「ロシア語」(ラテン文字転写) 「村山七郎訳」 『ごんざ訳』
1「пелена[пелены]」(pelena) 「襁褓(むつき)」『ふたし』
村山七郎注 cf. フタシは鹿児島方言ヒタシ「襁褓」のこと。TZH.
2「пелынкыи」(pelynkyi) 「 」 『ふたしのと』
村山七郎訳の「襁褓(むつき)」が何なのかわからないので辞書をひいたら(おしめ)(おむつ)のことだった。
鹿児島県立図書館の原稿コピーをみたら、1の1行下に2があるけど、1行全部けしてある。そのことは日本版にはかいてなくて、この行が存在しないことになっている。存在しないから、村山七郎訳もない。
ごんざの訳語は『фташнотъ』『ふたしのと』とかいてあるから、1の形容詞形だとかんがえたんだろう。
でも、みだし語のつづりをよくみると、ふたつめの母音が、1は「е」(e)、2は「ы」(y)とちがっている。
2の方を教会スラヴ語・ロシア語の辞書でみてみると
「пелынь полынь」
教会スラヴ語の「пелынь」(pelyni)はロシア語の「полынь」(polyni)にあたるということだ。たしかに「е」(e)と「о」(o)はよく交替する。
岩波ロシア語辞典 「полынь 1ヨモギ。2いやな奴(ものごと)。」
ブルガリア語辞典 松永緑彌 大学書林 「пелин よもぎ。」
このことばは新約聖書にもでてくる。
ヨハネの黙示録第8章第10,11節
「第三の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。
この星の名は「苦よもぎ」と言い、水の三分の一が「苦よもぎ」のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ。 」
聖書やロシア語ではきらわれものみたいだけど、日本人はヨモギを食用にするし、ブルガリアで「пелин」(pelin)といえばヨモギがはいったワインだ。
ヨモギがはいったワインのことをベルモットとよぶ。イタリアのチンザノが有名だけど、ベルモットはドイツ語(vermut)でヨモギの意味だ。
ブルガリアには、чочосан(chochosan)(蝶々さん)という日本語の名前がついたベルモットがある。
2は『ふたしのと』(おむつの)ではなく(ヨモギの)のはずだ。
ボグ:「пелена」と「пелынкыи」におなじような訳語をかいているけど、全然ちがうものだよ。
ごん:「пелынкыи」って何?
ボグ:においのつよい草の名前だ。聖書にでてくる。
ごん:にんにくかな?
ボグ:ちがう。
ごん:わからないな。
というわけで1行抹消されてしまったんじゃないだろうか。