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■ ふるいの中に残るもの ◇21 ■
この夜、敦賀さんは
明らかに朝持って出た荷物より所持品を増やして意気揚々と帰宅した。
「 ただいま、キョーコ。聞いたよ、妊娠3ヶ月だったって? 」
「 お帰りなさい。そう…ですけど、それは社長さんから? 」
「 当然♪ 」
絶好調にご機嫌なのはひと目でわかった。
長い足でリビングまであっという間に移動する。
敦賀さんがいつも持っている大きなバッグが下ろされて、その隣に置かれた中身の見えない荷物を私は無言で見下ろした。
なに、この荷物?
「 敦賀さん。ご飯、簡単にですけど用意してありますので… 」
「 うん、ありがとう。その前にちょっといい? 」
「 はい 」
なんだろ。ただいまのハグかしら
「 これ、見て 」
そう言って敦賀さんは、新たな荷物の中から可愛いワンピースを取り出した。
それを目の前にぶら下げられ、私の視線が上から下に流れ落ちる。
「 ……な…んですか?これ 」
「 なにって、君のマタニティウェア 」
「 は? 」
「 俺ね、今日の空き時間に色々検索してみたんだ。あ、空き時間って言っても車移動の時とか本当にちょっとの時間だったけどね。
お互い初めてだから色々調べて準備しておかないとだろ。取り急ぎ手に入るものだけを手に入れて来た。ウェアの他にも、マッサージクリームとか、マタニティパンツとかもね 」
「 はい? 」
正直、私は目を見開いて絶句してしまった。
眉間には今まで見たこともないほど皺が寄ったことでしょう。
なに?
なんなの?
あなた昨日、私になんて言いました?
頼むから、せめて一緒に考えよう…って、言ってくれませんでした?
なのに、どうして産む前提?
堕ろすっていう選択肢は考えてもいないわけ?
「 あ、そうだ。出産予定日は聞いてきた? 」
「 ……聞いてません 」
「 なんだ、聞き忘れちゃった?じゃ、手っ取り早くそういうアプリを探してみよう。正確な所はあとでお医者さんに確認だな 」
そう言って鼻歌交じりにソファに腰を下ろした敦賀さんの手から、私は携帯を取り上げた。
「 あっ? 」
「 ……っっっ!!! 」
訳も分からず私の目から大粒の涙が溢れる。
悲しいのか
悔しいのか
切ないのか
腹立たしいのか
どれが理由かは判らなかったけれど
ただ、ただ、涙が溢れ出て
私はそれを拭いもしなかった。
「 ……んで?なんでそんな、のんきなんですか? 」
「 のんき?俺はそんな気、ないけど 」
「 じゃあ何だって言うの?!だいたい、敦賀さんは平気なんですか? 」
「 なにが? 」
「 私が最上キョーコだってことが、です! 」
「 そんなの、良いに決まっているだろ? 」
「 違うっ!!正確には、いま私は17歳の最上キョーコなんです!それでも平気なんですか?! 」
「 俺はね。でも君は平気じゃない? 」
「 平気じゃないです!!ちっとも平気じゃない!だって、今の私は17歳なんですよ?現実には違くても、いま私の意識は高校生なんです!それなのに…… 」
瞬間、視界が真っ暗になった。
敦賀さんが私を抱きしめたのだ。
敦賀さんは抱卵する親鳥のように私をソフトに包み込むと、大きな手で何度も背中をポンポンと優しく叩いた。
「 そんなに興奮しないで、キョーコ。何も考えずに今は落ち着いてごらん、ほら 」
「 おっ…落ち着けるわけが…っ… 」
「 じゃあ冷静になろうって考えてごらん 」
「 …っ…冷静になんてなれる訳がないです! 」
「 そんなこと言わないで… 」
「 敦賀さんは本当に平気なんですか!?私のこの体は19歳かもしれないけど、いま私は17歳でしかないのに!! 」
「 平気だよ。少なくとも俺はただそれだけの違いだとしか思っていないから 」
「 しか?それだけの違いだとしか…って何ですか!それは本当に大きな違いじゃないですか! 」
「 そうかな?…っていうか、君いま17歳なんだ?記憶が復活してるって聞いていなかったけど。どこまで思い出してるの? 」
「 ……3月に、進級試験があって、それで少しのお休みを貰うってところまでで 」
「 ああ、あの…。そうか、セツカの時の記憶が半分戻っているんだ。懐かしいな 」
「 懐かしいって言わないで!懐かしくなんかない!それが今の私のリアルなんです!それが17歳の最上キョーコなの!なのに冗談じゃない!
