今回も茶花から
茶道や日本の文化、工芸を
皆さんと一緒に學んでいきたいと思います。
今回はいよいよ茶の湯を代表する花
【椿(つばき)】です。
11月「開炉」になると
茶道ではあたり前のように
床に「椿」が入ります。
そこからは「初釜」も含め
椿一色になりますね。
何故でしょうか?
さらに茶道では椿一種
真の花入に相応しい
格も持ち合わせています。
そこにはどんな格が潜んでいるのでしょう?
日本原産であり、日本を代表する花
そして茶花を代表する花と言っても
過言ではない「椿」
しかし、その背景には不明な点が数多く
古今東西、著名な先生方が
「椿」の解明に取り組まれています。
それほど「椿」は日本人を魅了しています。
私も様々な資料に目を通し、
皆さんと共に學び、
「椿」に新しい視点を
持ちたいと考えています。
今回のテーマ「椿」は膨大な量なので、
二回に分けて配信させていただきます。
◼️椿の名前の由来
《古事記》
新嘗屋 (にひなへや) に生ひ立てる葉広 (はびろ)
斎(ゆ)つ真(ま)椿 其が花の照り坐し
其の葉の広がり坐すは 大君ろかも
仁徳天皇 皇后
仁徳天皇を讃える言葉として
「斎(ゆ)つ真椿」としています。
「斎(ゆ)」または、「斎(ゆ)つ真(ま)」とは
高貴な赤色の花を咲かせ、
神聖で清浄な葉を持つ木として
斎つ葉木(ゆつはき)とも呼ばれ
いつしか、つばきに変化したとも
されています。
三重県にある、みちびきの神と知られる
椿大神社(つばきおおかみやしろ)は
「道別(ちわき)大神の社」として鎮座され
「ちわき」の言葉が変化して「つばき」となり、
仁徳天皇を讃えた美しい「椿」から
漢字を当てたのではないかとも云われています。
記紀の神代の時代から「椿」は神の依代であり、
魔を退けることができる、呪術的植物の
代表として捉えられていたようです。
◼️「椿」という字は日本人が作った!
巨勢(こせ)山の つらつら椿 つらつらに
見つつ偲はな 巨勢の春野を
坂門人足(さかとのひとたり)
このように「椿」という漢字は
万葉集で初見されています。
⚫意味
大和の国から紀の国に向う山路で佇み、
春には咲き連ねる椿の美しさを
思い浮べて詠んでいます。
すでに奈良時代末期~平安に
かけては「椿」という字が定着してきます。
なんとこの「椿」という漢字
驚くことに古代中国の漢字を
充てたのではなく、
春夏秋冬の季節感を大切にした
古代日本人が作った漢字とも云われ
春に咲く木という意味から「椿」
夏に「榎」
秋に「楸ひさぎ」
冬に「柊」
そして万葉期には草とみらていた
「萩」
が国字(和字)として作られたとする説が
牧野富太郎氏をはじめ
現代の定説となっています。
◼️日本の「椿」を決めた、思想家・荘子
古代中國の思想家、
荘子(紀元前369年頃 - 286年頃)が
記した内篇・逍遥遊より
上古、大椿(タイチン)なる者あり、
八千歳を以て春と為し、八千歳を秋と為す。
而(しこ)うして彭祖(ホウソ)は
乃(すなわ)ち今、久(ひさ)しきを以て
特(ひと)り聞(きこ)ゆ。
衆人これに匹(ひつ)せんとする、
亦(ま)た悲しからずや。
⚫訳
大昔、大椿という木があって、
八千年を春、八千年を秋としていた
ところが、(七百歳の)彭祖は現在
長命によって特に有名で、
人々は、長寿のことを話題にする時は
必ず彭祖をひきあいに出す。
何と悲しいことではないか。
上古時代の大椿という木は、
なんと八千年を春とし、
八千年を秋としていました。
後世、この一節から人の長寿を祝って
「椿寿ちんじゅ」という言葉が生まれ、
人が長生きすること、長寿の象徴と
されてきました。
この大椿はもちろん
実在する樹木ではないのですが、
(樹木でさえ無い可能性もあります。)
しかし長寿の霊木であると信じた
万葉期の日本人はこの「大椿だいちん」の
イメージと春の木「椿」を
重ねた事によって
日本の「椿」は、
迎春そして長寿、賀の樹木とされ
現在にいたっているのです。
次回は、
「万葉集や日本書紀の中の椿」
「東大寺二月堂・お水取りの椿」
「秀吉公、利休居士の茶の湯の椿」
をまとめて「椿」を終わりたいと思います。