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■ ふるいの中に残るもの ◇31 ■
たぶんその時間は、敦賀さん的に言えば予定よりだいぶ早めの時刻だった。
だけど一般的には深夜と呼ばれる時間帯に違いなくて
しかもそうなるだろうと予想出来ていた私は、わざと個室のカーテンを開けっぱなしにしていた。
その方が、お互いにちゃんと顔が見えるかな、と思って。
病室の扉が静かに開き
その音を背中越しに受け止める。
私は瞼こそ閉じていたけれど、決して眠ってはいなかった。
昼間、点滴を受けていた間中ずっと寝ていたので、それで目が冴えていたのだ。
「 ……キョーコ… 」
囁きながら
頬に触れる大きな手。
愛しくて、涙が溢れてしまいそうだと思った。
だから言わなきゃ。
あなたが苦しんでいる時間を一秒でも短くしてあげたいから。
「 お帰りなさい、敦賀さん。お疲れ様でした 」
「 …起きてたの?それともいま起きた? 」
「 起きていたんです。昼間、さんざん寝ちゃったから眠くなくて 」
「 そう。……お腹は?まだ痛い?痛み止め、もらったりした? 」
「 いえ……っ… 」
ふいに旅立ってしまった赤ちゃんを思い出して、涙がこぼれてしまいそうになった。
いいんですよ、敦賀さん。
この身がどれだけ疼いても。
だって私、今は本当に後悔しているから。
腹部の痛みはだいぶ薄れていた。
時間が経ったせいだろうか。それとも受けた点滴に…?
頭を横に振って
ちゃんと敦賀さんに謝らなきゃと
私は静かに身体を起こした。
そんな私を気遣いながら
敦賀さんはちょうど私の膝の隣に、私と向かい合うように腰を下ろした。
「 いいよ、無理に起きなくて… 」
「 平気です。それより私、敦賀さんにお伝えしたいことがあって 」
「 …っ…なに…? 」
「 今回のことについて 」
「 ん? 」
「 敦賀さんは知らなかったでしょうけど、19歳の私はピルを服用していたんです。たぶんそれは、妊娠を回避するために。
私ってば本当にズルいんですよ。敦賀さんの愛情は一身に受け止めたい。だけど子供は欲しくない。きっとずっとそう思っていたんです。
その薬を見つけたとき、社さんからお借りしたタブレットを使ってネット検索をしました。それで見つけた添付文書に、経口避妊剤一般使用における失敗率は9%とあったんです 」
「 ……だから? 」
「 だから、今回、私が妊娠したのは色んなことが影響し合った結果かなって。敦賀さん、言っていたじゃないですか。避妊具を着けていても妊娠の可能性はゼロじゃないって。だから、このことで敦賀さんが謝る必要はないって話です。だって喧嘩は両成敗って言うじゃないですか。そりゃ、これはケンカとはちょっと違いますけど、でも一人じゃ妊娠は出来ませんから。
それより、むしろ謝らなきゃならないのは私の方だと思います。あんなに喜んでくれていたのに、守れなくて本当にごめ……っ… 」
「 違うよ、キョーコ。君は誤解している 」
「 え? 」
「 俺、知ってたよ。君が俺に内緒でピルを服用していたこと。俺は気づいていたんだ 」
「 え?うそ… 」
「 嘘じゃない。俺がキョーコを初めて抱いたのは、付き合い始めて割とすぐの頃で…。一緒に暮らすようになったら当然、肌を重ねる回数も増えていった。だから割と早めに気づけた 」
「 ……どうしてですか? 」
「 最低でも一日2回、ハグをしあう習慣がある…って、前に話しただろう。それはね、一緒に暮らし始めて自然とそうなったんだ。
一方、ピルの避妊効果っていうのは、血液中のホルモン濃度を高め、体に妊娠していると勘違いさせることで排卵をストップさせるもの。
体が妊娠していると勘違いしているから、当然それが体温として現れる 」
「 あっ… 」
「 最初、君の体温が上がっているのに気づいたときは本当に嬉しかった。いつキョーコが気づくか、いつ俺に報告してくるかって、ワクワクしながらその時が来るのを待っていたんだ。だけど…… 」
「 普通に、生理が… 」
「 来たんだ。さすがに何度もそれを経験すれば嫌でも気づく。だからこそ俺は焦った 」
「 ??焦った? 」
「 焦ったんだ。君が大学に入学してしまったから。
俺ね、去年、君が19歳の誕生日を迎えた日に君にプロポーズをしていたんだ。ちなみにその返事は保留にされている 」
「 …あ、それ…は、はい……実は、存じておりました… 」
「 あれ?驚くと思ったのに。ま、いいか。だから焦った。大学は、高校とは桁違いの新しい出会いがあるだろう。しかもそれはキョーコだけの世界だ。俺が知る由はない。その上、学生の間は仕事をセーブして学業に力を入れるという。
