第30回「Don't Stop The Dance」(1985)/Bryan Ferry | 柑橘スローライフ

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ブリティッシュ・ニューウェーブロックの雄とも言えるロキシー・ミュージックの傑作で、
ラストアルバムとなった「Avalon(アヴァロン)」がリリースされたのが1982年。
そしてその3年後、ソロとなったBryan Ferry/ブライアン・フェリーが1985年に放ったアルバム、
それが「Boys And Girls」である。
基本的にロキシー・ミュージック時代からの「デカダンなダンディズム」とでもいった空気感は
そのまま踏襲され、傑作と呼べる作品に仕上がっている。
その中から、シングルとしてヒットしたのが、「Don't Stop The Dance」。
久々に聞いてみたが、バブル前夜のような当時の空気感がひしひしと伝わってくる。



ブライアン・フェリーといえば、所謂伊達男であり、どう見てもかなりのナルシストに思える。
おそらく、「鏡」が好きでたまらないタイプの人間とも映るが、
そういった自己愛的なテイストや志向を、そのまま高い音楽性にまで反映させているという
意味では非凡な才能を持っている。楽曲構成に高い構築性があるわけでは決してないが、
理屈を抜きにしたセンス、いわゆる感性の部分で押し切っているタイプの音楽と言える。
そして、彼自身が持つ雰囲気と音楽性は完全にシンクロしていて、彼の音楽作品というのは、
言うなれば、自身を体現する「ポートレート」のようなものと言えるかもしれない。

この曲の構造はいたってシンプル。キーはAmで転調無し。
ヴァ―ス、サビともに同じ3コードパターン。Em7→Dm7→Am7なので、D(ドミナント)→
SD(サブドミナント)→T(トニック)となり、ヴァ―スとサビは全く同じコード進行。
和声の持つドミナントモーション、Ⅴ(ドミナント)→Ⅰ(トニック、主和音)への
収縮・解決作用の拡張形(SDを経過コードとする)のみを使って執拗な進行を繰り返す。
しかし、このような、ごく単純な曲の構造でこれだけの雰囲気を醸し出すのだから、
サウンドデザイナーとしてのブライアン・フェリーはやはり非凡と言うべきだろう。
私見だが、実際にこの曲を演奏するのならば、サビのSD(Dm7)の部分は、
Am6/DまたはF△7/Dという風に多少変化させたほうが面白い。
よりアーバンな雰囲気になると思う。

この「Don't Stop The Dance」もそうなのだが、フェリーのサウンドはミドルテンポの上に、
短いユニット的なパターン反復が多く、それがある種の催眠効果のような恍惚感を創りだす。
もしかすると「反復性の権化」と言える仏近代音楽のサティ(1866~1925)の影響や
スティーブ・ライヒなどのミニマルミュージックの影響があるのかもしれない。
サティを崇拝するロキシー時代の同僚、ブライアン・イーノを介して、
グループ時代にそうした志向性が既に飛び火のごとくインフルエンスしていた可能性もある。

また、ブライアン・フェリーの歌唱法は、
同世代から次世代にかけてのニューウェーブ系のシンガーにかなり影響を与えたと思われるが、
基本的には声量や声域の乏しさをフェイクできるタイプのものである。
つまり、歌が苦手な人でも上手く聞かせることのできる「発明」である。
似たような歌い方をする連中が当時結構現れたが、元祖はフェリーやデヴィッド・ボウイで
あることは間違いなく、ロックの歌唱法にひとつのヴァリエーションと利便性を見出し、
多くのエピゴーネンを輩出させ、ベンチマークになったという意味では、
功罪混在ではあるが、ロック史に確実に残るアーティストと言える。

