「月下の恋人」

テーマ:
月下の恋人/浅田 次郎
¥1,575
Amazon.co.jp

勝手に採点 ☆☆


泣かせるストーリーを書かせたら第一人者の著者が

放つ短編集。


「メトロに乗って」のタイムスリップネタや「活動写真の女」

のオバケネタが多用されて新鮮味に欠ける。


また、短編だけにストーリーや人物描写に厚みがなく、

いきなり終わってしまう感じで消化不良感が残る。


さらに、「これって何が書きたかったの?」と疑問を感じる

ものも多い。


タイムスリップをせず、オバケや神様も登場しない、もっと

リアルで真に迫る物語を書かないと読者に飽きられますよ~。

AD

「憑神」

テーマ:
憑神/浅田 次郎
¥1,575
Amazon.co.jp

勝手に採点 ☆☆


時は幕末。


学問は昌平坂に学び神童と呼ばれ、剣を取れば

免許皆伝の腕前を持つ出来物・別所彦四郎。


しかし、やっと掴んだ名家の婿入り先からは離縁

され、愛する妻と子とは離れ離れ。


さらに戻った実家では居候扱いで肩身の狭い毎日。


そんな折、うち捨てられた祠に手を合わせたところ、

なんと貧乏神、疫病神、死神と三段階で祟られる始末。


一体彼はどうなってしまうのか!?


