【古事記神話】本文 (~その30 「逃走中!」)



「逃走中」

そんな番組があったような…

テレビをまったく見ない人なので
よく分かりませんが。


伊邪那岐命は黄泉国からの脱出を図ります。

有名な場面なので周知のこととは思いますが、

このテーマの目的は
自ら翻訳することにより、一字一句を丁寧に見直すことで理解を深め、そして新しい気付きも…と。


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【読み下し】
是れに於ひて伊邪那岐命 畏れし見む 而して逃げ還るの時 其の妹伊邪那美命 吾の辱しけるを見令(し)む と言ひき 即ち豫母都志許賣 [此の六字以て音] を遣はし追は令(し)む 爾(ここ)に伊邪那岐命  黒御を取り投げ棄て 乃ち蒲子(えびかづら)生ひ 是を摭ひ(拾い)食(は)みしの間 逃げ行きき 猶ほ追はれ 亦た其の右御美豆良に刺しし之湯津津間櫛を引き闕き 而して投げ棄て 乃ち笋生ひ 是れを抜き食みしの間に逃げ行きき


【大意】
(伊邪那美命の醜い姿を)畏れて見た伊邪那岐命が逃げ還ろうとした時、伊邪那美命は「私の恥ずかしい姿を見られた」と言いました。そして豫母都志許賣(黄泉醜女、ヨモツシコメ)を遣わせて追わせました。伊邪那岐命は黒御鬘(くろみかづら)投げ棄てると蒲子(山葡萄)が生えました。豫母都志許賣が拾って食べている隙に逃げました。また追って来たので今度は右の「美豆良(みずら)」に刺していた「湯津津間櫛」を引き抜いて投げ棄てると笋が生えました。拾って食べている隙にまた逃げました。


【補足】
◎伊邪那美命が追手として遣わしたのは豫母都志許賣(黄泉醜女)。

「醜」は「みにくい」という意味の言葉ですが、白川静氏は「恐るるべきもの」という意味も挙げています。中国では「邑の災いを祓う」という意味があるようです。

「醜(シコ)」が付く神名で連想されるのは、伊香色雄命・伊香色謎命(イカガシコオノミコト・シコメノミコト)。系譜などから霊力を持っていたと考えられます。

黄泉醜女は醜くもあり、恐ろしい霊力をも持ち合わせていたとみるべきでしょうか。

◎「黒御鬘(くろみかづら)」は蔦の冠のことと考えられています。投げ棄てると山葡萄に変わりました。山葡萄そのものは何か霊力と関係があるようには思えません。

◎さらに追って来たので、「美豆良(みずら)」に刺していた「湯津津間櫛」を引き抜いて投げ棄てたとしています。

「美豆良」とは古代人の男子髪型、頭の両側に団子状にくくったもののこと。

そして「湯津津間櫛」。
前回の記事でも登場しました。

「櫛」は髪に刺すことで霊力を授かったり、魔除けになると考えられていました。
「奇し(くし)」が語源とされていて、先端の尖った細い棒を刺すことで魔力を持つと考えられていたようです。

前回の記事では左の「美豆良」に刺していた櫛を使って火を灯しています。
今回は右の「美豆良」に刺していた櫛を使用して笋が生えました。こちらも笋そのものには霊力があるようには思えません。

山葡萄と笋に共通するのは、自生していてそこら中にあるもの。それ以上は分かりません。たまたまありふれた植物を選んだのでしょうか。


この「行き止まり」の先が「黄泉国」と考えられていたように思うのですが…。



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