いつもありがとうございます、一葉です。
弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、愛海様からお与かりした原作沿い記念リクエストをお届け致します。
予想外の長丁場になっております。でもラストまではもうちょっと。
お付き合い頂けたら幸いです。
※すみません。内容にミスがあって一時的に記事を取り下げ、修正してから再アップしました※
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■ ふるいの中に残るもの ◇20 ■
「 …それで、記憶がだいぶ混乱していて、つい先日あったことなのにそれをすぐ思い出すことが出来なかったんです 」
翌日の昼過ぎ
私は再び自分が入学した大学のキャンパスに足を運んでいた。
つわり症状がひどいので休み休み行ったけど
私の話を聞いた先生は
当たり前の顔つきで、そうでしょうね…と言ってのけた。
「 まぁ、そうでしょうね。それで普通だと思います 」
「 普通?! 」
「 ええ、普通 」
「 そんなバカな!だって、思い出した記憶っていうのは過去のものじゃないですか。なのに2~3日前の新鮮な出来事をすぐ思い出せないって、おかしくないですか?!なのにそれが普通? 」
「 それで普通ですよ、京子さん。言ったでしょう。無意識には時間認識がないって。だけど思考というのは常に過去の出来事を時系列で考える。恐らく、あなたは忘れていた記憶を一気に思い出したあと、それを時系列順に並べたのでは? 」
「 並べ…ました。記憶の整理をしたくて 」
「 ね。人間の脳というのは本人にとって耐えられない記憶はシャットアウトするように出来ている。でもあなたの記憶喪失はそれとは全く違うから。
ちなみに、まだ全部を思い出した訳じゃないってことですよね 」
「 まだです。思い出せたのは一年分にも満たない記憶です 」
「 だったら余計だ。前の出来事を思い出したあなたの記憶と、最近あった出来事には2年以上のタイムラグがある。つまり時間軸でのつながりが無いってことです。思い出した記憶を古い順に並べたことで余計に最近の記憶が一時的におざなりになってしまったということでしょう 」
「 あ…… 」
「 ほら、説明されたら納得できる。
人間はある環境の中に長時間いると自分を客観視出来なくなることがある。そういう意味で言えば、行動心理学専門の僕に相談を持ち掛けてきた京子さんのそれはなかなかのファインプレーです 」
そう言って先生は朗らかに微笑んだけれど
私は到底笑顔を返す気にはなれなかった。
「 ……先生、お伺いしたいことがあります 」
「 はい、まだ何か? 」
「 私の記憶を一時的に封じたのが催眠術なら、催眠術でその封印を解くことも可能ですよね?それ、やってもらえませんか?!私、もうこんな状態は嫌なんです。すべてを早く取り戻したい! 」
「 …んー、そうですねぇ。ま、出来ないことはないですけど。お断りします 」
「 先生!! 」
「 京子さん。実はあなたがいずれそう言って来るだろうことは想定済みでしたよ。…というか、あなたは本当に自分のことをよく理解していらっしゃる。
依頼をお受けしたとき、僕はあなたからこう言われていました。記憶を失くしたあなたがもしそう言って来たら、必ず突っぱねるように…と。なのでお受けできません 」
「 …っ!!やだ。もう、どうして…… 」
「 ねぇ、京子さん。記憶がない状態が不安なのは分かります。それは地に足がついているようで、常に足元がぐにゃぐにゃと揺れている様な奇妙な感覚だろうということも 」
「 ふあん…? 」
なのかな、私。
そんなの、これっぽっちも感じてないって
そう思っていたけど。
「 足元がグニャグニャしているから常に焦点が定まらない気がするのでしょう。だったら、いまは波に揺られているのだと思いなさい。
揺れる視界で自分の足元にある石に躓かないように歩かなきゃと気を張って歩むより、大海原に身を任せて空を仰いでみると良い。そうするとね、視界は揺れているかもしれないけど、そこにあるのが、空と雲と太陽だけだとはっきりと気づけるはずですから 」
空と雲と太陽だけ?
それを見つけた所で一体なにが
「 それはね、京子さんの悩みと、それに対する答えと、その答えに至る理由です。足元だけを見ても景色は見えない。人間は常に前を、上を見なきゃ。そうしたらきっと見えてきますよ。もっと自分の心とちゃんと向き合いなさい 」
「 ………っ… 」
結局、先生と会って
自分の記憶を取り戻そうとした私のそれは
他ならぬ19歳の自分によって阻止された形となってしまった。
意気消沈しながら校舎を出た所で私は敦賀さんに電話をかけた。
そういう約束だったのだ。
もちろん敦賀さんは今日も仕事だけれど、用が終わったら即電話。それをすると約束するなら出かけてもいい、と許可を受けての行動だった。
ちなみにこの電話は敦賀さんが用意してくれたものだ。
私のスマホは文字列のロックがかかっていて、解除できない限りは使えないから。
『 もしもし、キョーコ? 』
「 はい、私です。終わりました。来た時と同じように今から電車で帰ります 」
『 帰らなくていい。迎えが行ってるはずだから 』
「 迎え……っっっ??? 」
驚いて固まってしまった。
何故かと言うと、少し離れたその先に、秘書さんと一緒に社長さんが立っていたのだ。
そのいで立ちは、どう見ても足長おじさんとその執事…にしか見えなかった。
もうほんとにこの社長さんは…
「 何していらっしゃるんですか…。なんですかその恰好 」
「 ちょっとした余興だ。アイツの代わりにな 」
「 …そうですか 」
携帯をバッグに仕舞い、導かれるまま私は車に乗り込んだ。
社長さんがその後に続いた。
「 どうだ?嫁を迎えに来た義父って雰囲気になっとるだろう? 」
「 え? 」
アイツの代わりって
敦賀さんのことじゃない?
