「ロシア語」(ラテン文字転写) 「村山七郎訳」 『ごんざ訳』
1「врачую」(vrachuyu) 「治療する」 『いしゃする』
2「лечу」(lechu) 「治療する」 『きんそんする』(治療する)
3「врачь」(vrachi) 「医者」 『いしゃ』
4「лекарь」(lekari) 「医師」 『いしゃ』
5「врачевство」(vrachevstvo) 「医療」 『くすい』
6「лекарство」(lekarstvo) 「薬」 『くすい』
1,3,5が同系統のことば、2,4,6が同系統のことばで、1,2は動詞、3,4は動作主、5,6は名詞だ。
5の村山七郎訳とごんざ訳がちがう。「医療」なのか『くすい』(薬)なのか。
ロシア語の「-ство」(-stvo)という接辞は抽象名詞をつくるのにつかわれることがおおいので、単語全体の意味をしらなくても、前半の意味がわかれば、それを抽象名詞化することで意味を推測できる。
「врачь」(vrachi)も「лекарь」(lekari)も「医者」という意味だから、それに「-ство」(-stvo)がついて抽象名詞になると、(医者であること)という意味になる。
(医者であること)は「医療」とも「薬」とも訳せる。
「врачевство」(vrachevstvo)は、ふるいことばらしくて、現代ロシア語の辞書にはでてないけど、教会スラヴ語の辞書をみると「薬」であることがわかる。
「医療」という訳語もまちがいとはいえないけど、村山七郎教授はごんざの『くすい』という訳語に目をとめなかったのかな。
ところで、動詞については、現代ロシア語でもブルガリア語でも2が、名詞については、現代ロシア語でもブルガリア語でも6がつかわれているのに、行為者だけは現代ロシア語とブルガリア語でちがっている。
岩波ロシア語辞典 「врач 医師、医者。」
「лекарь 1医師(帝政ロシアの医者の正式名称)。2へぼ医者。やぶ医者。」
ブルガリア語辞典 「врач 祈祷(きとう)師。」
「лекар 医師。」
現代ロシア語では、4の医者がふるくてあやしい医者で、3の医者がまともな医者なのに対して、ブルガリア語では逆に4の医者がまともな医者で、3は医者あつかいされていない。
アエロフロートの機内で急病になって、CAが乗客の中からさがしだしてきた医者に診察してもらう時は、気をつけた方がいい。ブルガリア人の祈祷師かもしれないから。
CA :ただいま急病のお客様がいらっしゃいます。
お客様の中にврач(vrach)(お医者様)はいらっしゃいませんか?
ブル:はい、私はврач(vrach)(祈祷師)です。