「震度0」

テーマ:
横山 秀夫
震度0

勝手に採点 ☆☆☆☆☆


数千名の陣容を誇るN県警警察本部。

その幹部である警務課長が突然の失踪・・・。


不祥事が暴露することをおそれ、本部長をはじめ、県警

最高幹部たちがいがみ合い、対立し、不信の度を強め

ていく。


隠された失踪の理由とはいったい何か。


待望の横山氏の警察長編もの。


さすが期待に違わず、圧倒的迫力とリアリティ、複雑な

人間関係に吸い込まれていく。


本部長、警備部長、刑事部長などそれぞれの視点から

テンポ良く描かれ、彼らの苦悩が浮き彫りに。


おなじみのキャリアVSノンキャリアの対立に、彼らの奥様

方の生き様を重ねていくあたりはお見事。


切った張ったの逮捕劇とは無縁の警察を舞台とした人間

ドラマに人生における幸福の意味を改めて考えさせられる。

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横山 秀夫
ルパンの消息

勝手に採点 ☆☆☆☆


サントリーミステリー大賞佳作に入選した著者幻の処女作。

15年前、高校生の悪ガキ3人が企てた「ルパン作戦」


試験問題を校長室の金庫から盗み出すいわば究極の
カンニング。


しかし、夜中に忍び込んだ金庫の中には女性教師の変わり
果てた姿があった!


横山作品の原点となるだけあって、犯行動機や時効など
随所に後の作品のネタにつながる仕掛けが用意されている。


やはり驚かされるのは緻密な心理描写とスピーディーな文章
展開、そしてあっと驚くどんでん返し。


なかでも主犯格の喜多が語る事件の真相にはグイグイ引きこ
まれ、いったい誰が殺害したの?という疑問が沸々と沸き起こる。


この手の王道で登場人物すべてが疑わしいという設定。


時効まであと何時間といったタイムリミットが区切られているため

いやがおうにも高まる切迫感、臨場感。


結局、死ぬべき人間が死んで逮捕されるべき人間が逮捕され、
同情すべき人間は無罪放免となる理想的な結末。


さすがにベストセラー作家は読者を裏切らない納得感のある結論

を用意してくれている。


ただ、残念なことは三億円事件と絡めた点。

このエピソードだけが完全に浮いてしまい激しい違和感。


これが佳作にとどまった原因か。

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「影踏み」

テーマ:
横山 秀夫
影踏み

勝手に採点 ☆☆☆

かつて司法試験を目指した青年が父母と弟を一挙に火事
で失い、寝静まった民家に押し入る泥棒「ノビカベ」と
なり転落人生を歩む。

すでに中年に差し掛かったその真壁の中耳には、いまだ
青年のままの一卵性の弟の声が住んでいる・・・。

設定がいささか現実離れしているものの、稀代のストリー
テラーがつむぎ出す謎解きは秀逸。

ただ、久子との関係が最後まで曖昧なままで終わってしま
ったことや関係者の証言が簡単に入手できてしまうという
違和感は残る。

いつものスピード感や圧倒的な迫力に欠けるのも残念。

やはり刑事や記者が主人公でない分、人物や事件の描写が
甘くなったか。

そういえば今日は日航機墜落事故から丸20年。
犠牲になった方々の冥福をお祈りする。

著者にはクライマーズハイを凌ぐ秀作を期待したい。

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「深追い」

テーマ:
著者: 横山 秀夫
タイトル: 深追い

勝手に採点 ☆☆☆

某県警三ッ鐘警察署に勤務する警察官に巻き起こる様々な事件。

それらの出来事を通じて、家庭生活や恋愛の苦悩、階層社会に

生きる厳しさをリアルに描く短編集。

最も気に入ったのは表題にもなっている「深追い」

交通事故で死んだ男のポケベルを拾った交通係が、その妻に遺品

を返そうと会いに行くとそれは昔の恋人。


ついつい返しそびれたポケベルには、なぜか彼女から夕食の内容を

伝えるメッセージが送信される・・・。

人は噂や見かけでは判断できない典型例。やはり子供ネタには弱く、

虐待を受けていた事実とそれが妻の悲しい過去に起因する現実が

あまりに切ない。

逆に明るい気分にさせてくれるのは「又聞き」

小さいころに溺れて死に掛け、救助してくれた大学生が死亡すると

いう辛い過去を背負う新米警官。


当時の関係者を訪ね、話を聞くことで隠された「ある事実」を知り、

ようやく過去の呪縛から開放される。

いつもの唸らせるようなストーリーの意外性や緊迫感、男臭さ、

スピード感に欠け、どちらかというとほのぼの系に走っているのは

好みの分かれるところ。

これはこれでよく出来ているが、印象としては想定の範囲内に

収まっているようで物足りない気が。

それでも、警察の内部事情に通暁している氏ならではのネタが

散りばめられているのはいつもながら感心。

これだけ上層部の締め付けきつく、足の引っ張り合いやプライド

の激突が多いあまりに劣悪な職場環境に同情する。


いまどきの警官は楽じゃない!

