浅田 次郎
歩兵の本領

勝手に採点 ☆☆☆


1970年頃の高度経済成長、学生運動華やかな時勢のなか、

様々な理由で自衛隊に入隊した若者たち。


隊内での日々の生活や訓練の様子、心境などを笑いとペーソス

を交えながら描いた青春群像


今から35年程の前の自衛隊では、戦前の軍隊のしきたりや精神

と戦後の新しい防衛を目的とした組織、考え方が奇妙に交じり合

って独特の世界観を作り出していた。


今でこそ安定した身分の保証と手厚い福利厚生など人気の高い

就職口の自衛隊だが、当時はそうでなかったらしい。


薄給と厳しい訓練、上官、先輩からの謂れのない体罰、暴力、いじめ。

チンピラ上がりや浪人生、社会脱落者たちが街角で肩を叩かれ入隊

し、脱落していくといった現実。


そんな中でも、過酷な生活に慣れ自衛官として一人前になっていく

姿を浅田氏自身の体験と重なり合わせて描いている。


ただ、短編のすべてに共通する自衛隊の存在価値や体罰や暴力に

対する矛盾といったテーマが繰り返されているため辟易する部分も。


できればこのテーマを主眼とした長編に仕立てたほうが、主人公への

感情移入も容易でマンネリも排除できたのでは。


浅田氏は、本書で隊や隊員に対する愛着、愛情と自身のアイデンティ

ティを再確認したのではないだろうか。