第63回②「Penny Lane」(1967)/The Beatles | 柑橘スローライフ

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ビートルズの1967年の作品「Penny Lane(ペニー・レイン)」です。

【ヴァ―スからサビへ】
ヴァ―スの最後の部分は(丸数字はヴァ―スでの小節数)、
1回目が、⑦F♯sus4→F♯7→⑧F♯sus4→F♯7
2回目が、⑦F♯sus4→F♯7→⑧E

Bキーのドミナント(5の和音)である「F♯7」に最後に進むヴァ―スですが、
2回目の本当の最後に、何故か突然サブドミナントの「E」に退行し、
演奏がブレイク(止まる)してしまいます...
ここでのサブドミナントの「E」はかなり違和感があります。

このヴァ―ス部分の歌詞(一番)は、
the banker never wears a MAC in the pouring rain、Very strange!
「銀行家は土砂降りなのに、決してマック(コート)を着ない。とても変!」
という感じで、リヴァプールにいた銀行家のことを「とても変!」と言っています。

同時に、この「Very strange」の部分は、
まさに音楽の面での「E」へのいわば「変」な退行の部分でもあります。
というわけで、「Very Strange」と歌う箇所は、「とても変!」だという事を、
歌詞の内容面だけでなく、音の面でも表しているわけです。

そして続いて........

♪Penny Lane is in my ears~

とすぐに開放的に歌い始めたサビのコードはなんと「A」。
曲は長2度下のAキーにかっしりと転調。
そう、「Very Strange」の部分は、同時に羽化のための変身もしていたわけです。
そして、羽化したての蝶が飛び立つがごとく、
曲はさらなる開放性を得て広がっていくような感じになります。

つまり、ヴァ―スの最後の「Very Strange」の部分は、
(1)歌詞の面での「変」と(2)音的な面での「変」を表現していると共に、
次なる飛躍のための退行という、(3)「変化」のための起点でもあったわけなので、
私はこの箇所を「変・変・変」の「変のトリプルポイント」と考えました(笑)。

ここでの転調手法は、「メジャー調性の長2度の違い」という二つのキーの関係性から、
全てのコードの度数の位置が2度(長短はある)違うわけなので、
前キーのサブドミナント(4の和音のE)と次キーのドミナント(5の和音のE)は、
一緒ということになるので、この「E」をピポットコード(共通和音)にして、
Aキーのドミナントに「変化」していたわけです。
つまり、「BキーのサブドミナントはAキーのドミナント」という関係性を利用して、
「E(5)→A(1)」のドミナントモーションで「Aキーへの長2度転調」をしています。

しかし、Bキーの最後で「決め」を利用しながら、
サブドミナントのままで演奏が止まるというのは、かなり手荒な手法で、
やはり「変態」的と言わざるを得ません。

ちなみに、長2度違いの調性というのは、近親調ではないですが、
比較的近い遠隔調のため、ヒポットコード(共通和音)は「二つ」あります。

さて、サビそのものの進行は、バスラインを強調しながら記しますと、

①A→A/E②A/C♯→A/E③D→D/A④D/F♯→D

基本的には「1・3・4」の循環的進行です。
サビそのものの進行は、いたって健康的でポールらしい明るさです。
問題=変態は、常に連結部、つまり転調の起部に現れるのです。

一方、このサビの「開放性」は、個人的イメージでは、
街角で木漏れ日の輝きが注ぐ中、抜けるような青空を仰ぎ見て、
360度回転するようなビジュアルを連想します。

♪Penny Lane is in my ears、and in my eyes~

「この青空と陽の光を僕は決して忘れないよ」とポールが言っているかのよう。
街角の想い出も然りですが、それよりもっと感じるのが「青空や太陽」。
曇りがちで小雨模様の天気が続く、イギリス人にとっての恐らくの憧れ。
そんな「青空と太陽」が、まさしく開放的に表現されているように感じるのです。

【サビからヴァ―スへの戻り】
そして、もう一度サビを繰り返すと、終わりにまたまた「変態」が現れます。

一回目の①A→A/E②A/C♯→A/E③D→D/A④D/F♯→Dから、
二回目は①A→A/E②A/C♯→A/E③D→D/A④D→F♯(なんと!)

ヴァ―スからサビに入る時と同様に、
今度は同じ要領でサビからヴァ―スに復調しようとするのですが、
コード度数の位置関係から、今度はほんの少し始末が悪くなります。

つまり、元のBキーのドミナント(Ⅴ=5)と一緒の位置の和音は、
Aキーの場合、Ⅵ(6)の和音なのですが、Ⅵ(6)の和音はあいにくマイナーなのです。
だから、6と5の位置関係の場合は、純粋な共通コードにはならず、
AのⅥ(6)の和音は「F♯m」、Bのドミナント(Ⅴ=5)は「F♯」ということになります。

