著者: 浅田 次郎
タイトル: 輪違屋糸里 上

勝手に採点 ☆☆☆☆

いまだに根強い人気を誇る「新撰組」

その結成から芹沢鴨暗殺までの事件や登場人物を、
女性の視点から捉えた浅田版新撰組。

糸里や吉栄、お梅やお勝といった、いわば歴史上の
脇役の女たちが、何を考え、どう生きたのかが鮮や
かに伝わってくる。

まず強く感じることは女性の強さ、したたかさ。
いつの世も男性の陰に隠れがちだが、その実男達を
手のひらで遊ばす余裕、操る術を身につけているの
ではないか。

ラストで糸里が土方に放つ言葉に、いじらしくも何者
も寄せ付けない秘めた強さを感じ取り、思わず引き込
まれてしまう。

また、永倉や土方、沖田らが一人称の形式で独白する
場面は、構成にスパイスを与え、読み手を飽きさせない。

彼らの超人離れした偶像化された姿ではなく、ひとり
の人間として生き、苦悩する等身大の人間味をひしひし
と感じることができる。

芹沢鴨の人間性については、これまで知っていた事実と
は異なる解釈があるものの、全く違和感を感じることは
なかった。

ここまで人を引きつける「新撰組」の人気の秘密はどこ
にあるのか?

友情、愛情、忠義といった感情に素直に生き、そして散
っていった男達の悲劇性からか?

新撰組を知らずとも堪能できる、男女の複雑な関係、女
性の悲哀を鮮やかに描いた一級のエンターテイメントに
拍手を送りたい。