「ニコライ・レザノフ『露日辞書』にある語義不明の箇所について」浅川哲也 2017という論文をみつけた。
ニコライ・レザノフ『露日辞書』というのは、1793年に宮城県の石巻から出航して遭難してロシアにながれついた船のりを日本にかえすために、1803年から1804年にかけてペテルブルクから航海した船上で善六という漂流民から艦長のレザノフがききとってつくった辞書のことだ。ゴンザの辞書ができてから70年ぐらいあとにつくられた。
2001年に東北大学の田中継根という人が、この辞書に日本語訳と注をつけて発表した。
その資料の問題点を指摘したのがこの論文だ。
つまりごんざの辞書とならべてみると、
日本人 ロシア人 製作年 日本版 出版年
ごんざ ボグダーノフ 1738 村山七郎 1985
善六 レザノフ 1804 田中継根 2001
私がごんざの辞書の日本版の問題点をこのブログで指摘しているのに対して、この論文は善六とレザノフの辞書の日本版の問題点を指摘している。
その指摘の中に、それはちがうんじゃないか、とおもう点がいくつかあったので、かいてみる。
3409<Штаны><ズボン>Ханкомомофики.(Hankomomofiki)「穿く股引」
(?ももひき)
<Штаны>に善六がХанкомомофики.(Hankomomofiki)という訳語をあてたのに対して、日本版ではХанко(Hanko)の部分の意味がわからず(?ももひき)としておいたので、この論文ではХанко(Hanko)は「穿く」がなまったものだ、という解釈をした。
このロシア語はごんざの辞書にもでていて、
「ロシア語」(ラテン文字転写)「村山七郎訳」 『ごんざ訳』
「штаны」(shtany) 「股引、ズボン」 『ももびき』
江戸時代の日本には「ズボン」とおなじものはないから、ごんざもこういう訳語をかいた。
でも「穿く股引」ということばは変だ。
頭にかぶる股引や肩にかける股引があるなら、それらと区別するために「穿く股引」という必要があるけど、股引は全部はくものじゃないのか。
日本国語大辞典 「はんこ(方言)①丈が腰まである筒袖の仕事着。宮城県伊具郡筆甫。②綿入れ袖無しの漁師の仕事着。広島県賀茂郡三津。③山行きの仕事着。滋賀県高島郡朽木。(はんこそで)山形県飽海郡吹浦。④半着物。新潟県新発田。⑤子どもの夏の短い着物。福井県。⑥襦袢。福島県東白川郡棚倉。茨城県。高知県土佐郡土佐山。⑦半纏。福島県東白川郡。長野県南佐久郡。滋賀県。岡山県苫田郡。徳島県。⑧袖無し。袖無し羽織。以下略」
ももひきとぴったりおなじではないけど、要するに、作業する時裾や袖がもたつかないようにした服装という意味のХанко(Hanko)だとおもう。