Spellbound

/精神病院に新所長が赴任した。コンスタンスと新所長は互いに一目惚れ。しかし新所長の記憶がおかしい。新所長は失踪し、コンスタンスは追いかける。


製作:1945年、脚本:ベン・ヘクト、アンガス・マクファイル、監督:アルフレッド・ヒッチコック


■ はじめに

登場人物(キャスト)
 コンスタンス・ピーターソン(イングリッド・バーグマン) 精神科医
 ジョン・バランタイン(グレゴリー・ペック) ?
 マーチソン(レオ・G・キャロル) 所長
 アンソニー・エドワーズ(-) 新所長
 アレックス・ブルロフ(マイケル・チェーホフ) コンスタンスの恩師
 メアリー(ロンダ・フレミング) 患者

原題の「Spellbound」は「魔法にかかってしまった」とかいう意味。

この精神病院は、医師の執務室と居室・寝室が同一建物内にある。屋根裏を除けば二階建てで、執務室は二階にある。

一応「精神病院」と書いたが、患者は病室に閉じ込められてはおらず、自由に病院内を歩き回ることができる。医師や他の患者とも交流している。

夢を描いた場面があるが、この場面は画家のダリが協力している。
 


■ あらすじ

◆ コンスタンス

コンスタンスは病院の中では唯一の女性医師。イングリッド・バーグマンが演じているので、もちろん美人である。メガネをかけた顔もなかなか魅力的である。

しかし他の医師からは、すこしばかり敬遠されているようでもある。コンスタンスが近寄りがたいからである。

それは美人すぎる、あるいは知性がありすぎるからかは、不明である。もしかするとコンスタンス自身が男性を避けているのかもしれない。

◆ 新所長

さて20年間所長を務めてきたマーチソンが更迭されて、代わりの所長としてエドワーズが赴任してきた。いくつも著書があるすばらしい経歴である。コンスタンスはエドワーズの著書をすべて読んでいる。「どれも非凡」との感想。

どのような風が吹いたのかは不明だが、エドワーズとコンスタンスは一目惚れ状態となった。グレゴリー・ペックが演じているので、コンスタンスに釣り合ったイケメンである。

食事の時に「敷地内にプールを作る計画」とコンスタンスがテーブルクロスの上にフォークを引っ張って説明をしたところ、エドワーズは気分が悪くなったようで頭を抱えた。

コンスタンスが同僚と話しているとエドワーズからメモが届いた。ガームス(患者)の状態がおかしいとのこと。現場に急行する。ガームスは「父親を殺した」と言っているが、コンスタンスは「そう思い込んでいるだけ」と言う。さらにコンスタンスの知識の披露が続く。

ガームスの対応を終わるとエドワーズは「午後は休む。付き合ってくれ」と言う。ここである女性からエドワーズに電話がある。エドワーズはすぐに電話を切ってしまった。

二人で病院の外へ散歩に行った。普段のコンスタンスと違って楽しそうである。

◆ エドワーズはは何者?

夜コンスタンスはなかなか寝付けない。図書室に行く。エドワーズの著書「罪責感の迷宮」を取り出した。

その本を持ってエドワーズの執務室に入った。「あなたと本の話をしたかったの」と言ったものの、続けて「本の話なんて嘘」と言う。「いつもの自分じゃないみたい」「素敵だよ」「そんなこと言わないで」と続く。

当然の成り行きとして二人はキスをする。しかしエドワーズはコンスタンスのローブを見て、また奇妙な反応をする。テーブルクロスの時と同じである。

ここで急に電話。「ガームスが喉を切った!」。二人で急いで手術室へいく。すでに他の医師が対応中。ここでエドワーズは気分が悪くなり倒れる。みんな驚いた眼で見つめる。エドワーズは部屋に戻った。コンスタンスが付き添った。注、みんなが驚くのは、医者のエドワーズが、この程度で気分が悪くなるのが変だから。

ここで「罪責感の迷宮」にあった著者サインと、昼間エドワーズから貰ったメモの筆跡が違うことに気が付く。コンスタンスは横になっているエドワーズを見つめる。先ほどまでとは違った眼付きである。

エドワーズは話し出す。「思い出した。エドワーズは僕が殺した。そして入れ替わった。僕はエドワーズじゃない」。コンスタンスは「病気なのよ、記憶を失っているだけ。殺人は妄想」。

エドワーズは自分が持っているシガレットケースを持ち出した。それには「J.B.」のイニシャル。ホテルで荷造りをしているときに見つけたらしい。その時にも頭痛がしたとのこと。

