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■ ふるいの中に残るもの ◇27 ■
定められたリズムに則り
時の流れを告知するかの如く、機械音が鼓膜を揺らす。
その音をどこか遠く
あるいはひどく近くに聞いていた私の意識は朦朧としていた。
例えるなら真っ暗な水底に沈んだまま
生まれて初めて瞼を開いた貝が
焦点が合わないまま瞳に映った世界のような
そんなうすぼんやりした意識だった。
「 ……か? 」
「 ……。わざわざ………………すか。………です…ぞ… 」
だからだろうか。
機械音とは別に、敦賀さんと社長さんの話し声が微かに聞こえていたけれど
気を使ってくれているのだろう
小さな声で交わされている会話は、うすぼんやりした意識の私が拾うことは到底かなわず
とぎれとぎれの言葉たちのみが
いたずらに私の鼓膜を通過するだけだった。
……あれ?
そう言えば私
どうしていまこんな状態なのかしら。
おかしいわ。
たしか、敦賀さんとLMEに行ったはずなのに。
かつてお世話になった、あの衣装部屋に……
――――――― いいか。お前に課題をやる
不思議と懐かしく思える
……オレのお父さん。
先生から与えられた課題で
先生の息子さんのクオン少年を演じるにあたって、お世話になった衣装部屋。
ねぇ、お父さん。
私ね
いつの間にか
19歳になっていて
あのときお父さんに熱弁をふるった、あの敦賀さんの家に、少し前から住んでいるんです。
しかもね、いま
私のお腹には赤ちゃんが……
お母さんになんてなりたくない。
ずっとそう思って生きて来たけれど
本当は
ちょっといいかなって、今は思い始めているんです。
だって敦賀さんが
信じられないほど嬉しそうな顔で
この上もなく喜んでくれたから……
私と赤ちゃんのことを
とても大切に想ってくれているから。
もちろん、怖いんですよ。
こんな自分に母親としての意識なんて芽生えるのかなって、想像するだけで怖いです。
でも、大丈夫かもって。
だってね
敦賀さんがいてくれるから。
だからいいかもって…
考えるのは甘いですかね。
でもね、私は
たとえこれから生まれて来る赤ちゃんに愛情を注ぐことが出来なくても
敦賀さんがそばに居てくれるというのなら
それこそ幼少期から培ってきた仲居スマイルを発揮して
無の境地で母親役を演じてみせるわって、ね。
大丈夫。
出来ますよ、それぐらいのこと。
だって赤ちゃんのお父さんが、私のそばにいてくれるのですから。
そんなわけで、赤ちゃんへの愛情は
敦賀さんにお願いしようかなって
そんなことを考えている次第です……。
「 お待たせしました!病室のご用意が出来ましたので移動しますね 」
「 …っっ!!! 」
いきなり大きな声が聞こえて、心臓が止まりそうなほどびっくりした。
さほどの間を置かずに全身が振動を感じ始めると、それが酷く響いて鋭い痛みがお腹に走った。
――――――― やだ、やめて、揺らさないで!お腹が痛い……
このとき私の身体から
既に赤ちゃんが生まれ落ちていたことを
私は何も知らなかった。
確かに聞こえていた機械音が徐々に小さくなっていって
完全に聞こえなくなった頃には振動もなくなった。
ああ、良かった。
揺れがおさまったら痛みも徐々に薄れて来たわ。
私一人が痛いのなら
少しぐらいは我慢するけれど
でも私がいつまでも痛がっていたら
きっとお腹の赤ちゃんは居心地が悪いに決まっているもの。
だから、痛くない方が安心よね?
「 ……フ… 」
頭の中で
自然と赤ちゃんに話しかけている自分に気付いて
これが母親の自覚ってものかもしれないな、と思った。
それって何だかとてもくすぐったくて
でもこんなにも胸の奥が温かくなるものなのね。
「 もうそろそろ意識が戻る頃だと思いますよ 」
女性の声が聞こえた。
聞き覚えのない声だった。
「 そうですか 」
「 では、何かあったら枕元のナースコールボタンを押してください 」
はい、と敦賀さんの声が聞こえて
去ってゆく人の気配を感じた。
ついですぐ人の気配がやって来て
それがモー子さんとマリアちゃんなのが判った。
「 お姉さま!! 」
「 キョーコ! 」
あれ?あ、やだ、思い出したわ。
私、確か衣装部屋で急にお腹が痛くなったのよね。
それでしばらくの間、意識を失っていたのかも。
ね?そうでしょう?!
ごめんね、びっくりさせてしまって。
でも私なら大丈夫だから。
ごめん。
いま目を開けるわ ―――――――
生まれて初めて瞼を開けた貝のように
たどたどしく視界を拓いた。
すると、視野いっぱいに誰もが私の顔を覗き込んでいて
まるで記憶を失くしたあの日を再現したみたいだと思った。
場所はLMEではなかったけれど。
「 起きた!蓮さま、お姉さまが目覚めましたわ! 」
「 …っ…キョーコ……平気? 」
「 ……え?ここは病院、ですか? 」
「 そう。衣装部屋で意識を失って、救急車で運ばれたんだ 」
「 そんな……痛っっ!! 」
慌てて起き上がろうとすると
今まで経験したことのない強烈な痛みが容赦なく腹部に襲い掛かった。
⇒◇28 に続く
全然、ぜんっぜん、ずぅえんっぜん、終わらない!!
⇒ふるいの中に残るもの◇27・拍手
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