「世界図絵」井ノ口淳三訳 平凡社 の「122 都市」と「123 都市の内部」をみてから、ボグダーノフ師匠のロシア語訳をみると、ラテン語原文とちがっている点が、ほかの項目とくらべても特におおいと感じる。
これはボグダーノフ師匠のラテン語解釈だけの問題ではなく、「都市」に対するかんがえ方のちがいではないか、という気がする。
「122 都市」につぎのような記述がある。
ラテン語:Intra muros est Pomoerium, extra Fossa
井ノ口淳三訳:城壁の内側には城塞、外側には堀があります。
「城壁の内側が(都市の)本体であり、外側は堀だ(本体ではない)」という意味だろう。
これをボグダーノフ師匠はつぎのようなロシア語に訳した。
внутри стенъ имеются печуры или бойницы, а вне града ровъ
ボグダーノフ師匠は「pomoerium」(ポメリウム)(ローマ帝国の境界線)ということばを「печуры」(petury)「или」(ili)「 бойницы」(boinitsy)と訳した。
これは
「城壁の内側につくられた大砲をおくための砲台」
「あるいは」
「銃眼」
のことらしい。
ボグダーノフ師匠のロシア語訳のいぬかいいての日本語訳:
壁の内側に砲台室あるいは銃眼があり、一方、壁の外側には堀がある。
原文は城壁にかこまれた民間のスペースのことをいっているのに、ボグダーノフ師匠は、城壁の内面の軍用装備にかえてしまった。
ごんざはボグダーノフ師匠のロシア語を忠実に訳した。
なけ かべん ある よかくの とこる いるとこる あらけ くにのわ ふぉり
ごんざ訳のいぬかいいて訳:
壁の 中に 囲郭の ところと 射るところが あって 国の 外には 堀がある。
江口泰生訳はごんざの『よかく』を「四角」とかんがえているようだけど、それでは意味が通じないし、ごんざは「四角」のことは『よかど』とよぶ。
「четвероуголныи」(chetverougolnyi)「四角の」 『よかどんと』
現代日本語の「い」が、ごんざのことばで「ゆ」や「よ」になることがある。
「ロシア語」(ラテン文字転写)「村山七郎訳」 『ごんざ訳』
「ачагъ」(achag') 「炉」(いろり)『ゆるい』
「делфинъ свинья морская」(delfin' sviniya morskaya)「いるか(海豚)」『ゆるか』
「упокоеваюся」(upokoevayusya)「安息を得る」 『ねちょる よく』(いこう)
このルールを適用して『よかく』の『よ』を「い」にかえると、
日本国語大辞典 「いかく(囲郭)要塞などの中央に位置する、塁壁などで囲まれた重要な地点。また、その塁壁。」
むずかしいことばだけど、意味的にはピッタリだ。