義父ってことは
つまり敦賀さんのお父さん風ってこと?
真顔になった私の変化に社長さんは気づいたはず。
けれどそれには一切触れず
敦賀さんが依頼したのだろう。社長さんはこのあと、女医さんが院長をしている産婦人科クリニックに私を連れて行ってくれた。
そこで私が知ったこと。
現在、私は妊娠8週。3ヶ月目に入っているということだった。
「 え?3ヶ月?3ヶ月って、なんでそんなに経っているの? 」
正直、混乱した。
私が催眠術を受けてからようやくひと月という頃合いだったから。
やっぱり19歳の私は妊娠していた事を知っていたんだ、と思った。
「 あのね、まず言うけど、妊娠1日目ってHした日じゃないのよ? 」
「 え? 」
「 そもそもHしてすぐに受精って出来ないの 」
「 そう…なんですか 」
「 そう。妊娠週数っていうのは、着床してから数えると考えがちだけど、実際には最後の生理が来た日を初日と数えるの。最終月経日を妊娠0日として数えて、妊娠0~6日が妊娠0週。妊娠7~13日が妊娠1週目になるのよ 」
「 最終月経開始日?妊娠0週?? 」
「 もっとわかりやすく言うとね、妊娠0週0日っていうのは、最終月経初日のこと。妊娠1日目は生理の2日目ってことよ 」
「 え?生理なのに妊娠2日目?余計に混乱… 」
「 生理ってだいたい一週間ぐらいあるわよね。その生理が終わった妊娠2週に排卵が起きて、卵管膨大部というところまで移動した卵子へ精子が入り込んで受精。受精卵となった卵は約6日かけて子宮へ到着し、子宮内膜に着床。この時点で妊娠3週目。そして6~7日かけて内膜へ侵入して着床。
そうするとこのタイミングがだいたい次の生理予定日と重なっていて、妊娠でいう所の4週目になるの。この頃に妊娠ホルモンが分泌されるから市販の検査薬でも妊娠の有無が判るわ。判定窓にラインが出れば陽性、無ければ陰性ね 」
そして先生は
妊娠週数とは、妊娠の経過を判りやすくするためのもので、カレンダー上の数え方とは異なることを説明してくれた。
一般的に妊娠期間は満280日で、分娩予定日までの妊娠週数は40週なのだそうだ。
今が8週目という事は、逆算すると催眠術を受けたあの日あたりが4週目だったことになる。だとしたら19歳の私はこの妊娠を…
「 ……知ってた?それとも、知らなかった? 」
それから、つわりには個人差があること。
平均的には妊娠4週ぐらいから始まって、ピークはだいたい8~9週だということも教えてくれた。
いまが8週ってことは
中絶が出来る21週まではまだだいぶ時間がある。
記憶の無い私には、それがタイムリミットだとしか思えなかった。
そんな事を考えてすぐ頭に浮かんできたのは
陽性反応が出ている検査薬を前にして、信じられないほど眩しい笑顔を浮かべた敦賀さんのそれだった。
―――――― 最高!最高に嬉しい…
「 …って、英語で喜んでいたっけ 」
…っていうか、なんで英語なの。
診察が終わったあと、待合室で待機してくれていた社長さんに言われた。
「 なんか、あんまり嬉しそうじゃねぇな、最上くんは。もしかしたら迷っとるのか 」
「 当然です。だって私、いま17歳ですから 」
「 は?……あ、ああ、そうなのか?俺は、蓮が最上くんのことをキョーコと呼んどったから、てっきりもう… 」
その先は言われなくても判った。
そうか、社長さんは私の記憶が戻ったと思っていたんだ。
そう言えば、敦賀さんはいまどう思っているんだろう。
私の記憶がまだ戻っていないこと。
今夜それとなく聞いてみよう…。
……と思っていたけれど
このあとの敦賀さんがもう本気で凄かった!!
⇒◇21 に続く
言ってなかったですけど、この催眠術の先生(…と表現しておく)は、緒方監督をイメージしていたりします。
オリキャラって言うより、記憶についての説明者という位置づけなので名無し…なのはいつものこと(笑)
⇒ふるいの中に残るもの◇20・拍手
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