しかし、そこは変態ポール・マッカートニー、というかロック。
直前の「D」の場面で「♪skies I sit and ~」と、
少しがなり目に声を荒らげ(この辺のパフォーマンスも流石です)、
強引にAキーのⅥ(6)の和音に近い「F♯」に進んでいき、
これを元のBキーのドミナントに変化させて、
またもや、ここでもリズムを「決め」てから演奏をブレイク(止める)しています。
なかなか強引な場面ですが、今度はピボットコードを、
3rd音だけ半音違う「F♯」としたわけです。

和声のつなぎ方で見た、全体的な転調の構造は、
ヴァ―スのBキー(BのサブドミナントをAのドミナント化)サビのAキーへ。
サビのAキー(Aの6の和音をBのドミナント化(3rd半音違い))ヴァ―スのBキーへ。

もっとも、オープンフィフス(パワーコード)として見るなら、
堂々の共通和音(ノート)なので、問題は全く無いとも云えますが、
ドミナントモーションを無理矢理に設定して復調した、
という機能和声のゴリ押しと云う感じがどうしても聴感的にはします。
しかし、それだけにここはとても印象的に感じると思います。
また、どちらかというと、ポールというより、ジョンらしい手法にも感じます。

こうした、比較的手荒で強引な転調の際、
ビートルズの楽曲に共通して見られるのが、リズム的な「決め」と
演奏を一旦止める「ブレイク(一旦停止)」という、いわばショック療法。
ですので、この曲のこの部分も典型的なビートルズらしい場面と言えると思います。

また、サビの最後では、「Bキー」へも転調します。
Aキーで進行するサビから、上で述べた強引なヴァ―スへの復調の仕方をそのまま利用して、
今度はサビそのものをBキーへという長2度上の転調でコーダに持っていきます。
これはビートルズ楽曲に限らず、様々な音楽ジャンルに見られる最終場面での盛り上げ方で、
一般的にはこういう最後の盛り上げは半音上昇等が特に多いのですが、
この曲では、もとのヴァ―スのBキーにまとめた形になっています。
つまり「Bに始まり、Bに終わる」という形に意図的にしていると思われるのです。

【サウンド面】
この曲でよく言及されるのは、ピッコロトランペットによるソロです。
これは有名なため、深掘りせず少しだけ触れますが、
2011年に亡くなられたトランペット奏者David Masonによる演奏のものです。
リンクした動画のDavid Masonの前にペニー・レインの楽譜が置かれています。
よく見ると、調号が♯二つ、すなわち「D」キーになっています。これには驚きました。
再三述べている通り、この曲の主キーは「B」、短3度高いのか、長6度低いのか、
そこが問題ですが、とにかく実際に演奏されたキーは「D」だったようなので、
ピッチは調節されているということになりますね。
ピッコロトランペットの楽器としての特性からそうしたのかもしれません。

そして、このピッコロトランペット(ピッコロではありません)に限らず、
管楽器全体のアレンジはとても効果的で安定感を感じます。
非常にコンサバティブでどっしりしたアレンジのため、
クラシックプロデューサーでもあるジョージ・マーティンのアレンジなのでしょう。

特に、サビの部分で触れたBへの転調の直前の「最後のAキーのサビ」の部分だけ、
位相的に右スピーカーから、何らかのブラス楽器の音で、
「E音」がペダルポイント(同一音の持続)として鳴らされ続けます。
「E音」はAキーにおけるドミナントであり、終了を予期させるものです。
しかし、「A」では終了せずに「B」に最後は転調して終わるわけです。
つまり、直前のE音の強調は、「B」とのギャップ効果が高まる手法と言えるわけで、
ジョージ・マーティンのディテイルに対する関心をひしひしと感じさせます。
こうした細かな作業の積み重ねもビートルズ楽曲の豊かさの一つと言えます。

それにしても、最後の「B」への転調の際に聞こえる爆発音のようなものは何でしょうか。
大砲のようにも聞こえます。何らかの現実音をSEとして使ったのでしょうか。
もし、大砲ならば、やはりチャイコフスキーを意識しているのかもしれません。
チャイコフスキーの「1812年」序曲も実際の大砲を打つからです。

また、サビにおいてのリード・ヴォーカルの上につくハーモニーですが、
個人的な判断では、ジョン・レノンの声だと思っています。
このコーラスはポールの多重録音だとする説もあるようなのですが、
少し苦しそうな声質は、ジョンのファルセット気味の声だと思います。
ポールの声でこの高さならば、こんなファルセットにはならないと思うのです。

つまり、ビートルズのコーラスワークの中で非常にレアなケース。
通常のポールの高さよりも上をジョンが歌うという稀なケースだと思うのです。
通常の高さで歌うポールの曲で、ジョンが上を歌うというパターンは、
この曲ぐらいではないでしょうか。調べていないのでわかりませんが。
(ジョンの曲でポールが下を歌うことはあると思います。Come Togetherなどです)

もし公式なスタジオセッション記録等で、ポールの多重録音らしいということならば、
このコーラスにおいてポールは、明らかにジョンの歌い方を模していると思われます。
ポールはジョンの声をちょくちょく真似したりします。
(ソロのThe Pound Is Thinkingのヴァ―ス、特に2番がそうですね)

