【古事記神話】本文
 (~その50 知恵者 思金神の面目躍如)




前回の記事よりついに、「天岩戸(天石屋戸)」神話に突入しました。

そして今回より、「天岩戸」に引きこもったアマテラスを外へ誘い出す場面。

あまりにも有名な箇所なので、もちろん経緯も、結果も、誰もが知るところ。私もあらゆる現代語訳文に幾度となく目を通しています。

この場面は「古代祭祀」の様子が詳かに表現されており、古事記の中でももっとも重要な場面と位置付けています。


一字一句丁寧に追いかけたいと思います。


(長くなるため2回に分け、次回はなるべく早く記事を上げます)


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


【読み下し文】
是れを以て八百萬神々天安之河原に神集ひ集ひ [集と云ふは都度比と訓む] 高御産巣日神之子 思金神 [金と云ふは加尼] は思はしめ 而して常世長鳴鳥を集ひ鳴かさしめ 天安之河上の天堅石を取りて 天金山の鐵を取りて 而して鍛人天津麻羅 [麻羅は以て二字音] を求め 伊斯許理度売命に科せ鏡を作らしむ 玉祖命に科せ八尺勾之五百之御須麻流之珠を作らしむ 而して天兒屋命 布刀玉命を召して [布刀の二字以て音 下此れに效ふ] 天香山の眞男鹿の肩を内抜きに抜きて 天香山の天之波波迦 [此の三字以て音 木の名] を取りて 而して占合ひ麻迦那波しめて [麻自り下四字以て音] 天香山の五百津眞賢木を根許士爾根許士て [許自り下五字以て音] 而して上枝に八尺勾之五百之御須麻流之玉を取り著け 中枝に八尺鏡 [八尺と云ふは八阿多] を取り繋ぎ 下枝に白丹寸手 靑丹寸手を垂で [垂と云ふは志殿と訓む] 此の種種の物は布刀玉命 布刀御幣と取り持ち 而して天兒屋命 布刀詔戸言を白す 


【大意】
八百万の神々は「天安之河原」に続々と集まって来ました。そして高御産巣日神の子である思金神に策を練らせました。
まず常世長鳴鳥を集め鳴かせました。そして「天安之河上」の「天堅石」を取ってきて、「天金山」の鉄を取ってきて、鍛人(かぬち、=鍛冶職人)天津麻羅を探し求め、伊斯許理度賣命に鏡を作らせました。玉祖命には「八尺勾之五百之御須麻流之珠(やさかの勾玉のいほつみすまるの珠)」を作らせました。
続いて天兒屋命と布刀玉命を呼びました。「天香山」の雄鹿の肩骨を抜き取り、「天香山」の「天之波波迦」を取ってきて焼いて占いました。
さらに「五百津眞賢木(いほつまさかき)」を根こそぎ掘り出して、上枝に「八尺勾之五百之御須麻流之玉」を取り付け、中枝に「八尺鏡」を掛け、下枝に「白丹寸手・青丹寸手(にきて)」の幣(しで)を垂れさせました。この種々(くさぐさ)の物は布刀玉命が「布刀御幣(ふとごへい・ふとおんしで)」として取り持ち、天兒屋命は「布刀詔戸言(太祝詞言)」を白し(まおし、奏上し)ました。


【補足】
あまりに書きたいことが多く削っていくのが大変ですが、順番に…なるべく手短かに…。

◎大変なことが起こり、神々が集まってきたという「天安之河原」。文脈からして「高天原」にあったとみていいかと思います。

日向の高千穂の天岩戸神社の「天安河原」がもっとも有名かと思います。そもそも「高天原」がどこであったのかを考えること自体がナンセンスなのかもしれません。でも…やはり考えてみたくなるもの。

そもそも「高千穂」が「高天原」などと言われ出したのは近世以降のこと。平安から近世頃までは大和の「高天山(金剛山)」でした。

記紀が編纂された、飛鳥から奈良時代初め頃はどこが「高天原」と考えられていたのかが分かりません。

記紀編纂時に「皇祖神アマテラス」というシステムを創出した時に、実際に日向にいた天照大神そのものというだけでなく、猿田彦大神がモデルの一つとして取り入れられたと考えています。それが伊勢に鎮まる理由の一つとなったのだろうと。

猿田彦大神は伊勢の太陽神であり、「天岩戸」神話を伝えていた…それが「皇祖神アマテラス」システムにすり替えられた…のではないかと。

そうすると「天岩戸」神話の候補地としては、「神路川」の下流、伊雜宮磯部神社辺りを考えています。

紀の一書には「天高市」で…と記されており、大和国の天高市神社とする説も。こちらは布刀玉命を祖とする忌部氏の本貫地。可能性としては十分に有りそうです。

◎「常世長鳴鳥」とは鶏の異名。朝に鳴くことから、太陽を呼び出すものとして描かれています。神の使いとして、大和国の石上神宮や河内国の玉祖神社など、多くの社の境内に放たれています。

