にも言ったことあるだろ 」


「 絶対嘘だもん 」



 じゃれ合ったり

 笑い合ったり

 言葉の駆け引きを楽しんだり


 この夜は本当に楽しかった。



 昨夜、敦賀さんは

 私が記憶を失くしてからずっと自己セーブしていたことをありのままに語ってくれた。



 だからなのか

 敦賀さんはもうセーブをしていなかった。

 …というより、カミングアウトしたことでセーブの必要がなくなったって事かもしれない。



 会話を交えながら頻繁に現れるスキンシップは

 続発的に私に襲い掛かるつわりの苦しさを軽減してくれるだけでなく


 一向に答えを見いだせないあらゆる疑問たちに頭を悩ませている私の心も軽くしてくれた。



「 そう言えば俺、5日後に休みが取れそうなんだ 」


「 へ? 」


「 …と言っても、午前中だけなんだけどね 」


「 えー、でも凄いじゃないですか。こんな急にお休みが入るなんて。何かプライベートで急ぎの予定が入ったんですか? 」


「 ……キョーコと二人で出かけたいな、と思って 」


「 え、私と?どこに? 」


「 買い物、したいだろう?色々と。だってこれから徐々にお腹が大きくなっていくんだから 」


「 ……っ… 」



 つまり、妊産婦のお買い物ってことですか。


 そう考えて唇を真一文字に結んだ。




 ……母親になんてなりたくない。


 今も本当はそう思っている。



 けれど

 それよりもっと大きな感情が私の中に渦巻いていた。



 このとき私は

 恐らく19歳の自分が考えただろう事とは

 真逆の事を考えていた。




 卑怯だと思われても構わない。

 それで敦賀さんが私のそばに居てくれるのなら。

 それで私が敦賀さんから離れなくて済むのなら。




「 本当は3日ぐらい一気に休みたかったんだけどね。さすがに無理だって社さんに言われた。そんな頻繁には無理だろってね 」


「 え? 」


「 ………時間を無駄にしたくはないから、行きたいところ、あらかじめ考えておいて? 」


「 考える…のはいいですけど…。それ自体は大丈夫なんですか? 」


「 うん? 」


「 だってそれ、私と二人で出かけるってことですよね?だとしたら、社長さんからちゃんと許可をもらった方がいいと思うんですけど。もらいました? 」


「 許可?必要ないだろう。だって社長は君の妊娠を知っているし、第一もう子供じゃないんだから 」


「 だったらなおのこと確認すべきだと思います 」



 だって

 曲がりなりにもこの人、LMEでトップ俳優の敦賀蓮なのよ?


 しかも私たちの関係は公にはなってない。


 なのに妊産婦のお買い物なんて

 目立つ事この上ないでしょうが。



 私のせいで敦賀さんに傷がつくのは絶対にあってはならない。




「 分かったよ。君がそう言うのなら、一応、社長には報告しておく 」


「 良かった。是非そうしてください 」


「 いいよ。ただし、君がこの、豚小間とタケノコの青椒肉絲を食べ切ったらね 」


「 はぁ?子供ですか! 」


「 そう、これはまさしく君と子供のためのメニューだよ。これは鉄分と食物繊維が豊富に含まれていて、妊婦さんにお勧めらしいんだ。それからこっちも… 」


「 なんですか、これは 」


「 マグロの生姜焼きだって。マグロは鉄分が豊富らしいから貧血予防にいいらしいよ 」


「 それ。それも検索して知ったんですか? 」


「 そうだけど、それは今どうでもいい事だろ。どっちもちゃんと食べ切ろうか、キョーコ 」


「 食べ切ろうか…って、そんな簡単に言わないでください。そんなに一度に食べられないですよ。むしろ食べ過ぎで吐いちゃうかも。それでも食べなきゃなんですか?それは本当に私のため? 」


「 …っ……じゃ、仕方ない。代替案を提案するよ 」


「 なんですか? 」


「 今夜も俺と一緒に寝ること 」


「 ……っ… 」


「 そんな驚いた顔をしないで欲しいな。これは嫌ならいいんだ、そう言ってくれれば。でも……出来ることなら俺の隣に居て欲しい、キョーコ 」



 違う。そういう意味で驚いたんじゃなくて。


 そんなの

 私こそ願ってもないことだって

 分かっていないんですか?



「 ……お風呂…入ったあとでいいですか? 」


「 うん、いいよ、もちろん 」


「 そしたら、昨日と同じことをしてくれる? 」


「 え? 」



 また17歳の私を

 抱いてくれますか?



「 ……っ?!……いい……の? 」


して、欲しいんです……… 」



 小声だったけど思い切ってそう伝えると


 敦賀さんは見たこともないほど甘い顔を浮かべて



「 ……愛しいな、ほんとに君は 」



 そう言って

 心臓バクバクで息苦しくなってしまった私を

 甘噛みするみたいにキュウっと抱きしめてくれた。






 ⇒◇25 に続く


甘々かっ!!



⇒ふるいの中に残るもの◇24・拍手

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