「臨場」

テーマ:


著者: 横山 秀夫
タイトル: 臨場

勝手に採点 ☆☆☆☆☆

「終身検死官」の異名をとる倉石警視。

そのずば抜けた観察能力、推理力、人間性に惹かれる
警察官は多くそのシンパを称して倉石学校と呼ばれる。

彼が関わる事件を通して、物語の主人公たちにもたら
されるのは一体何か・・・。

決して多くない文量なのだが、ストーリーの奥深さ、
複雑さ、巧緻さにはいつも新鮮な驚きを覚える。

最も感動したのが「餞-はなむけ-」
やはり子を持つ親としては、親子ネタにはめっぽう弱い。

引退間近の刑事部長という老練、剛直なイメージと自殺
した老婆との取り合わせ、母親の悲壮なまでの気持ち
が琴線に触れ中盤から涙が止まらなくなった。

さらに輪をかけたの倉石調査官の刑事部長に対する態度。
これぞ男の中の男というべきもの。

これまでの横山作品に登場する警官像として、沈着冷静で
クールなイメージが強かったが、倉石警視はかなりの人情
家で共感を覚えやすい。

ぜひともシリーズ化が期待される魅力的なキャラの登場に
大きな期待を抱かずにはいられない。

「動機」

テーマ:


著者: 横山 秀夫
タイトル: 動機

勝手に採点 ☆☆☆☆☆

犯行の影に必ず存在する動機。

その動機に隠された謎にスポットライトをあてた短編集。

相変わらずの鋭く練り込まれたストーリー展開に息を飲む。

本当に心に迫る文章は字数やページ数に全く左右されない。

短く読みやすい文章からは想像できないリアルで迫力ある
世界が眼前に鮮やかに浮かび上がる。

白眉は「密室の人」
あまりの切なさ、悲しさ、痛々しさに心が凍える。

美人で若い後妻を迎えた裁判官に訪れる悲劇。
予想外の結末に残るのは深い自責の念とほのかな希望。

この物語は生涯に残るほどの傑作。

「看守眼」

テーマ:


著者: 横山 秀夫
タイトル: 看守眼

勝手に採点 ☆☆☆

警察、司法、行政関係者の日常に巻き起こる事件。
その影響に笑い、泣き、憤り、翻弄される小市民。

その悲喜交々を冷静なタッチで描く短編集。

印象深く引き込まれるのは標題にもなっている「看守眼」

留置場の看守として定年を迎える主人公が、主婦殺人事件の
容疑者を執拗に尾行し、掴んだ真実とは・・・。

一途な気持ちを忘れない男ととっくに新しい生活を始めている
だろう女。やっぱり女は強し!と実感。

女性は、切り替え・転身の早さ、したたかさをしっかり備えて
いるということ。男は適わないな~。

それと「自伝」はなかなか奥深い。

主人公のライターに持ち込まれる大型家電量販店会長の自伝
執筆依頼。会長が漏らした「女を殺した」という一言から
意外な事実が明かされる。

少々作り話臭くはあるが、ラストに係る展開が意外で、両者
の心境の対比が明確なコントラストを描く。

本書の特徴は警察官だけでなく、様々な主人公が登場する点。
そのため、いつもの迫力に欠け、淡々としたあっさり感が強い。

短編なので読みやすいが、ストーリーにどんでん返しやなるほど!
と思わせる納得感不足で物足りない印象は拭えない。

できれば、警察官が主役のハードでドロドロした男の世界を
リアルに描き出して欲しい。

「陰の季節」

テーマ:


