(火雷神を祀る葛木坐火雷神社)
【古事記神話】本文 (~その29 変わり果てた伊邪那美命の姿)
前回の記事は、ついに伊邪那岐命が伊邪那美命を奪還しようと黄泉国へ突入したというもの。
伊邪那美命が既に「黄泉戸喫(よもつへぐひ)」を食べてしまったため、もう戻ることはできないと。でも黄泉神に何とかならないかと交渉してみるとし、一旦伊邪那岐命を還らせます。
そして「絶対に私を見ることのないように!」
…と忠告します。
今回はその続きから。
成り行きはあまりに有名ですが、一字一句追いながらあらためて記の表現を見直そうというのが、このテーマの趣旨。
ブログということもあり、
勝手気ままな趣旨でやってますが…。
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【読み下し文】
此の白せし如し 而して其の殿内還り入りし之間 甚だ久しかりて待ち難し 故に左之御美豆良 [三字以て音 下此れに效ふ] に刺したる湯津津間櫛之男柱を一箇取り闕きて 而して一つ火を燭したまひて入りて見る之時 宇士多加禮許呂呂岐氐 [此の十字 以て音] 頭に於ひては大雷居りて 胸に於ひては火雷居りて 腹に於ひては黑雷居りて 陰に於ひては拆雷居りて 左手に於ひては若雷居りて 右手に於ひては土雷居りて 左足に於ひては鳴雷居りて 右足に於ひては伏雷居りて 并て八雷神成り居りき
【大意】
(伊邪那岐命は)言われた通りに殿内へ還り、ずっと待ちました。ところが待ちきれず、左の「美豆良(みづら)」に刺していた「湯津津間櫛」の男柱を一本取り欠き、火を灯しました。とうとう入って伊邪那美命を見るとウジがたかっており、体中には八雷神(下部にて詳しく)が成っていました。
【補足】
◎「美豆良」とは古代人の男子髪型、頭の両側にお団子状に括ったもののこと。シルエットはミッキーのような感じといったら分かるでしょうか。
◎「湯津津間櫛」というのが登場しました。今後、数ヶ所で出てきます。
重要なのは櫛に呪力・魔力があると考えられていたであろうこと。次回、いや…次々回かな…に出てきた時に触れます。
形状は不明。現在のような横長のものではなく、縦長のものであったと言われています。下に若狭「三方五湖」で出土した漆塗り櫛の写真を貼っておきます。これよりももっと縦長であったとも。
「男柱」とは両端の太い2本のもの。下部写真は両端は太くなっていませんが…現在の櫛でも両端2本は太くなっています。
◎「宇士多加禮許呂呂岐氐」は音読みしなさいということなので、「うじたかれころろぎて」となります。ウジがゴロゴロとたかっていた…といったところでしょうか。
◎またここでも神が成ります。
頭 → 大雷
胸 → 火雷
腹 → 黒雷
女陰 → 拆雷
左手 → 若雷
右手 → 土雷
左足 → 鳴雷
右足 → 伏雷
成ったのは以上の「八雷神(ヤクサノイカツチノカミ)」。
なぜこの場面で雷神?という疑問もありますが…。
絶対見ちゃイカン!言ぅてるのに!
早くも伊邪那美命の雷が落ちた(笑)というところでしょうか。いつの時代も男って…(笑)
そもそも「雷(イカツチ)」とは何なのか。もちろん「雷(かみなり)」のことですが、古代人は「雷(かみなり)」をどう捉えていたのか。
定説と言えるほどのものがあります。
「厳(イカ)」+「ツ(の)」+「霊(チ)」
ま…こういうことでしょう。
「霊(チ)」については、伊邪那美命の「血」或いは「乳」といった生命力を表す語から「霊」となったという考えも。なるほど…と。
こういった辺りは、神道のもっとも面白いところですね…。
精霊信仰(アニミズム)というのは世界中のどこにでも起こったものですが、ここまで観念を深めたのは日本人だけだと思うのです。
なお紀の一書五段では以下の通り。
首 → 大雷
胸 → 火雷
腹 → 土雷
背 → 稚雷
尻 → 黒雷
手 → 山雷
足 → 野雷
女陰 → 裂雷
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