■表記
紀 … 石凝姥命(イシコリドメノミコト)・石凝戸邊
記 … 伊斯許理度売命


■概要
すべてを差し置き特筆すべきは「八咫鏡」を製造した神であるということ。「鏡作」の遠祖。

◎紀の七段一書に、
━━日の神(天照大御神)は天石窟(天岩戸)に籠ってしまった。そこで天兒屋命(天児屋根命)に祈らせることにした。天兒屋命は天香山の土を掘り採った眞坂木(真榊)を上枝に懸け、鏡作の遠祖である天抜戸(天糠戸神)の子、石凝戸邊に作らせた八咫鏡を中枝に懸け、玉作の遠祖である伊弉諾尊の子、天明玉命に作らせた八坂瓊曲玉(勾玉)を下枝に懸け…━━(大意)とあります。
これは天岩戸神話のもの。本文や九段一書には八咫鏡を懸けたとはあるものの、こちらにおいて製造者が記されています。

◎一方で記には、
━━八百万の神々は思金神に策を練らせた。まず常世長鳴鳥を集め鳴かせました。そして「天安之河上」の「天堅石」を取ってきて、「天金山」の鉄を取ってきて、鍛人(かぬち、=鍛冶職人)天津麻羅を探し求め、伊斯許理度売命に鏡を作らせた。玉祖命には「八尺勾之五百之御須麻流之珠(やさかの勾玉のいほつみすまるのたま)」を作らせた━━(大意)とあります。
こちらではより具体的に、原材料採取地から採鉱職人(天津麻羅)や鏡作職人までもが記されています。石凝姥命(伊斯許理度売命)は鉄に「磨き」をかけて鏡にしたということかと思います。

◎「八咫鏡」はおそらく糸島市平原遺跡(未参拝)にて出土した、「内行花文鏡」がこれにあたる、或いはレプリカの一つと考えていますが、そちらは直径46.5cmもあるという巨大なもの。当時の最高技術で鋳造された最上の代物。
定説では伊勢の神宮(記事未作成)にその本体が鎮まるとされ、皇居賢所にそのレプリカが鎮まっています。そして「八咫鏡」が鋳造されるに先当たり造られたものが日前神宮國懸神宮に鎮まるとされます。さらに穴師坐兵主神社にも鎮まっているとも。

◎鏡というものは「人の魂そのものを写し出すもの」として捉えられていたと解されようかと思います。神式の葬儀においては「御霊(御魂)遷しの儀」が行われますが、これは故人の魂を「霊璽」に遷すもの。古代においては遷す先は鏡であり、天孫降臨の際に天照大御神が瓊瓊杵命に天照大神そのものだと思って祀るようにとの神勅を授けたことからも明らか。また豊鋤入姫命や倭姫命が天照大御神の御霊代である鏡を奉戴し、御杖代となり各地を転々としたことからも明らかかと。
「魂そのものを写し出す」ほどのレベルに仕上げるには、最上の技術と最上の精神を以て行われなければならず、ましてや最上の天照大御神のものとなればなおさらのこと。それを担ったのが石凝姥命であると言えます。

◎「鏡作」の遠祖であり、後裔はその職掌から宮廷祭祀をも担っています。
父は天糠戸神(アメノヌカトノカミ)、こちらは大和国城下郡の鏡作麻気神社にて祀られます。
なおニニギ神降臨に随伴した「五伴緒(五部神)の一として記されます。

◎神名から女神とされるのが通説。ただし明確な記述は無く、男神であるとする説も。
國學院大學の「古典」文化学事業、「神名データベース」は名義の「イシコリ」について、
━━「鋳(い)(しこ)り」と見て、鋳造における溶鉄の凝固と解する説や、「石凝」と見て、石を切った鋳型に溶鉄を流して固まらせると解する説がある。ドメは書紀の「姥」表記から、老女と解されるが、他に、その上でトを「祝詞」のような呪的な行為につける接尾語と見た上で、凝る事が呪的な行為とされたと考え、メを女の意と、分析して解する説もある。トメは、トメ・トベという形で人名・神名にも見えて、男女に関わらない名称とする説もあるが、それらの人名・神名の分析から、助詞ツに女性の意のメのついた「の女性」の意であり、女性の首長の号であるとする説がある━━としています。

◎本拠地は大和国城下郡であるとされ、鏡作坐天照御魂神社を始め、「鏡作」社が4社密集しています。また美濃国「各務ヶ原(かがみがはら)郡」、摂津国「覚美郷」、安芸国「香美」などに、鏡作部が拠点とした地名が残っています。さらに石凝姥命を祀る社が越国にも多く見られることから(いずれも未参拝)、そちらにも拠点が広がっていたことが窺えます。越国「加賀」には「鏡庄」があり、「加賀」は「鏡」と関連する地名ではないかとも考えられます。


■祀られる神社(参拝済み社のみ)
*相当数の漏れがあると思われます。発見次第随時追加修正します。
[大和国城下郡] 鏡作坐天照御魂神社
[大和国城下郡] 鏡作伊多神社(田原本町保津)
[大和国城下郡] 鏡作伊多神社(田原本町宮古)
[大和国城下郡] 鏡作神社(三宅町石見)
[美作国] 中山神社

*関連社
[大和国城下郡] 岐多志太神社 … 本来のご祭神は石凝姥命か
[大和国城下郡] 富都神社 … 「式内 鏡作伊多神社」の論社


*主な境内社、配祀・相殿・合祀等
[駿河国] 小梳神社

[伊勢国奄藝郡] 彌尼布理神社

[伊勢国奄藝郡] 逆川神社

[伊勢国河曲郡] 久々志彌神社
[摂津国] 鞴神社(生國魂神社境内社)
[紀伊国名草郡] 日前神宮・國懸神宮(日前神宮の相殿)