ごんざの辞書のかきかえ155「ふとつぃおいぇたと」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 

「ロシア語」(ラテン文字転写)   「村山七郎訳」   『ごんざ訳』

 

「совоспитомец」(sovospitomets)「一緒に養育する者」『ふとつぃおいぇた

 

 鹿児島県立図書館の原稿コピーをみたら、ごんざは(фтоцыоя)(ftotsyoya)(ふとつぃおや)とかいてから(я)(ya)にかさねて『етатъ』(etat')『いぇた』とかいていた。

 

 みだし語は「со」(so)+「вос」(vos)+「питомец」(pitomets)という構造だ。

 

岩波ロシア語辞典 

「со Ⅱ3協力、随伴、相互動作を意味する名詞、形容詞をつくる。」

「вос 1'上へ'の意。2'再び、新たに'の意。3'返報、対応'の意。4'急激な開始、発現'の意。5'最後まで、完全に'の意。」

「питомец 1養い子。2教え子、弟子;学生、生徒。3飼って(育てて)いる動植物。」

 

 村山七郎訳は「一緒に養育する者」になっていて、日本語の連体修飾のわかりにくい点で、(一緒にそだてた保護者仲間)なのか(一緒にそだった子ども)なのかわからない。

 

 ごんざのかきかえは現在形の『おやす/おやかす』(そだてる)から過去形の『おいぇた』(そだてた)へのかきかえなんだろう。

 

 ただ、他動詞の「おやす」(そだてる)の過去形は(おやした)→(おやいた)→(おいぇた)と変化して(おいぇた)で、自動詞の「おゆる」(そだつ)の過去形も(おいぇた)というおなじ形になるんじゃないだろうか。

 

 みだし語の意味は(一緒にそだった子ども)だろうから、ごんざの『おいぇた』が自動詞である可能性もあるとおもう。