ごんざの辞書のかきかえ67「おぼえていること」と「わすれないこと」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 ごんざは副詞のみだし語に名詞の訳語をかくことがある。

 

「ロシア語」(ラテン文字転写)   「村山七郎訳」   『ごんざ訳』

 

「подобнО」(podobno)      「似て」     『にたこ

「нераздЕлнО」(nerazdelno)   「分けずに」   『わけんこ

 

1「памятнО」(pamyatno)       「記憶して」   『わすいぇんこ

2「паметованiе」(pametovanie)   「覚えていること」『おぼいぇちょるこ

 

 鹿児島県立図書館の原稿コピーをみたら、ごんざははじめに1に(обоечоръкотъ)(oboechor'kot')(おぼいぇちょるこ(おぼえていること)とかいたのをけして(васъенкотъ)(was'enkot')『わすいぇんこ』(わすれないこと)にかきかえていた。

 

 副詞に名詞の訳語をかくやり方で(おぼいぇちょるこ)という訳語をかいたら、つぎの行におなじ語根をもつ名詞がでてきた。同根の副詞と名詞におなじ訳語をかくわけにはいかない。

 

 ごんざはかんがえて『おぼいぇちょるこ』(おぼえていること)を名詞の方につかうことにきめて、副詞の方をおなじような意味の『わすいぇんこ』(わすれないこと)にかきかえたんだろう。