喜劇なのか悲劇なのか、時代物なのか、すべてを取り

こんだせいで焦点がボヤケタ印象に。


コメディータッチを基本に共感しやすいペーソスを織

交ぜてくれれば良かったものの。


ラストにかかる武士道だと、男の死に場所だのの

薀蓄、理屈は全く理解できず。


時代の流れも異様に速く、あっという間に大政奉還、

鳥羽伏見の戦いへ。


客観的事実を町民の方が知っているあたりも、現実

的にはあり得ず、違和感ばかり。


稀代のストーリーテラーもたまには失敗してしまうと

いうことか。

AD
活動写真の女/浅田 次郎
¥580
Amazon.co.jp

勝手に採点 ☆☆☆


時代は70年代。


京大生となったばかりの主人公が、同じ大学の医学部に通う友人

の紹介で大好きな映画撮影所でアルバイトを始める。


その二人がエキストラとして時代劇に出演した際、まさに絶世の美女

というべき無名の女優に出会う。


あれこれ調べるうちにその女優は、すでに自殺してしまっており、彼ら

にしか存在の見えない亡霊であることが分かる。


そして、友人はその女優の亡霊と恋に落ち、二度と戻れない禁断の世

界線につき走っていくが・・・。


当時の時代背景や活気満ち溢れる撮影所、大学闘争最中の大学の

雰囲気のなどなかりリアルに描かれ引き込まれる。


ただ、幽霊との恋愛という非現実的な設定がリアリティを壊し、現実

なのか虚構なのか、非常にあいまいでどっちつかずの印象を与える。


「メトロに乗って」同様、都合よく虚構の世界を持ち出してしまっている

あたりが共感出来ない。


それよりも、主人公と同じ下宿に住む先輩との儚い恋模様の結末の

方がよっぽど気になる。

現在からの学生時代を回顧するスタイルをとっているため、主人公

の今がどうなったのか分からずじまい。


そうした過去の経験を踏まえて彼がその後どう生きたかを知りたい

ところ。

AD
地下鉄(メトロ)に乗って
¥552
株式会社 ビーケーワン

勝手に採点 ☆☆☆


映画公開も待たれる話題作。


実業界のカリスマを父に持ちながら、兄の自殺をきっかけに

若くして家を飛び出した真次。


今は下着販売の営業で、同じく家を出た母と妻子を養いながら、

同僚のみち子とは不倫関係に。


そんな時、家業を継いだ弟から、父がそう長くないことを知らされ、

父と和解して、会社経営に参加して欲しいと懇願される。


気まぐれで立ち寄った同窓会で悪酔した帰りに、地下鉄の出口で

真次が見たものは・・・。


超シリアス版「バック・トゥ・ザ・フューチャー」


デロリアンの変わりはなんと地下鉄。


過去にタイムとリップして、いろいろ画策しても、死んだ兄が生

き返ることもなければ、自分が裕福になることもなく、ひどいのは

愛人さえ消滅してしまう。


こういった悲劇性、暗さが目だって素直に共感できないところが

惜しいところ。


また、タイムとリップのタイミングや場所、時間がまちまちで、一定

の規則性がないので、それがストーリー展開を不安定にさせている。


椿山課長の七日間 」同様、ハリウッド映画を下敷きに、悲哀に満ち

たサラリーマンを主人公に据えているが、どちらもラストの暗さが物

語全体を損なっているところに難アリ。

「姫椿」

テーマ:
浅田 次郎
姫椿

勝手に採点 ☆☆


ちょっと不思議な感じのする短編集。


内容的には、ぽっくり死んでしまったゲイバーのママがホントは

ただのお爺さんだった話や事業に失敗して自殺も考えてたところ、


昔通った銭湯をたまたま見つけ希望を見出す話など、これといっ

て印象深いものや感動的な話はない。


浅田作品の真骨頂は、泣きのベースを丁寧にインプットすることな

ので、そういった説明が一切省かれ、かつラストも尻切れトンボとな

ると魅力は半減。


鉄道員のような秀作は別として、場面がはっきり目に浮かび、登場

人物が生きているような錯覚を与えることは甚だ難儀らしい。


やはり彼の作品は長編に限る。

浅田 次郎
沙高楼綺譚 草原からの使者

勝手に採点 ☆☆☆


各界の名士が集う高級サロン「沙高楼」

そこで繰り広げられる最高の贅沢は「事実は小説より

奇なり」を地で行くようなあっと驚く体験談の数々。


大掛かりな詐欺にあって無一文になった大富豪や首相の座を目前

に死んでしまった政治家の経緯、日本有数の馬主がその地位に上

り詰めた理由など、確かにあっと驚くタメゴロウ。


ただ、「沙高楼」という設定自体や自ら語る体験談もかなり現実離れ

しているのでイマイチのめり込めない。


特に大富豪の話はあまりの転落人生ぶりにそんな話あるわけない

じゃんと感じてしまい、同情の念を禁じえない。


そんななか、「星条旗よ永遠なれ」は笑いとペーソスが絶妙に溶け

合った珠玉の一遍。アイデア自体はバカバカしいのだが、退役軍人

の友情、日本人妻への愛情など読みどころ満載。


あまりに健気な老軍人たちの姿が目に浮かぶ。

あと数十年したら自分も日章旗がでるのか気になるところ。

浅田 次郎
シェエラザード〈上〉

勝手に採点 ☆☆☆☆


太平洋戦争末期、赤十字の要請に答える形で物資運搬

の任に当たっていた弥勒丸。


当時、安導権を得ていたにも拘らず、米国潜水艦の魚雷

の直撃を受け、多数の民間人と共に轟沈された。


その弥勒丸引き上げのため、謎の台湾人宋が国会議員、

商社、そしてやくざの親分に100億円の資金を用意する

よう持ちかける。


彼の真意は。そしてその正体は!?