コンスタンスは「あなたの名前よ。数日間は警察も気が付かない。その間に解明を」と言う。とりあえずその場はJ.B.を寝かせて、コンスタンスは部屋に帰った。

◆ エンパイア・ステート・ホテル

しかし翌朝、J.B.からのメモが差し入れられていた。「エンパイア・ステート・ホテルに行く。さようなら」とあって、J.B.は姿を消していた。「さようなら」と言いながら行先を知らせるのは変だけど。

エドワーズの秘書だったという女性が訪ねてきた。「電話の人は別人です」。マーチソンは「エドワーズを殺して入れ替わった。おそらくは記憶喪失」と言う。

コンスタンスはホテルに行った。なんとかJ.B.が泊まっている部屋を突き止めた。

「何しに来た?」「自分で決めるわ、あなたを治すまで一緒にいる」。ここでJ.B.がキスをすると「医師としてきたのよ、関係ないわ。関係ないわ」と言いながらキスをして抱きつくのは笑える。

コンスタンスは手順に従って、J.B.に過去のことを思い出すように誘導していく。新聞には「逃走した男は、エドワーズ医師と一緒にいた患者ではないか」と書いており、J.B.は「何度考えても同じ結論に行きつく。僕は彼を殺してなりすました」。

コンスタンスは、彼女の知識にもとづいて「すべては想像よ。それは罪責感のせいよ。幼少期に原因がある」と言う。J.B.は「君は僕以上にイカレてる。誰かも分からない男についてきてる」。

翌朝、新聞を持ってきてもらった。しかしそこにコンスタンスの写真が掲載されている。ボーイはコンスタンスに気がついたようである。

二人は慌ててホテルを出た。駅に行って改札口でエドワーズと行った駅を思い出すように促すがJ.B.は思い出せない。注、エドワーズとJ.B.は治療のために、どこかへ出かけたという話になっているので「その時の行先を思い出せ」と言う意味。

J.B.はやっと「ローマ」といったのだが、駅員は不審な顔をする。コンスタンスは慌てて「ジョージア州」と付け足す。注、Rome, Georgiaのこと。

二人はホームに向かっていくが、警察につけられているようなので、急遽行き先を変更した。ロチェスター(ニューヨーク州)へ行く。

◆ アレックス・ブルロフ

二人はコンスタンスの恩師アレックスを訪ねた。アレックスは外出中で、二人の客がいた。刑事。しかもエドワーズ医師の件を話している。

コンスタンスはメガネをかけた。ひやひやしながらアレックスの帰りを待った。注、新聞にでているコンスタンスはメガネをかけていない。

アレックスが戻ってきて、刑事は帰った。二人は結婚して新婚旅行中ということにした。

二階に上がったところ、またJ.B.がおかしくなった。ベッドが白い色で、その上に黒い線が幾筋も走っている。コンスタンスは気が付いた。J.B.は白い色の上に筋が走っている模様を見るとおかしくなる。前回も前々回もそうだった。「手がかりを掴んだ」。

夜コンスタンスは寝ている。J.B.は剃刀で髭を剃ろうとしたら、シェービングクリームに例のバターンを見た。J.B.は剃刀を持ったまま階下に降りていった。アレックスが机にいた。あたかもJ.B.が下りてくるのを予期していたようであった。

コンスタンスは目が覚めてJ.B.がいないので、慌てて階下に降りた。J.B.は寝ており、アレックスが待っていた。

さすがにアレックスは権威であって、J.B.に問題があることを見抜いていた。そして手配されていることも知っていた。

アレックスは警察に連絡しようとした。コンスタンスはそれを止めようとする。二人は延々と口論。ここの議論のコンスタンスは興奮気味でやや支離滅裂。

結果は一週間の間二人でJ.B.の夢を分析することにした。ここの夢の画像は画家のダリが協力している。

J.B.がおかしくなるバターンは雪とその上を滑った跡であることが分かった。そして、問題が起こったスキー場がガブリエル(大天使)谷のスキー場であることも分かった。ここはかなり短絡だけど許す。

警察署ではアレックスのところに来た女性が手配されているコンスタンスであることに気が付く。

◆ スキー場

二人はガブリエル谷のスキー場へ向かう。スキーを始める。

J.B.はすべてを思い出した。子供の頃に弟が滑落死したこと、それを自分の責任だと思い込んでいたこと、エドワーズから治療を受けるために、一緒にスキーをしていたこと、そしてエドワーズが事故で断崖から落ちたこと。J.B.はジョン・バランタインであることも思い出した。

