第40回「Rock Around The Clock」(1954)/Bill Haley | 柑橘スローライフ

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「ロック名曲百選」も40回台に突入しましたので、
このあたりから、ロックの原点ともいえる曲をいくつかピックアップしようと思います。

手始めは、やはり「ロック初の大ヒット」である、
Bill Haley & His Comets/ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの
「Rock Around The Clock(ロック・アラウンド・ザ・クロック)」です。



私は、この曲のことを、洋楽を聴き始めた頃にはすぐに認識したのですが、
実は、その頃からつい最近まで、この曲を「ロックの第1号」だと思い、
また「1955年のリリース」という風に頭の中に刷り込んでいました。
その頃に読んだ本に書かれていたことを鵜呑みにしてしまったのだと思いますが、
私の中では「ロックという音楽は、この曲によって55年に誕生した」という認識だったのです。

しかし、実際には、リリースは54年で、翌55年の映画「暴力教室」により運よく大ヒット。
そして、この頃にはロック(&ロール)は既に存在しており、
この曲はあくまで、「ロック初の大ヒット」であるという事実を知ったのでした。
とはいえ、この曲をして「ほぼロックの誕生といえる曲」という認識で誤りはないとは思います。
そう、今年2014年というのは、概ねではありますが「ロック誕生60周年」にあたるわけですね。

創成期のロックには、いくつかの音楽的なオリジン(起源)があったわけですが、
その最も大きなものは、黒人系のブルースで間違いないでしょう。
ロックにも、ジャズにも、R&Bにも、ソウルにも通底している音楽的な意味での根源です。
次いでは、白人系のカントリー&ウェスタンあるいはヒルビリーと呼ばれるもの。
ブルースほどの要素ではないですが、黎明期においては重要だったろうと思います。
(同時期のロカビリーはロックとヒルビリーの合わさった造語)

このふたつの要素が混じったり、混じらなかったり、という感じがロックの始まりで、
この頃の代表的アーティストも、黒人のチャック・ベリー、リトル・リチャードに対して、
白人はジェリー・リー・ルイスやエルヴィス・プレスリーらと、拮抗し混在しています。
しかし、黒人アーティストが演奏する音楽が「ロック」と言われたのは、
後のジミ・ヘンドリックスやレニー・クラヴィッツのような
ごく僅かな例外を除けばこの頃だけで、黒人が行う「ロック」に近い種類の音楽は、
以降、基本的にはR&Bやソウル、あるいはコンテンポラリーのいずれかのジャンルに、
半ば自動的にさせられるという暗黙の了解や白人側の意向があっただろうと、
歴史を俯瞰するとそう感じざるを得ません。
ロックの生みの親と言ってもいいのが、黒人のチャック・ベリーだと考えると、
この事実はかなり不思議なことだと言えないでしょうか。
「黒人の作った金の成る木(ロック)を、白人が自分たちの物としてすりかえた」
穿った見方をすれば、こんなところが実相なのではないかと思えます。

さて、黎明期のロックの楽曲の構造はどういうものだったのでしょうか。
ビル・ヘイリーは、白人のロカビリー系のシンガーであったわけですが、
この曲では、全編「ブルース進行が基調」となっています。
ブルース進行というのは、音楽的には完全な「決まりごと」で、
12小節という定型枠の中で、Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ→Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ(1・4・1・5・4・1)と進行します。
(最後をⅤとする等、経過コードには多少のヴァリエーションがあります)

この曲も基本的には、このブルース進行でできており、
和声だけに限っては、まだ旧態依然としたままです。
「なら、ロックじゃなくて、ブルースじゃないか?」と思われるかもしれませんが、
この曲がロックたる所以は、おそらくリズム面の変化がもたらした進化だろうと思います。
それにより、聴感的にも、あまりブルースのようには聞こえないと思います。
(ちなみに、昭和歌謡におけるブルースは、本当の意味でのブルースではなく、
ムーディーな音楽に対して、なんとなく「語感」だけでブルースとつけたようです)

伝統的なブルースは、多くの場合、ゆったりした12/8拍子などで演奏される場合が
多いのですが、この曲のリズムは4/4拍子でテンポの速い快活なフォービートです。
ブルース特有の重苦しさや苦悩の表現から、快活な明るさや幸福感の表現への進化。
このあたりが、創成期のロックの特徴のひとつなのだろうと思います。
さらにいえば、第二次大戦後、そして朝鮮戦争直後の「強きアメリカ」が、
カルチャー面でいやがおうにも露出したひとつの現象、
それが「ロック」だったとも言えるのではないでしょうか。