いつもの泣かせ節は抑えられているものの、弥勒丸の

関係者が複雑に絡み合い、ひとつに収束していく様が

スピード感たっぷりに描かれている。


多少、偶然がうまく行き過ぎているきらいはあるものの、

おおむね許容できる範囲。


ただ、現代における引き上げの話よりも、心惹かれるのは

弥勒丸を襲った悲劇とそれにまつわる人間模様。


撃沈されるまでの優雅な船内で出来事は、まるで夢気分。


ホテルのような豪華な装飾、贅沢な食事やシェエラザード

が流れる食後の歓談など、戦局に左右されない特別な空間。


船長をはじめとする帝国郵船の社員たちの結束力、職

人気質、責任感にも脱帽。


乗組員や堀少佐、正木中尉らが抱える複雑、深刻な問題さえ

も大きな優しさで包み込むような母性的な弥勒丸。


誰でも彼女に恋せずにはいられなかったほど。


それと対照的に矮小なのは、自身の延命のため、弥勒丸

を人間の盾に使った日本陸軍。


まさに亡国の輩。

浅田 次郎
椿山課長の七日間

勝手に採点 ☆☆☆


デパート勤務で婦人服売り場を担当する椿山課長46歳。


遅まきながら出世を果たし、美人の奥さんと一人息子、それに一戸建

てのマイホームを得て、忙しいながらも恵まれた人生だったが・・・。


彼を襲った悲劇は過労死。

あまりに未練を残した彼は、全く別人の肉体を借りて現世にもどるが・・・。


死んでしまった人たちが最後まで不憫でどうもすっきりしない。

もやもやとしたわだかまりが最後まで取れなかった。


あの世からこの世に一時的に戻って、未練を果たすという設定自体は

最近の流行で新鮮味なし。


一緒に戻った子供の生い立ち、気持ちなど、泣かせる浅田節は健在なも

のの、せっかく戻った世界で知ってしまう悲しすぎる現実。


それも大半が前半部分で判明し、最後までひっくり返ることもない。


同じサラリーマン、子を持つ親として同情してしまうし、なんとも物悲しい。

ここにスカッとする仕掛けが欲しいところ。


それともうひとつすっきりしないのが彼のお父さんの最後。

ここまで盛り上げてそれはないだろう。


あまりに可哀想な結末にあっけに取られたほど。

「歩兵の本領」

テーマ:
浅田 次郎
歩兵の本領

勝手に採点 ☆☆☆


1970年頃の高度経済成長、学生運動華やかな時勢のなか、

様々な理由で自衛隊に入隊した若者たち。


隊内での日々の生活や訓練の様子、心境などを笑いとペーソス

を交えながら描いた青春群像


今から35年程の前の自衛隊では、戦前の軍隊のしきたりや精神

と戦後の新しい防衛を目的とした組織、考え方が奇妙に交じり合

って独特の世界観を作り出していた。


今でこそ安定した身分の保証と手厚い福利厚生など人気の高い

就職口の自衛隊だが、当時はそうでなかったらしい。


薄給と厳しい訓練、上官、先輩からの謂れのない体罰、暴力、いじめ。

チンピラ上がりや浪人生、社会脱落者たちが街角で肩を叩かれ入隊

し、脱落していくといった現実。


そんな中でも、過酷な生活に慣れ自衛官として一人前になっていく

姿を浅田氏自身の体験と重なり合わせて描いている。


ただ、短編のすべてに共通する自衛隊の存在価値や体罰や暴力に

対する矛盾といったテーマが繰り返されているため辟易する部分も。


できればこのテーマを主眼とした長編に仕立てたほうが、主人公への

感情移入も容易でマンネリも排除できたのでは。


浅田氏は、本書で隊や隊員に対する愛着、愛情と自身のアイデンティ

ティを再確認したのではないだろうか。

「壬生義士伝」

テーマ:
著者: 浅田 次郎
タイトル: 壬生義士伝 上 文春文庫 あ 39-2

勝手に採点 ☆☆☆☆☆

幕末をまさに疾風の如く駆け抜けた新撰組。
貧困から南部藩を脱藩し入隊した吉村貫一郎中心に描く異色作。

随所に「泣かせ」が散りばめられ、気を抜くと涙が頬を伝う。
理由は、吉村貫一郎の独白で吐露される本心。

あの時代に「公」を捨て、守銭奴と蔑まれても妻子のために「私」
にこだわり続けた頑なさ。

武士道を捨て、あくまで家族と故郷にこだわり続けたその愛情は
次第に周囲の人間をも感化させていく。

みすぼらしい姿に成り果て、命の如く大切な刀剣が日々の死闘で
痩せていっても、自身には金を使わず田舎に金を送り続けた執念。

藩校の助教としての高い教養と北辰一刀流免許皆伝の卓越した

腕前を持ちながら、身分の低さから職に恵まれず、家族を養うため

脱藩せざるを得なかった悲しい運命。

人殺しに明け暮れ、身も心もボロボロになりながらも郷愁と妻子を
支えとして、狂乱の時代を生き抜いていった男。

さらに、涙を誘うのは幼馴染みで親友、そして南部藩の重職に

あった大野次郎右衛門との悲しすぎる結末。

藩の存続のため傷ついた友を見捨て、過酷な仕打ちをしてまで

引導を渡さねばならなかった悲劇。


特に貫一郎の亡骸にすがり、握り飯を食べさせるシーンは心に

焼き付いて離れない。

浅田文学の真骨頂ともいうべき作品は、壬生浪となった男の愚直

なまで生き様を浮き彫りにし、人々の心を揺さぶり、引き付けてやまない。