「世界図絵」で、ラテン語の本文とはちがう訳語をボグダーノフ師匠がかくことがあることを前にかいた。
「世界図絵」井ノ口淳三訳 平凡社 「51 捕鳥」にも、ちがう訳語をかいているんじゃないか、とおもう例がでてきた。
ラテン語原文:Auceps exstruit Aream superstruit
日本語訳:鳥をとる者は つくる (猟の)場所を (猟に)よくあう
ロシア語訳:птичника устраетъ ловытда ровномъ месте
ロシア語訳の現代日本語訳:鳥をとる者は つくる 猟(のところ)を 平坦な 場所に
ごんざ訳:といとや つくらる とるとこる よかとこれ
ごんざ訳の現代日本語訳:鳥をとる者は つくる 猟のところを いいところに
ラテン語原文では「(猟に)よくあう」ところ(=最適地)となっているのを、ボグダーノフ師匠は「平坦な」ところと訳している。
ところが、ごんざはラテン語原文にちかい『よかとこれ』(いいところに)という訳語をかいている。
なぜボグダーノフ師匠はラテン語原文とちょっとちがう訳語をかいたのか。
そもそも、「平坦な場所」は鳥をつかまえるのに適しているのか。
よくかんがえたら、これはロシア語のつづりに起因しているんじゃないかと気がついた。
たしかに本文に「ровномъ месте」(rovnom' meste)『よかとこれ』
単語リストに「ровныи」(rovnyi)『ふとつよに』
とかいてあるけど、これはボグダーノフ師匠もごんざも「равныи」(ravnyi)だとおもってかいているとおもう。
ロシア語の「а」(a)と「о」(o)のいれかわりは、ごんざの辞書にもでてくる。
岩波ロシア語辞典
「равный 1等しい;同様な、匹敵する。2平等な。3対等な人。4等しい。」
「ровный 1平らな、平たい、平坦な。2まっすぐな、曲がっていない。3そろった、同じような、同一の。」
「равныи」(ravnyi)はごんざの辞書にもでてきて、ごんざは『ふとつよなと』という訳語をかいている。
「ロシア語」(ラテン文字転写)「村山七郎訳」『ごんざ訳』
「равныи」(ravnyi) 「等しい」 『ふとつよなと』
『ふとつよ』は、ふたつ以上のものがおなじである、という意味で、漢字の「一様」にあたるとおもう。
「平坦な場所」で鳥をとるのではなく「(条件に)一致する(適した)場所」で鳥をとるという意味で、ラテン語原文もロシア語訳もごんざ訳も一致しているんだろう。