◎鏡が作られています。「天堅石」が固有名詞であるのかどうか不明。「天金山」も「高天原」の地の比定ができないためこちらも不明。紀の一書には「天香山」の金を採ってきて…とあります。

「鏡」に関しての参考記事


ちょっと引っ掛かるのは、天津麻羅に対してちょっとばかりよそよそしい感じになっていること。

他の神々にはすべて「令」と命令調であるのに、天津麻羅に対してだけ「求」(探す)と。いずれこのこの言葉の使い分けの意味が分かる時がくるのでしょうか。こうして翻訳を行うことで新たに知ることがあります。

◎雄鹿の肩骨を抜き取り…「天香山」の「天之波波迦」を取ってきて焼いて占った…とありますが、これは古代の占いである「太占(ふとまに)」のこと。天香山神社の境内にあります。

自身の勉強を兼ねて、「太占」など古代の占いの記事を上げねばなりませんね…。

◎古代祭祀の様子が詳かに表現されているのが続いての内容。まとめると以下のように。

「五百津眞賢木」を根こそぎ掘り出す。
*上枝 → 「八尺勾之五百之御須麻流之玉」を取り付ける
*中枝 → 「八尺鏡」を掛ける
*下枝 → 「白丹寸手・青丹寸手(にきて)」の幣を垂れさせる

「白丹寸手・青丹寸手」(白和幣・青和幣)については、穴栗神社の記事を参照下さい。

ごくごく分かり安くすると、根こそぎ掘り出した賢木(榊)に、上に勾玉を取り付け、中に八咫鏡を掛け、下に麻製と楮(こうぞ)製の幣(しで)を垂らしたということ。

◎続いて布刀玉命(天太玉命)が御幣を持って、天兒屋命(天児屋根命)が祝詞を奏上したとなっています。

これに対して、忌部氏(斎部氏)の後裔である斎部広成が編纂した「古語拾遺」では、太玉命が榊を持ち(記と同じ)、太玉命と天児屋根命が共に祝詞を奏上したとなっています。

つまり記では祭祀の中心的役割を担うのが天兒屋命(天児屋根命)であるのに対して、「古語拾遺」では天太玉命(布刀玉神)となっています。

◎表題に登場する思金神(八意思兼命)について、ここまで何も触れていません…。最後に少しだけ。

「高天原」の司令塔である高御産巣日神の「参謀役」という言葉がぴったり当てはまるでしょうか。官房長官などと言うといろいろ語弊が出そうなのでやめます。「太陽に吠えろ!」の「チョーさん」です!

紀には「思慮の智有」と記されます。「深く謀り 遠く慮り(おもんぱかり)て…」とも。

おそらくは…
智 → 思金神
力 → 手力男神
このように対比がなされているのだろうと思います。



以上…書きたいことを
はしょりにはしょって記事にしました。

およそ8時間も記事作成にかかってしまった…。ちょっと自身の不甲斐なさを感じました。もっと勉強せねば!


上/秩父神社
中/阿智神社
下/戸隠神社 中社
(画像はいずれもWikiより)



過去記事一覧
■本文 11.天地開闢 12.淤能碁呂嶋 13.美斗能麻具波比 14.蛭子・粟嶋 15.大八州國前編 16.後編前半 17.後編後半 18.国生みその他主要六嶋 19.神生みの開始 20.河と海の神生み 21.大地の神生み 22.伊邪那美命は病に 23.病の伊邪那美命が生んだ神 24.伊邪那美神が神避り… 25.迦具土命を斬って神々が生まれる 26.軻具土命を斬って…続き 27.軻具突智命の遺体からも神が… 28.黄泉国へ 29.変わり果てた伊邪那美命の姿 30.「逃走中!」 31.桃の名は… 32.永遠の別れ…  33.筑紫の日向の小門の阿波岐原へ 34.禊祓で成った神々 1 35.神々 2 36.神々 3 37.「三貴子」の誕生! 38.天照大御神に高天原を事依さす 39.月讀命に夜之食國を事依さす 40.スサノオ神に海原を事依さす 41.伊邪那岐大神が須佐之男命に怒る 42.スサノオはアマテラスの元へ 43.宇氣比で諌めよう! 44.宇氣比の結果は… 45.三女神 46.五男神のうちの… 47. スサノオが暴れる 48.機織る忌服屋に逆剥ぎ馬が… 49.ついに天岩戸へ