話は変わるが、1970年代中盤頃より、ソロ系のアーティストによる、
一流のジャズフュージョン系のスタジオミュージシャンの起用が多くなってきた。
古くは1973年のジョン・レノン「マインド・ゲームス」で、NYのゴードン・エドワーズや
マイケル・ブレッカー、デヴィッド・スピノザらが参加したあたりに源流があると言えるが、
奔流となったのは、マイケル・フランクスの1975年の「アート・オブ・ティー」や
スティーリー・ダンの1976年「幻想の摩天楼」、77年「エイジャ」あたりだろう。
その流れは80年代に継続していくと同時に、英国系のミュージシャンにも波及していった。
このフェリーのアルバムが出た1985年がおそらくこうした傾向のピークであっただろうと思う。

このフェリーのアルバム「Boys And Girls」も素晴らしいメンバーが参加している。
(ディスクを持っていないので、クレジットの確認はできないが)
いわゆるジャズフュージョン系の「ファーストコール」の連中としては、
マーカス・ミラー、デヴィッド・サンボーン、オマー・ハキムあたりが参加。
そして、当時飛ぶ鳥を落とす勢いであったシックのナイル・ロジャースや
スティーリー・ダンにも参加経験のあるダイアー・ストレイツのマーク・ノップラ―。
また、確かクリムゾンのトニー・レヴィンも参加していたと思う。
そして、何と言っても個人的に興奮したのが、デヴィッド・ギルモアの全面参加だ。
ギルモアファンの私としては、これだけでも聴く価値十二分。
当時、ブライアン・フェリーとピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアの取り合わせに、
頭から疑問符がしばらくとれなかったことが懐かしい。
どうやら、この二人、年齢がほぼ一緒のようだ。

この「Don't Stop The Dance」におけるギターは、じっくりヘッドホンで聴いてみると、
マーク・ノップラ―、ナイル・ロジャース、デヴィッド・ギルモアの三人が、
共にそれぞれ彼ららしいプレイスタイルで参加しているのがわかる(多分だが)。
位相的に左側がロジャース、右側がノップラ―で、真ん中がギルモア(イントロがわかりやすい)
と思われる。それぞれ典型的な彼ららしい音を出している(多分だが)。
ロジャースとノップラ―がリズム、ギルモアが音数の少ないリードといった役割分担。
もしかすると、ナイル・ロジャースだけは違うかもしれないが、他の二人は間違いないと思う。
特にサビでの、音数の少ないギルモアのヴォーカルフォローのオブリガートは素晴らしい。
ギルモアというギタリストは、引き算の美学とでも呼べる無駄のない一音一音の
アプローチが魅力の一つである。この曲ではトーンの違う2本のギターを弾いていると思う。
考えてみると、ギターのメンバーだけは、ロックやR&B系のミュージシャンで占められている。
ロキシー時代から、独特のギターのリフが印象的なため、この辺りはフェリーのこだわりだろう。
それにしても、ギターのバッキングプレイの好きなむきにはおそらくたまらないナンバーだ。
因みに、アルバム「Boys And Girls」にはロキシー時代のメンバーは参加していなかったと思う。

また、途中のアルトソロはデヴィッド・サンボーンだとは思われるが、
当時、彼がよく出していた音とは少し違和感がある。
(BackstreetやStraight to the Heartの時代である)
サンボーン独特の「むせび」のようなものに若干乏しいのである。
曲調に合わせているのか、エフェクターのようなものをかけているのでそのせいだろうか。
エモーショナルなフレージングは確かにサンボーンらしいが。

ちなみに、ブライアン・フェリーのミュージシャンの起用法は、
基本的にはスティーリー・ダンと同じような「適材適所型」と言える。
反して、同時期にソロ第一弾を出し、ジャズ系のメンバーを起用したスティングは、
しっかりじっくりとしたバンド音楽にこだわったのか、言うならば「パーマネント型」であり、
同時期に同様に、バンドからソロになった二人であるが、
次なる動きは、見事に対比しているなと当時は感じたものである。

それにしても、PVの画像は思わず微笑んでしまう。
フェリーのナルシズムもそうなのだが、バブル期のバーなどには、小さなモニターが
何だか知らないけれど沢山ついていたのだが、このPVの画像が、そこから流れていたような
当時の映像そのものであるからだ。しかし、サウンドは30年近くも経過しているというのに、
古さを殆ど感じさせない実に素晴らしいものである。

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