著者: 横山 秀夫
タイトル: 陰の季節

勝手に採点 ☆☆☆

第5回松本清張賞受賞の表題作を含む4編で構成。
警察小説の白眉といわれる横山作品の原点がここに。

「刑事vs犯人」といった短絡的な構図から脱却した異色人間
ドラマ。

氏の警察ものを読んでいない方はこれから入った方が、より
その後の作品が楽しめると思う。

完成度はちょっとばらつきが目立つ印象。

「陰の季節」では、容疑者の男と退職した刑事部長の接点が
あまりに偶然すぎて、その非現実性から物語を組み立てている
危うさが受け入れられない。

毎日々車を走らせてるよりは、もっと効果的でドラマティック
な追いつめ方があるような気が・・・。

「FACE」の女性警察官の事件も収められている。男組織で生き
抜くひたむきなベテラン女性警察官の奮闘ぶりには、胸のすく
思いがする。

ただし、それくらいのことで勝手に逃げ出したりしちゃイカン!
上司たちの気持ちも同じ男としては理解できる部分も多い。

圧巻は「鞄」

出る杭は打たれるの諺通り、野心に燃える若手警察官僚の悲哀を
描く。毎度であるが、議会と警察の癒着、警察内部の熾烈な権力
闘争など、ここまでやるのか?と思わせるリアリティー感は秀逸。

オチが「友達をつくれ」というのはいただけないが、組織に立ち
向かう男達にとって、そのモチベーションの源、心強いバック
アップとなる家庭・家族にスポットが当てられた暗示的なメッセ
ージが胸に深く沁みる。

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著者: 横山 秀夫
タイトル: 出口のない海

勝手に採点 ☆☆

時代は太平洋戦争末期。

かつて甲子園の優勝投手として活躍し、大学時代はヒジの故障に
悩まされながらも、魔球を完成するべく苦闘する主人公。

しかし、時代の荒波は容赦なく押し寄せ、彼は海軍が開発した
人間魚雷兵器「回天」へ特攻隊員として乗り込むが・・・。

学徒出陣兵のあまりに短すぎた青春・・・。

日本の軍部が如何に無能で、犠牲を無理強いした精神論を振り
かざしていたかを痛感させる。

主人公が語っているように、敗色濃い戦局をちっぽけな魚雷特攻
で変えられるわけがないはず。それでもやらざるをえなかった悲劇・・・。

これまであまり明らかにされていなかった「回天」にスポットを
あて、軍部の行った愚策を後世に伝える功績は認められる。

それと題名のマッチングはお見事というしかない。

だが、小説としてはいつもの迫力に欠け、薄っぺらい印象でいささか
物足りない。野球部や軍隊仲間の描写が中途半端で真に迫って
いない。恋い模様もいたってありきたり。

主人公が固執する「魔球」と「戦争や特攻」というテーマの結びつきが
希薄すぎて、感情移入がしづらい。女房役の剛原が早々に退場してしま
うのも肩すかしの感。

何より落胆してしまうのは主人公の結末。
いくら何でもこりゃー可哀想すぎる!

ご都合主義の犠牲になったラストもいただけない。
影があり渋い北は魅力的だったが、これではただのいいお爺ちゃん。

ところで沖田はどうなったの!?

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「第三の時効」

テーマ:


著者: 横山 秀夫
タイトル: 第三の時効

勝手に採点 ☆☆☆☆☆!

県警捜査本部を舞台に刑事たちの葛藤、執念に満ちた熱き闘いの
ドラマ。追う者と追われる者のスリリングな駆け引き、県警内部
の複雑な人間模様を鋭く描く刑事小説。

事件とそれを取り巻く刑事や記者にスポットをあて、圧倒的なまで
のリアル感、存在感で読み手を強く惹きつけ容易に放さない。

特に男臭さとその経歴から捜査第一班を率いる朽木がカッコイイ。
沈着冷静で何事にも動じない強靱な精神力を持つ一方で、被害者の
小さな棺桶を前にメンツや手柄も捨て去ることが出来る潔さ。

その他二班楠見、三班村瀬など曲者揃い。それぞれの刑事にスポット
を当てワンパターンに陥らない展開は見事。

それぞれのストーリーも刑事の閃きに頼る部分が大きいものの、
緻密な構成と行間を読ませる手法で思わず唸らせるうまさが目立つ。

特に良かったのは「沈黙のアリバイ」と「第三の時効」
どちらも哀愁が深く漂う味わいと大岡越前的な痛快さを併せ持つ秀作。

短編でここまで引き込まれたのは初めての経験。
それだけ主人公に感情移入でき、同じ視点で体感できる迫力感。

この「読引力」ともいうべき力を持った作家は、現在横山氏の右に
出る者はいないだろう。とにかく満足できるその出来映えに、
いまだお読みになっていない方にはぜひ一見の価値あり。

注意事項として、睡眠前の服用はお薦めしない。
ただし、「寝不足」覚悟の方なら、貴重な睡眠の対価に見合う
素晴らしい時間を過ごせること請け合い。

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