一方、テンポが明らかに「歩行のテンポ」になっており、
体感的に「通りを快活に歩く」様子がイメージしやすいと感じます。
テンポは概ね、四分音符=114~116程度で、「元気に歩く」感じのスピードです。
散歩というより、少し早歩き、ウォーキングという感じ。
これはビートルズもジョージ・マーティンも意識していなかったかもしれません。
(それにしても、この曲でのリンゴ・スターのタイムキーピングは酷いです。
110~116辺りでかなり乱れています。この曲に限定されないかもしれませんが)

そして、最後の最後は何なのでしょうか。
明らかに何らかの楽器がハウッ(ハウリング)ているわけですが、
そこに何とリンゴ・スターがトップシンバルのかなり細かな連打を被せています。
本来、カットすべき部分を音楽として変えてしまっているわけです。
ビートルズがやることはなんだか全て「創作物」になってしまうようです。
これが最後に現れるこの曲の「変態」の要素です。

(③に続きます)
第63回③「Penny Lane」(1967)/The Beatles



ロック名曲百選/過去記事一覧

★第1章「ロック名曲・アトランダム編」
第1回「Sexy Sadie」(1968)/The Beatles
第2回「Ask Me Why」(1963)/The Beatles
第3回「Epitaph」(1969)/King Crimson
第4回「Speak To Me~Breath」(1973)/Pink Floyd
第5回「You Never Give Me Your Money」(1969)/The Beatles
第6回「Achilles Last Stand」(1976)/Led Zeppelin
第7回「Babylon Sisters」(1980)/Steely Dan
第8回「What A Fool Believes」(1978)/The Doobie Brothers
第9回「New Kid In Town」(1976)/Eagles
第10回「Your Mother Should Know」(1967)/The Beatles
第11回「Take It Away」(1982)/Paul McCartney
第12回「Pretty Maids All In A Row」(1976)/Eagles
第13回「I'm Not In Love」(1975)/10CC
第14回「A Whiter Shade Of Pale」(1967)/Procol Harum
第15回「Give Me Strength」(1974)/Eric Clapton
第16回「We Are The Champions」(1977)/Queen
第17回「Honky Tonk Women」(1969)/The Rolling Stones
第18回「Miss You」(1978)/The Rolling Stones
第19回「My Ever Changing Moods」(1984)/The Style Council
第20回「Hey Bulldog」(1968)/The Beatles
第21回「Here Today」(1982)/Paul McCartney
第22回「Alone Again(Naturally)」(1972)/Gilbert O'Sullivant
第23回「Good Night」(1968)/The Beatles
第24回「The Nightfly」(1982)/Donald Fagen
第25回「It's Too Late」(1971)/Carole King
第26回「Happy Xmas」(1971)/John Lennon
第27回「Better Make It Through Today」(1975)/Eric Clapton
第28回「Tell Her About It」(1983)/Billy Joel
第29回「Don't Look Back」(1978)/Boston
第30回「Don't Stop The Dance」(1985)/Bryan Ferry
第31回「Eggplant」(1975)/Michael Franks
第32回「Words」(1982)/Bobby Caldwell
第33回「Everybody Needs Love」(1978)/Stephen Bishop
第34回「Born To Be Wild」(1968)/Steppenwolf
第35回「I Keep Forgettin'」(1982)/Michael McDonald
第36回「Come On Eileen(1982)/Dexys Midnight Runners
第37回「Alive Again」(1978)/Chicago
第38回「Roxanne」(1978)/The Police
第39回「How Deep Is Your Love」(1977)/Bee Gees
★第2章「ロック名曲・ロックのルーツ編」
第40回「Rock Around The Clock」(1954)/Bill Haley & His Comets
第41回「Johnny B Goode」(1958)/Chuck Berry
第42回「Rock And Roll Music」(1957)/Chuck Berry
第43回「Long Tall Sally」(1956)/Little Richard
第44回「Heartbreak Hotel」(1956)/Elvis Presley
第45回「Blue Suede Shoes」(1956)/Carl Perkins
第46回「Peggy Sue」(1957)/Buddy Holly
第47回「Slow Down」(1958)/Lally Williams
第48回「Only The Lonely」(1960)/Roy Orbison
第49回「Wake Up Little Susie」(1957)/Everly Brothers
★第3章「ロック名曲・ロックの確立期編」
第50回「Please Please Me」(1963)/The Beatles
第51回「This Boy」(1963)/The Beatles
第52回「All My Loving」(1963)/The Beatles
第53回「Tell Me」(1964)/The Rolling Stones
第54回「Blowin' In The Wind」(1963)/Bob Dylan
第55回「Pretty Woman」(1964)/Roy Orbison
第56回「Help」(1965)/The Beatles
第57回「Here,There And Everywhere」(1966)/The Beatles
第58回「Paint It,Black」(1966)/The Rolling Stones
第59回「You Really Got Me」(1964)/The Kinks
第60回「I Get Around」(1964)/The Beach Boys
第61回「Sunshine Of Your Love」(1967)/Cream
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第62回②「Strawberry Fields Forever」(1967)/The Beatles
第63回①「Penny Lane」(1967)/The Beatles




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