それでは、ブルースとロックの表現面を簡単に比較してみます。
例えば、古典的なブルースの詩をイメージすると、こんな感じです。

 ♪毎日、毎日、俺たちゃ働きっぱなし。
  そうさ、毎日、毎日だ。
  しかし、楽になんてなりゃしない。
  でもお天道様は、決して俺たちを見捨てたりはしないさ♪

こういう曲が実際にあるわけではないですが、黒人の労働歌であるブルースが
泣き節としてテーマにするような古典的な内容は、概ねこのような感じだと思います。
これをゆっくりとしたテンポで朗々と歌うわけです。
反して、この「ロック・アラウンド・ザ・クロック」では、

 ♪午前1時、2時、3時、4時、ロックだぜ!
  さあ、はしゃごうよ。
  今夜は夜通し、ロックだぜ!
  昼の光がさすまでは、
  俺たちゃロックだ、夜通しさ♪

適当に端折りましたが、大体こんな内容ですね。
これを速いテンポで小気味よく歌うわけで、脳天気ともいえます。
見てもお判りの通り、上のブルースの内容とは、大きく対照的です。
このあたりがまさにブルースとロックの違いと言え、
いわば「陰から陽へ」、「スローからファストへ」の変化と言えます。
また、当時のアメリカの勢いそのものが表現されているという気もします。
この曲にのせて、昼夜フル稼働の自動車工場で量産される、
車幅のある図体のでかいアメリカ車の動画が映し出されたら、
まさにピッタリな画像になるような気がします。

それにしても、この時期のバンドは、ジャズバンドの楽器編成とさして変わらず、
まさに「変化」の胎動の場面なのだなということを感じさせてくれますね。

第41回「Johnny B Goode」(1958)/Chuck Berry



ロック名曲百選/過去記事一覧

第1回「Sexy Sadie」(1968)/The Beatles
第2回「Ask Me Why」(1963)/The Beatles
第3回「Epitaph」(1969)/King Crimson
第4回「Speak To Me~Breath」(1973)/Pink Floyd
第5回「You Never Give Me Your Money」(1969)/The Beatles
第6回「Achilles Last Stand」(1976)/Led Zeppelin
第7回「Babylon Sisters」(1980)/Steely Dan
第8回「What A Fool Believes」(1978)/The Doobie Brothers
第9回「New Kid In Town」(1976)/Eagles
第10回「Your Mother Should Know」(1967)/The Beatles
第11回「Take It Away」(1982)/Paul McCartney
第12回「Pretty Maids All In A Row」(1976)/Eagles
第13回「I'm Not In Love」(1975)/10CC
第14回「A Whiter Shade Of Pale」(1967)/Procol Harum
第15回「Give Me Strength」(1974)/Eric Clapton
第16回「We Are The Champions」(1977)/Queen
第17回「Honky Tonk Women」(1969)/The Rolling Stones
第18回「Miss You」(1978)/The Rolling Stones
第19回「My Ever Changing Moods」(1984)/The Style Council
第20回「Hey Bulldog」(1968)/The Beatles
第21回「Here Today」(1982)/Paul McCartney
第22回「Alone Again(Naturally)」(1972)/Gilbert O'Sullivant
第23回「Good Night」(1968)/The Beatles
第24回「The Nightfly」(1982)/Donald Fagen
第25回「It's Too Late」(1971)/Carole King
第26回「Happy Xmas」(1971)/John Lennon
第27回「Better Make It Through Today」(1975)/Eric Clapton
第28回「Tell Her About It」(1983)/Billy Joel
第29回「Don't Look Back」(1978)/Boston
第30回「Don't Stop The Dance」(1985)/Bryan Ferry
第31回「Eggplant」(1975)/Michael Franks
第32回「Words」(1982)/Bobby Caldwell
第33回「Everybody Needs Love」(1978)/Stephen Bishop
第34回「Born To Be Wild」(1968)/Steppenwolf
第35回「I Keep Forgettin'」(1982)/Michael McDonald
第36回「Come On Eileen(1982)/Dexys Midnight Runners
第37回「Alive Again」(1978)/Chicago
第38回「Roxanne」(1978)/The Police
第39回「How Deep Is Your Love」(1977)/Bee Gees



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