「ся動詞」は「再帰動詞」ともよばれる。
「再帰」という概念は日本人にとってむずかしい。
例1
1)床屋はお客のひげをそる。
2)床屋は自分のひげをそる。
日本語では「そる」という動作の対象について「お客のひげ」と「自分のひげ」がいれかわるだけだけど、ロシア語では「ひげをそる」という動作の対象が他人か自分自身かで動詞がちがって、2)はся動詞をつかう。
例2
3)母は子どもに靴をはかせる。
4)子どもは靴をはく。
日本語では「はく」のが標準で、他者にはかせる時には使役形をつかうけど、ロシア語では「靴をはかせる」のが標準で、4)の自分ではく(自分にはかせる)時にはся動詞をつかう。「靴をはかせる」という自分の動作の対象が自分自身だ、というようにかんがえるわけだ。
これはブルガリア語でもだいたいおなじで、私がブルガリア語を勉強した時にはとまどったんだけど、ロシア語の辞書をつくったごんざはもっとずっと大変だったはずだ。
どうしてかというと、ブルガリア語では、1)と2)、3)と4)はおなじ動詞で、2)と4)は文の中に
「се」(se)という「再帰人称代名詞」がはいるだけだから、辞書のみだし語になる動詞は1)と3)だけだ。
ごんざがブルガリア語日本語の辞書をつくるのなら、1)に「そる」3)に「はかせる」という訳語をかけばいい。
ところが、ロシア語では2)は1)のся動詞、4)は3)のся動詞で、4つ全部別のみだし語になる。
3)に「はかせる」、4)に「はく」とかくのはいいとしても、1)に「そる」とかいて、2)になんとかくか、「そられる」ではないから、ごんざはなやんだにちがいない。