敦賀さんとほにゃららした記憶だってないのに妊娠なんて、ほんとに冗談じゃ…っ… 」
訴えながら気付いた。
この悶々とする想いが何なのか。
私は嫉妬しているんだ。
19歳の自分自身に。
敦賀さんには好きな人がいて
この想いは一生成就することはないんだと思っていた。
なのに
少なくとも19歳の私には
私が妊娠したことを知って
喜んでくれる敦賀さんがそばにいる。
それが
心の底から憎らしいんだ……
「 なに?俺と愛し合った記憶が欲しいの?それなら今からしてもいいよ? 」
「 ……っっ?!! 」
「 なに驚いた顔をしているんだ。記憶が欲しいならあげるよ、いくらでも。それで君の心が少しでも落ち着くのなら 」
「 …っ…敦賀、さん…? 」
「 大丈夫。怖がらなくても、優しく丁寧にしてあげる。これが原因で子供が流れちゃったら嫌だもんな 」
「 ……っっ…茶化さないでください!私は真剣に言っているのに!! 」
「 俺だって真剣だよ。正直に告白をすると、君に記憶があろうが無かろうがそんな事はどうでもいいんだ、俺は 」
「 どうでもいい? 」
「 ごめん、その言い方は少し乱暴だったかな。どうでもいい、じゃなくて、どっちでもいい、だ。
君は記憶がない事を気にしているみたいだけど、記憶はそのうち戻るかも知れない訳だろ?だったら焦らなくてもいいじゃないか。
結果としてそれ以上戻ることが無くても、記憶はまた積み重ねて行けばいい。俺にとってはただそれだけのことなんだよ 」
「 そんな…。敦賀さんは平気なんですか?一緒に暮らした1年間の記憶が私の中にたとえ戻らなくても? 」
「 それはそれとして受け止める。それだって君が居なくなるわけじゃないんだ。そこには固執しないよ、俺は 」
「 …っ… 」
「 だから、って訳じゃないけど、子供は絶対に産んで欲しいんだ、キョーコ。堕ろすことは考えないで欲しい。
不満があるならそれを俺に全部ぶつけて構わないから。俺は君の気持ちが軽くなるまで、精一杯努力をするから。…ね? 」
「 ……っ……う…… 」
再び大量の涙が溢れた。
心の奥がこんなにも痛い。
どうして?
敦賀さんはこんなにはっきり自分の気持ちを口にしてくれるのに
どうして19歳の私は誰にも内緒で
3年分もの記憶を失くそうと決めたの?
それがどうしても分からない。
『 大海原に身を任せたら、きっと気付けるはずですよ。
悩みと、それに対する答えと、その答えに至る理由が… 』
そんなの少しも見えなかった。
こんな事をしている場合じゃないのに。
「 そんなに泣かないで、キョーコ。……こっち、おいで? 」
「 ……っ…… 」
なのに、私は
自分を抱き寄せてくれる大きな手を振り払うことが出来なかった。
ダメよ、私。
私が親になんてなれるはずがないでしょう?
私が親になんて
絶対なりたくなんてないのに……。
⇒◇22 に続く
キョーコちゃん。
敦賀さん、まだ晩御飯を食べていませんぜw
⇒ふるいの中に残るもの◇21・拍手
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