……実際、大学に通うようになってからキョーコは毎日とても楽しそうに、忙しそうにしていた 」
「 そう…なんですか。へぇー 」
「 俺のプロポーズは保留のままなのに、キョーコは毎日溌溂としていた。だから焦った。いつか君を誰かに盗られてしまうかもしれない。そんな危機感が浮かんだ。……だから、社さんにお願いして、3日間の休みを強引に貰ったんだ。既成事実を生み出したくて… 」
「 え? 」
「 ……さすがにそこまでは調べなかった?そうだよな。でも俺は調べた。ピルを突破する方法を…。
ピルは、毎日同じ時間に服用することが求められている。だけど、人間だから忘れる事だってあるだろ。
服用の注意点としては、1日のうちで飲み忘れた場合は思い出した時に。丸一日飲み忘れた時は2錠を服用。そして、丸2日飲み忘れた場合は内服をストップし、次の生理になってから再開する 」
「 ……っ…まさ、か… 」
「 そう、そのまさか。俺は3日間、ほぼ片時も離れずキョーコとベッドで過ごした。もちろん避妊具は使っていたけど、そんなの意味ないぐらいにキョーコのことを離さなかった。
精子は環境が良ければ一週間ほどは体内で生き続ける。その間に排卵が起こればもしかしたら受精するかもしれない。それは本当に賭けだった。だから、君が妊娠していると知った時は心の底から嬉しかったんだ。君をようやく手に入れられた気がした。
…ごめん。分かっただろ。偶然とか、失敗とか、そんなんじゃない。俺がそう仕向けただけなんだ 」
びっくりして
何も言えなくなってしまった。
明らかに自分の思考が停止している。
意外な告白をしてきた敦賀さんの、神妙な面持ちを見つめることしか出来なかった。
そうか。
だから敦賀さん、私に思い出せって全然言わなかったのかもしれない。
「 ……いま、意外と執念深い男ねって思っただろ? 」
「 おおおおお思ってないですよ!! 」
「 フ……冗談だよ。こんな事があったから、漠然と俺はこう思っていた。君が催眠術を受けたのは、俺に抱かれないようにするためだったのだろうと。そのための3年間だったのだろうと 」
「 違う!!それは違うと思います!! 」
「 どうして?記憶がないのにどうしてそう言える? 」
「 どうしてって…っ…だって…… 」
――――――― リミットまでにきちんと答えを見つけて
リミット。リミットって何のこと?
次の生理までに思い出せって意味だった?
いいえ、違う。
だってあの時はちょうど妊娠4週頃だったのだ。
4週ってことは、次の生理予定日頃だったってこと。
薬を飲む気だったのなら記憶を失くす方が危うくない?
そりゃ、記憶が無いのだから敦賀さんとほにゃららする可能性は確実に低まるけれど
それだって低まるだけで絶対とは言い切れない。
事実、敦賀さんは記憶がない私をあの家に連れ帰った。
それに、そもそもそんな都合よく記憶が戻るとは限らない。
「 キョーコ…… 」
「 あっ、ごめんなさい。つい思考の小部屋に………うん?敦賀さん、どうしたんですか、跪いたりして… 」
「 俺がそういう男だってこと、君には知られたくなかった。でも同時に知って欲しいとも思った。だからいま包み隠さず告白したんだ。
昼間、流産の原因を、先生は受精卵の異常だと説明してくれただろ。でも俺はやっぱり自分のせいだとしか思えなかった。挙句、あんなに君を泣かせてしまった。そのことを深く反省している 」
「 違う。それだって敦賀さんのせいじゃないですよ! 」
「 キョーコ。君はいま、まだ17歳だね? 」
「 はい、記憶はそう… 」
「 そう。でもね、俺にとっては17歳でも19歳でも、どちらも君に違いないんだ 」
「 はい、そうですね?敦賀さん、ずっとそう言っ…… 」
「 だから……。最上キョーコさん、俺と結婚してもらえませんか?そしていつか夫婦として、新しい命を育みたい 」
言いながら敦賀さんはポケットをまさぐり
四角いケースを取り出した。
私に向けてパカリ…と開かれたそこが
月明かりを受け、とても眩しく輝いた。
「 子供はいつか、いつかで構わない。無理強いしたり、強制したりしないと誓う。だからどうか俺と結婚してください 」
「 ………っっっ!!! 」
そのとき、今までで一番大きなフラッシュバックが起こった。
⇒◇32 に続く
最終話じゃなくてすみません。収まり切らなくて二つになっちゃいました。
え?予想してました?あはははは( ̄▽ ̄)
⇒ふるいの中に残るもの◇31・拍手
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