平安時代から江戸中期頃までは、「高天原」と言えば大和国葛上郡から宇智郡にかけての「高天山」(現在の金剛山)のことでした。



【古事記神話】
本文 (~その11 天地開闢~神代七代)


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いよいよ古事記「本文」に突入!
…というべきか、ようやくというべきか。

何はともあれ、気持ちも新たにしっかりと訳していきたいと思います。

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【読み下し】
天地初めて發けし時 高天原に於て成りし神の名は 天之御中主神 [高下に天とある訓みは 阿麻と云ふ] 此の下に效ふるは 次に高御產巢日神 次に神產巢日神 此の三柱の神なる者 並びて獨り神にて而して成り坐す 身を隠したまふ也


【大意】
天地開闢の時、高天原(読みは「たかあまはら」)に生まれた神は天之御中主神。次に高御産巣日神(タカミムスビノカミ)、次に神産巣日神(カミムスビノカミ)。この三柱の神はすべて独り神で、すぐに姿を隠されました。


【補足】
◎まず「造化三神」が登場します。三神ともに独り神ですぐに姿を隠されたと記されています。
ところが高御産巣日神のみ「高木神」と名を変え、天孫降臨神話に再び登場します。一方、紀においては「高皇產靈神」のまま天孫降臨神話に登場しています。
おそらくは「高御産巣日神」と「高木神」は別神であったものの、意図的に習合されたとみるべきでしょうか。
◎一般に「高天原」は「たかまはら」「たかまがはら」と読みますが、ここには「たかあまはら」と読むとはっきりと記されています。
この読み方が正解。「たかまはら」などというのは間違いであると認識するべきです。
◎[ ]にて載せた部分は、太安万侶が読み方を補足したもの。写本では小さな字で書かれています。

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【読み下し】
次に國稚くして浮ける脂のごとく而して久羅下那州多陀用幣流 [流の字以て上十字以て音] 葦の牙の如く 萌え騰るの物に因りて而して神の名を成す 宇摩志阿斯備毘古遲神 [此の神の名以て音] 次天之常立神 [常云ふは登許と訓む 立云ふは多知と訓む] 此の二柱の神は亦た  獨り神にて而して成り坐す 身を隠したまふ也
上の五柱の神なる者 別天神


【大意】
まだ国は若くて脂が浮いているかの如く、クラゲが漂っているかの状態。葦が沸々と萌芽するような様から名付けられた宇摩志阿斯備毘古遲神(ウマシアシカビヒコヂノカミ)が生まれ、次に天之常立神、この二柱の神もすべて独り神で、すぐに姿を隠されました。
これまでの計五柱の神は別天津神(コトアマツカミ)と呼ばれています。


【補足】
◎上記の通り、[ ]にて載せた部分は、太安万侶が読み方を補足したもの。
「久羅下那州多陀用幣流」(クラゲなす漂よへる)の十文字は音読みをせよとあります。なぜこの部分だけこのようになったのでしょうか、非常に違和感を覚えます。
◎天之御中主神・高御産巣日神・神産巣日神の「造化三神」に、宇摩志阿斯備毘古遲神・天之常立神の二柱を加えて「別天津神」と呼びます。

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【読み下し】
次に成る神の名は 國之常立神 [常立は上の如く訓む] 次に豐雲上野神 此の二柱の神は亦た 獨り神にて而して成り坐す 身を隠したまふ也 

次に成る神の名は 宇比地邇上神 次に妹の須比智邇去神 [此の二神の名以て音] 次に角杙神 次に妹の活杙神 [二柱] 次に意富斗能地神 次に妹の大斗能辨神 [此の二神の名亦た以て音] 次に淤母陀流神 次に妹の阿夜上軻志古泥神 [此の二神の名皆以て音] 次に伊邪那岐神 次に妹の伊邪那美神  [此の二神の名亦た上の如く以て音] 

上の件は 國之常立神自り以て下伊邪那美神以て前 幷びて神代七代と稱ふ [上二柱は獨り神 各一代と云ふ 次に雙ぶ十神 各二神合はさり一代と云ふ也]

【大意】
次に生まれた神の名は國之常立神。次に豊雲野神。この二柱の神もまた独り神で、すぐに姿を隠されました。

次に生まれた神の名は宇比地邇神(ウヒヂニノカミ)。次に妹の須比智邇神(スヒヂニノカミ)。次に角杙神(ツノグヒノカミ)。次に妹の活杙神(イクグヒノカミ)。次に意富斗能地神(オオトノジノカミ)。次に妹の大斗能辨神(オオトノベノカミ)。次に淤母陀流神(オモダルノカミ)。次に妹の阿夜軻志古泥神(アヤカシコネノカミ)。次に伊邪那岐神。次に妹の伊邪那美神。

國之常立神から伊邪那美神までを神代七代と称します。國之常立神と豊雲野神の二柱は、独り神で一代。次に並ぶ十神は二神(兄と妹)が合わさって一代としています。

【補足】
◎「別天津神」に続くのは「神代七代」。
・國之常立神
・豊雲野神
・宇比地邇神/須比智邇神
・角杙神/活杙神
・意富斗能地神/大斗能辨神
・淤母陀流神/阿夜軻志古泥神
・伊邪那岐神/伊邪那美神
兄妹で一代と数えるので、以上で七代の神々。
◎「國之常立神」は大地の神。「豊雲野神」は雲の神で、農耕に必要な雨を降らす神。
「宇比地邇神/須比智邇神」は泥の神と砂の神。やはり農耕視点で捉えるべきでしょうか。
「角杙神/活杙神」は杙(杭)の神。農耕視点で捉えると畔などが関わるのでしょうか。
「意富斗能地神/大斗能辨神」は不明の神。神格については諸説有り。性器説も有りますが、農耕視点から捉えて畦道ではないかと考えています。
「淤母陀流神/阿夜軻志古泥神」も不明。こちらも男女の性器を賛美することからの神名とも。農耕視点で捉えると、耕作地が完成したとも。
「伊邪那岐神/伊邪那美神」は特に触れませんが、農耕とは関連の薄い神。「みとのまぐわい(性交)」を行っていることから、上記二組の神は性器の神かもしれません。「角杙神/活杙神」も含まれる可能性も。


「高天山」の手前に聳える「白雲峰」を御神体とする高天彦神社。ご祭神は高皇産霊神。