それを警察に話した。捜索の結果、当該の場所からエドワーズの遺体が発見された。

だがしかし、エドワーズの遺体から拳銃の弾が発見された。エドワーズは背後から撃たれていた。ジョンは逮捕された。

◆ ラスト

コンスタンスは病院に戻った。そしてマーチソンも所長として復帰した。マーチソンは「(エドワーズは)少しだけ知っていたが好きではなかった。長所もあったが」とコンスタンスに話した。

コンスタンスは居室に戻って、はたと気がついた。ジョンが新所長ではないことが分かったはずなのに、なぜそれを明かさなかったのか?先のマーチソンの言葉によればエドワーズとは顔見知りであったからである。

コンスタンスはマーチソンの執務室に取って返した。「あなたは彼(エドワーズ)が代わりになると聞いて逆上した」。しばらく口論が続いたが、マーチソンは拳銃を取り出しコンスタンスに向けた。

コンスタンスは無視して部屋から出てドアを閉めた。中で銃声が響いた。

ジョンとコンスタンスは新婚旅行にでかけた。
 


■ 蛇足

上に少し挙げたが、二人の会話がわりと面白い。
 「キスすると病気が治る」「そんな治療法はないわ」。
 「君がこんなに美しいとは知らなかった」「もうその記憶は失わないで」。

メインストーリーとは関係ないが、J.B.は右腕にやけどをしており、医療部隊でローマにいて戦闘機に撃たれてやけどをしたことを思い出す。これが切符売り場で「ローマ」と言う理由。

スキー場に行った時にコンスタンスがタバコを吸う場面がある。イングリッドがタバコを吸う場面は初めて見た。
 


■ 出演作

◆ グレゴリー・ペック
(1945)白い恐怖/Spellbound
(1947)パラダイン夫人の恋/The Paradine Case
(1962)アラバマ物語/To kill a Mockingbird(1958)大いなる西部/Big Country
(1947)決死の猛獣狩り/The Macomber Affair
(1948)廃墟の群盗/Yellow Sky

イングリッド・バーグマン
(1941)ジキル博士とハイド氏/Dr. Jekyll and Mr. Hyde
(1943)誰が為に鐘は鳴る/For Whom the Bell Tolls
(1944)ガス燈/Gaslight
(1945)聖メリーの鐘/The Bells of St. Mary's
(1945)白い恐怖/Spellbound
(1945)サラトガ本線/Saratoga Trunk
(1946)汚名/Notorious
(1948)凱旋門/Arch of triumph
(1950)ストロンボリ/Stromboli, terra di Dio
(1956)無分別/Indiscreet
(1969)サボテンの花/Cactus Flower
(1942)カサブランカ/Casablanca
(1974)オリエント急行殺人事件/Murder on the Orient Express
(1954)イタリア旅行/Journey to Italy/Viaggio in Italia

ロンダ・フレミング
(1945)白い恐怖/Spellbound
(1946)らせん階段/The Spiral Staircase
(1947)過去を逃れて/Out of the Past
(1949)腰抜け大捕物/The Great Lover
(1951)犯人を逃がすな/Cry Danger
(1957)OK牧場の決斗/Gunfight at the O.K. Corral
(1951)最後の砦/The Last Outpost
(1952)ゴールデン・ホークの復讐/The Golden Hawk
(1952)楽園の死闘/Hong Kong
(1953)楽園の決闘/Tropic Zone
(1953)地獄の対決/Inferno
(1955)対決の一瞬/Tennessee's Partner
(946)静かなる対決/Abilene Town
(1954)風雲のバビロン/バビロンの女王/The Queen Of Babylon
(1954)ヤンキー・パーシャ/Yankee Pasha
(1956)口紅殺人事件/While the City Sleeps
(1960)奴隷の叛乱/Revolt of the Slaves
(1965)甘い大陸/THE AMERICAN WIFE
(1950)メキシコの鷲と鷹/The Eagle and the Hawk
(1956)オドンゴ/odongo
(1958)西部を股にかける女/Bullwhip
(1964)インスタント・ラヴ/Instant Love
(1959)腰抜け列車強盗/Alias Jesse James
(1958)黄昏に帰れ/Home Before Dark
(1956)殺し屋は放たれた/The Killer Is Loose
(1953)ナイルの妖女、クレオパトラ/Serpent of the Nile
(1980)ヌード爆弾/The Nude Bomb
(1951)欲望の河/Crosswinds
(1957)連発銃は知っている/Gun Glory
(1960)翼の男:海軍機と旅客機が空中衝突/The Crowded Sky